白い壁に映したのは、薄い灰色の幽霊だった
シェアハウスのリビングに、住人がプロジェクターを持ち込みました。ネットで買った一万円台のもの。
夜に試したときは歓声が上がりました。壁一面に映画。全員でソファに集まって、その日は盛り上がった。
問題は翌日です。休日の昼、サッカーを観ようと電源を入れた。
あれ、何も見えない
かろうじて輪郭は分かる。でも選手のユニフォームの色が判別できない。全体が白っぽく霞んで、まるで壁に息を吹きかけたような状態でした。
原因の九割は部屋の明るさで、プロジェクターの性能ではありません。カーテンを替えるだけで、多くの場合は解決します。
投影は、光を足す仕組みじゃない
暗い部分を作れないから、白飛びする
テレビは黒い画素を消灯させて暗さを表現します。プロジェクターは光を当てて明るい部分を作るだけで、暗い部分は光を当てないという引き算しかできない。
部屋が明るいと、その光を当てていない部分にも室内の光が乗ります。黒が黒くならず、全体が白っぽくなる。
コントラストが潰れた状態です。明るさが足りないというより、暗さを作れていない。
だから、機械を明るくするより部屋を暗くするほうが効く
うちで検証しました。同じプロジェクターで、カーテンを閉めた状態と開けた状態を比較。
遮光カーテンを引いただけで、映像が別物になりました。買い替えを検討していた住人が、その場で考えを変えたくらい。
ルーメンの数字に、罠がある
安価な製品の表記は、実測と乖離する
販売ページに一万ルーメンと書いてあっても、実際の明るさがその数字通りとは限りません。
うちの住人が買ったものも高い数値が書かれていましたが、実際の見え方は明らかにそれ以下でした。
信頼できるのはANSIルーメンという規格に基づく表記です。この単位で書かれていない製品は、数字を鵜呑みにしないほうがいい。
昼間に使うなら、実質二千ANSIルーメン以上
目安を出します。完全に遮光した部屋なら五百から千。薄暗い状態で千五百から二千。カーテンを閉めた昼間の部屋で二千から三千。
明るい室内で普通に見たいなら三千を超える製品が要ります。この帯は価格が跳ね上がる。
うちのものは実質五百程度だったと思われます。夜専用として使うぶんには十分でした。
投影サイズを小さくすると、明るくなる
同じ光の量を狭い面積に集めるので、単位面積あたりの明るさが上がります。
百インチで映していたものを六十インチに縮めたら、昼間でも見えるようになりました。うちで最初に効果が出た対策がこれです。
迫力は減ります。でも見えない百インチより、見える六十インチのほうが実用的でした。
遮光を、順番に固めていく
効果の大きい順に並べます。
まず窓、遮光一級のカーテンに替える
遮光には等級があります。一級が最も光を通さない。
うちのリビングは薄いレースだけだったので、遮光一級のカーテンを追加しました。三千円台。これで昼間の視聴が成立するようになった。
丈が足りないと、上下の隙間から光が入ります。カーテンレールの上を覆うカバーを付けると、さらに暗くなる。
窓枠と壁の隙間を塞ぐ
カーテンの両端から漏れる光が、意外と効いています。カーテンを壁に画鋲やクリップで留めて、隙間をなくす。
住人が試したところ、両端を留めるだけで体感が変わりました。数十円の対策です。
照明を消し、天井の反射を減らす
室内灯は当然消します。加えて、白い天井が窓からの光を反射してスクリーンに落ちていることがある。
うちは投影する壁の対面に、濃い色の布を掛けました。反射光が減って、黒がしまった。
時間帯を選ぶという逃げ道
南向きの部屋の正午と、夕方では条件が全然違います。どうしても見たい時間が決まっていないなら、光の弱い時間に回す。
スクリーンを替えると、体感が上がる
白い壁は、実は不利
壁紙には凹凸があり、光を拡散させます。ざらついた表面が映像の輪郭を甘くする。
うちの壁は細かい模様が入っていて、明るい場面でその模様が浮き上がっていました。
ゲイン値の高いスクリーンで、明るさを稼ぐ
スクリーンには反射率を示すゲインという数値があります。数値が高いほど、正面に光を強く返す。
ゲイン一・五程度のものを導入したら、同じプロジェクターで明るさが増しました。ただし斜めから見ると暗くなるので、視聴位置が正面に限られます。
環境光を吸収するタイプが、決定打になる
横や上からの光を吸収し、プロジェクターからの光だけを反射する構造のスクリーンがあります。
価格は張ります。一万円台から。ただし明るい部屋での効果は、カーテン以外で最も大きい。
うちは導入していませんが、リビングを暗くできない家なら検討する価値があります。
設定でできる、最後の調整
明るさ優先のモードに切り替える
シネマモードは色を優先して明るさを落とします。昼間はダイナミックやブライトと名の付くモードへ。
色味が青白くなりますが、見えないよりはいい。
省電力設定を切る
バッテリー駆動の製品は、電源に繋いでいないと出力を落とすことがあります。必ずコンセントに挿す。
うちの住人はこれに気づかず、しばらくバッテリーで使っていました。繋いだ瞬間に明るくなって、全員で笑った。
ランプの劣化を確認する
使用時間が長い機種は、光源が弱っている可能性があります。設定画面で累計時間が確認できることが多い。
レンズの汚れも見る。ホコリが乗ると光量が落ちます。柔らかい布で拭く。
台形補正を使うと、明るさが落ちる
斜めから投影して補正をかけると、画面の一部を切り取る処理が入ります。結果として明るさも精細さも下がる。
正面から、水平に設置する。これが基本です。
買い替えるなら、何を見るか
ここまでやって足りなければ、製品の性能不足です。
ANSIルーメンで表記されているものを選ぶ。二千を超えると価格帯が変わりますが、昼間に使うならここが最低線。
光源の種類も見ます。LEDやレーザーは寿命が長く、明るさの維持も良い。ランプ式は交換が必要になります。
うちの住人は結局、買い替えませんでした。遮光カーテンと投影サイズの縮小で、昼間の視聴が成立したので。
そもそも昼間に使うなら、テレビが正解
身も蓋もない話をします。明るい部屋で毎日見るなら、テレビのほうが向いています。
プロジェクターの強みは、大画面を安く作れることと、使わないときに片付けられること。暗い部屋で映画を見る体験に特化した道具です。
うちのリビングは、いま夜だけ映画館になります。昼はプロジェクターを棚にしまい、誰も文句を言わない。
カーテンを引く音がして、部屋が暗くなる。あの瞬間の切り替わりが、けっこう気に入っています。

コメント