春の焼肉で警報器が鳴った家が、夏に三台を比べた
四月の終わり、うちのシェアハウスのリビングで、火災警報器が鳴りました。
犯人は焼肉。普通のホットプレートで牛カルビを焼き始めて十五分、天井の照明の下に白い層がたまり、その層が警報器の高さに届いた瞬間、ピーピーという電子音が家中に響いたんです。
八人が同時に立ち上がって、窓を全部開けて、団扇と雑誌で天井をあおぐ。管理会社に事情を説明したのは私。翌週、リビングでの焼肉は煙の出ない機材に限る、という新しい家のルールができました。
そこから夏の終わりまで、うちは三種類の煙が出ないホットプレートを、同じ条件で使い続けています。
ピーピーと鳴った夜、天井に白い層があった
あの夜のことで覚えているのは、音より先に、目にしみたことです。
テーブルの上では肉の脂がジュッと音を立てているだけなのに、視線を上げると照明の光の中を煙の筋が横に流れている。喉の奥がいがらっぽくなり、隣に座っていたユナの目が赤くなっていました。
(これ、まずいやつだ)
そう思った三秒後に鳴ったのが、あの音。
警報器を止めたあと、部屋には二日、肉の匂いが残りました。
同じ肉、同じ窓、同じ八人で試す
比べる条件は毎回そろえました。
牛カルビと豚バラを各五百グラム、塩だけで焼く。タレ漬けの肉を最後に一皿だけ足す。窓は一か所だけ開け、換気扇はキッチンにしかないので回さない。参加は八人、開始は19時。
見るのは五つ。照明の下に煙の筋が見えるか、翌朝のカーテンの匂い、テーブルに敷いた白いキッチンペーパーの油の点、焼き上がり、片付けにかかった時間。
三台は、ユナが九州の実家から持ってきたイワタニのやきまる、ソウタが単身赴任の父親から譲り受けたザイグル、それから家のお金で買った山善の吸煙式グリルです。
「うち、これで週二で焼肉してましたよ」
ユナはそう言って、旧型のやきまるの水皿に水を注ぎました。
煙が出ないは本当か
煙の正体は、熱いプレートの上で気化した脂
先に仕組みを押さえておくと、三台の違いが読めるようになります。
肉を焼くと煙が出るのは、肉から流れ出た脂がプレートの上で熱せられて気化するから。脂を受け皿や水に落とせば煙は減る。
プレートが高温になるほど、煙は増える。
だから対策は三通りしかありません。プレートの温度を上げすぎない。脂をすぐ下へ逃がす。出た煙を吸って捕まえる。
やきまるは一つ目と二つ目、ザイグルは一つ目を極端にやった形、吸煙式は二つ目と三つ目です。
やきまるは湯気、ザイグルは無音の無煙、吸煙式はファン次第
やきまるは、カセットガスの直火なのに煙が少ない。バーナーとプレートの間に熱がこもる構造で、プレート表面が約210度から250度に保たれ、脂が煙になる温度に達しにくい。
開発者は、250度以下なら煙は出にくいが210度を下回ると肉の水分が抜ける、とこの温度帯の理由を語っています。
プレートには傾斜と隙間があり、脂は約230ミリリットルの水を張った受け皿に落ちていく。
照明の下を見ると、上がっているのは白い湯気で、横に流れる灰色の筋はほとんどない。タレ肉を載せた一皿だけ、焦げた砂糖の匂いと一緒に細い煙が立ちました。
ザイグルは、上のカーボンヒーターから赤外線で焼く方式。輻射熱で食材を直接加熱し、プレートは伝導熱の補助に回るから、プレートの温度を煙が出るほど上げる必要がない。
照明の下に、何も見えない!湯気すら薄い。八人で焼いて、煙らしい煙を一度も見なかったのはこの一台だけでした。
吸煙式は、プレートの横の吸い込み口からファンで煙を引く方式。山善の上位機は、自社の普通のホットプレートと比べた発煙性試験で、煙を94パーセントカットしたとしています。
プレート裏のX字の溝で脂を素早く落とし、水を張った受け皿で受ける仕組みも併用。
ファンを回している間は、煙の筋が吸い込み口へ吸われていくのが目で見える。ゴォーという音と引き換えに。ファンを止めると、普通のホットプレートより少ない程度に戻ります。
口コミで繰り返されているのは、完全な無煙ではなく換気は要る、という一言。
三台を使ったうちの答えも同じで、煙出ないは減煙の言い換えです。無煙を期待して買うと、最初の一回で落ちます。
匂いは残らないのか
煙と匂いは別物だった
ここが取材で最も意外だった点で、煙が少ない機材でも、肉を焼く匂いは普通に立ちます。
やきまるの説明でも、匂いも脂の飛びもゼロではないと明言されている。
箱には煙を抑えるとは書いてあるけれど、匂いを抑えるとは書かれていない。
脂が焼ける匂いそのものは、煙にならなくても空気に乗る。煙は匂いをカーテンや髪に運ぶ荷車のようなもので、荷車を減らせば運ばれる量は減るけれど、荷物自体は消えない。
翌朝のカーテンで順位が付いた
翌朝、リビングのカーテンに鼻を近づけるのが、この夏の私の日課でした(笑)
(今日は薄い…いや、まだいる)
普通のホットプレートの夜は、二日残った。やきまるは翌朝に薄く残り、昼には抜けた。吸煙式はやきまるとほぼ同じで、ファンを最後まで回した回は少し軽い。ザイグルは、翌朝にはほとんど分からない。
順位はザイグル、吸煙式、やきまる、普通のホットプレートの順。
ただ、この差は窓一か所の条件での話です。換気扇を回し、もう一か所窓を開けて空気の流れを作れば、どの機材でも匂いはかなり軽くなる。
火災警報器は鳴らないのか
煙式か熱式かで、話が変わる
四月に鳴ったうちの警報器は煙式でした。
住宅用の火災警報器は、条例で多少異なるものの煙式が基本で、焼肉程度の煙でも作動することがある。
台所のように煙が出やすい場所には熱式が使われることが多い。
夏の間、三台のどれでも警報器は鳴りませんでした。ただしこれは、リビングの警報器がテーブルから三メートル以上離れていて、窓を開けていた条件での結果。
機材が減煙でも、警報器の真下で焼けば話は別です。
賃貸で試す前に済ませる三つ
警報器の本体を見上げて、煙式か熱式かを確かめる。型番のラベルに書いてあります。
鳴ったときに止めるボタンか紐の位置を、焼く前に確認しておく。八人で天井をあおいだ夜は、誰も止め方を知りませんでした(泣)
タレに漬けた肉は赤身でも煙が出るので、焼いてからタレを付ける。
これは三台どれでも効きました。
味と油はねは、どこまで妥協するか
直火のやきまるは味で勝ち、紙の汚れで負けた
焼き上がりで八人の箸が最も伸びたのは、やきまるでした。
直火だからプレートの温度の立ち上がりが早く、表面がこんがり焼ける。
脂が受け皿へ滑り落ちるので肉の表面がギトギトにならず、カリッと仕上がる。
牛カルビの端がカリッと縮んで、噛むとじゅわっと脂が戻る。焼肉屋の網の感じに近いのはこれです。
代わりに、テーブルに敷いた白いキッチンペーパーが最も汚れたのもやきまる。机の中央に置いた本体から一メートルほど油が飛ぶ。
最新のスリム型には油はねのガードが付いた。
ユナの実家のは旧型なので、新聞紙を広げて対処しました。
それと、プレートが小さい。緩やかなドーム形なので丸い野菜が転がる。
八人だと焼く係が一人張り付きになります。
ザイグルは焼肉というより炙り
ザイグルの肉は、正直言って、焼肉とは別の料理でした。
上から炙られるので、脂の多いカルビは表面の脂が溶けて落ち、軽い食感に変わる。厚切りのステーキや魚は、この方式の独壇場。炭火がおいしいのは強い赤外線を出すからで、ザイグルの加熱は炭火に近い。
「魚はこれが最強。父さんが手放した理由が分からん」
ソウタはそう言いながら、鯖の切り身をひっくり返していました。
ところが薄切りの焼肉用の肉だと、鉄板でジュッと押しつけたときの焼き目が付きにくい。八人のうち三人が、これはこれで好き、五人が、焼肉が食べたい、と言いました。
油はねはほとんどなく、脂は熱源に触れない。
白いキッチンペーパーは、三台の中でザイグルだけがほぼ真っ白のまま。
吸煙式は、この二台の間です。プレートは普通のホットプレート寄りで焼き目は付く。油はねはやきまるより少ない。
掃除と音と値段
水皿の五分、ファンの三十分
片付けの時間は、はっきり差が出ました。
やきまるは、水皿の脂を捨てて、プレートを洗って、五分。フッ素加工で、焦げたタレも湯で浮きます。
ザイグルは十五分。プレートは外して洗えるけれど、上の傘の内側が掃除しにくい。
脂の飛沫が傘の内側に点々と残って、ソウタが綿棒で拭いていました。
吸煙式は三十分。水トレイとフィルターは丁寧に洗う必要があり、分解して丸洗いできる構造。
丸洗いできるのは助かる。けれど部品が多く、ファンの周りの脂は一晩置くと固まる。当番の日は、はぁ…と息をついてから始めます。
音も書いておきます。吸煙式のファンは換気扇の弱くらいの音で、会話は普通にできる。ザイグルとやきまるは無音。
七千円、一万円台、三万円台の使い分け
値段は、やきまるが七千円前後、吸煙式の山善が一万円台、ザイグルが三万円台。ザイグルのワイドプレート付きの上位機は希望小売価格で37,950円。
山善のエントリー機は5,480円で、煙を約70パーセント抑える。
やきまるはカセットガス代が一回一本ほど。ザイグルは上のヒーターだけなら一時間あたり約13.5円、上下同時で約29.7円の電気代。
(三万円のやつが最も静かで最も匂わないって、認めたくない…)
それでも家に残ったのは三万円のほうではありませんでした。
八人の家が残した一台と、二人暮らしに勧める一台
夏の終わり、リビングの棚に定位置ができたのは吸煙式でした。
理由は面積。八人が同時に箸を伸ばせるプレートの広さがあって、煙も匂いも許せる範囲に収まり、焼き目も付く。三十分の掃除は当番制で割ると一人あたり四分です。
ザイグルはソウタの部屋に戻り、魚とステーキの日に降りてきます。やきまるは、ユナが友達を二人呼ぶ夜に、自室の窓を開けて使っている。
二人暮らしの賃貸なら、私はやきまるを勧めます。七千円で、煙は普通のホットプレートの半分以下、味は三台で頭一つ抜けている。油はねだけ新聞紙で受ければいい。
煙も油はねもゼロに近づけたい人、電気で済ませたい人には、ザイグル。焼肉の焼き目より、炙りの軽さを取れる人向け。
四人以上が集まる家なら、吸煙式。ファンの音と三十分の掃除を、面積と引き換えに買う。
どれを選んでも、警報器の種類を見上げて、タレは後から付けて、窓を二か所開ける。四月のあの音を聞いた家からの、確かな助言はそれだけです。

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