洗面台の上に、ヘアアイロンがだらんと横たわっていた。プレートはまだ熱を持っていて、うっかり指が触れたら「あちっ」と跳ねる温度。コードは蛇みたいにとぐろを巻いて、その先が歯ブラシ立てに絡まっている。共用の洗面所だから、朝は戦場だ。誰かが使ったアイロンが冷めきる前に、次の住人が顔を洗いに来る。この熱いやつ、どこに置けばいいんだよ。毎朝、みんなが同じところでつまずいていた。しまう場所がない。冷めるまで置いておく場所もない。コードは引っかかる。ヘアアイロンひとつで、こんなに洗面台が散らかるとは思わなかった。
洗面台の上で、アイロンがいつも迷子だった
きっかけは、住人の一人がコードに手を引っかけて、アイロンを床に落としかけた朝だった。ガシャンと危うく大惨事。あれで、みんなが本気で収納を考え始めた。置きっぱなしは、見た目が悪いだけじゃない。危ないのだ。
熱いまま、しまえないのが最大の壁
ヘアアイロンの収納が難しい最大の理由は、これに尽きる。使い終わった直後、本体がまだ熱いこと。プレートは百度をゆうに超える温度まで上がるものもあって、電源を切ってからも、しばらくは触れないほど熱い。この熱が引くまで、引き出しにも箱にもしまえない。熱いままプラスチックのケースに突っ込めば、ケースが溶ける恐れもある。だから、使ったあとの数分から十数分、アイロンは行き場を失って洗面台に居座る。(冷めるまで、ここに転がしとくしかないのか)この待ち時間の置き場所こそが、収納の本当の難所だった。
コードが絡まって、引き出しに入らない
もう一つの敵が、電源コードだ。ヘアアイロンのコードは、けっこう長い。これが曲者で、しまおうとするたびに絡まる。無造作にぐるぐる巻きつけて引き出しに押し込むと、次に出すとき結び目みたいになっていて、ほどくのにイライラする。コードを本体にきつく巻きつけるのは、実は根元を傷める原因にもなる。かといって、だらんと伸ばしたままだと場所を取るし、他のものに引っかかる。熱とコード。この二つを制さない限り、ヘアアイロンはいつまでも洗面台の上で迷子のままだ。
見せる収納は、正直おすすめしない
おしゃれな収納アイデアでよく見る、フックに掛けたりスタンドに立てたりする見せる収納。かわいいのは分かる。でも、ヘアアイロンに関しては、こっちは見せる収納をすすめない。ここは言い切る。熱と、ほこりの問題があるからだ。
むき出しは、プレートにほこりが積もる
アイロンを出しっぱなしにする見せる収納は、プレートにほこりがたかりやすい。洗面所は意外とほこりが舞う場所だ。むき出しのまま置いておくと、髪に直接触れるプレートの上に、細かいほこりがうっすら積もっていく。それを気づかず髪に当てれば、ほこりごと髪を挟むことになる。焦げくさいにおいの原因にもなりかねない。見た目のおしゃれさと引き換えに、衛生面で気を使うはめになる。髪に触れる道具だからこそ、使わない間は覆っておきたい。
掛ける収納は、落下の危険がついて回る
フックに掛ける収納も、見た目はすっきりする。ただ、ヘアアイロンはそこそこ重さがある。コードの重みも加わって、フックからずり落ちる危険が常につきまとう。掛けた場所の真下が洗面ボウルだったら、落ちた拍子に陶器を割ることもある。共用の洗面所なら、誰かが服を引っかけた勢いで巻き添えに落とす、なんてことも起こる。見せる収納は、常に落下と隣り合わせだ。安定して、安全にしまうなら、掛けるより、囲われた場所へ収めるほうが安心できる。
熱を逃がしてからしまう、そのひと工夫
収納の第一関門は、あの熱だった。ここをどう乗り越えるかで、しまいやすさがまるで変わる。答えは、冷ますための定位置を先に作ることだった。
耐熱マットを、冷ます専用の指定席にする
使い終わったアイロンを、とりあえず安全に置ける場所。これを一つ決めておくと、洗面台の散らかりが一気に減る。役立つのが、耐熱のマットやトレーだ。熱いプレートを直接乗せても平気な素材でできていて、シリコン製のものなどが出回っている。これを洗面台の隅に一枚敷いて、冷ますための指定席と決める。使い終わったら、まずここへ。熱がこもっても溶ける心配がないから、安心して置いておける。冷めるまでの待ち時間、アイロンがあちこちに転がるのを、この一枚が防いでくれる。(置き場所が決まってるって、こんなに楽なのか)朝の洗面台が、ぐっと片づいた。
耐熱ポーチなら、熱いまま入れられる
もっと踏み込むと、熱いまま入れられる耐熱のポーチという手もある。内側が熱に強い素材で作られていて、電源を切った直後のアイロンを、冷める前に入れてしまえる。冷めるのを待たずに片づけられるのが、この方式の強みだ。朝、時間がなくて冷ますのを待てない時でも、耐熱ポーチにさっと入れて、そのまま引き出しへ。急いでいる朝ほど、この即しまえる手軽さが効いてくる。ポーチごと持ち運べるから、旅行や外泊にも使い回せる。熱を怖がらずにしまえる入れ物を一つ持っておくと、収納の自由度がぐっと上がる。
コードを制する、これで見た目が決まる
熱の次は、あの絡まるコードだ。コードをどう扱うかで、収納の見た目のすっきり感がまるで変わってくる。ばらけたコードほど、散らかって見えるものはない。
面ファスナーのバンドで、ひとまとめにする
コードをきれいにまとめる、いちばん手軽な道具が、面ファスナーのバンドだ。マジックテープでくるっと留めるタイプの、あの結束バンド。長いコードをゆるく束ねて、これで一巻きするだけ。きつく本体に巻きつけるのと違って、コードの根元に負担がかからない。ほどくのも一瞬だ。ばらけていたコードが一つにまとまると、それだけで引き出しの中がすっきり片づく。百円ショップでも手に入る小さな道具だけど、これがあるとないとで、しまいやすさが段違いだ。数本まとめ買いして、他のドライヤーのコードにも使い回している。
本体に巻きつけるのは、根元を傷める
やりがちなのが、コードをアイロン本体にぐるぐる固く巻きつけて収納すること。省スペースに見えるけれど、これはコードの付け根に負担をかける。きつく曲げられた根元の内部が、少しずつ傷んでいく。最悪の場合、そこが断線して、通電しなくなることもある。コードは、本体に巻くのではなく、コード単体でゆるく束ねる。この一手間が、アイロンを長持ちさせる。急いでいるとつい本体にぐるぐる巻いてしまいたくなるけれど、そこをこらえるだけで、故障のリスクが下がる。
隠す収納で、洗面台をまるごとすっきりさせる
熱を逃がし、コードをまとめたら、いよいよ本体をしまう場所だ。おすすめは、囲われた場所へ隠す収納。見えないところへ収めてしまうのが、いちばんすっきりする。
洗面台下の扉裏に、ホルダーを仕込む
おすすめの隠し場所が、洗面台下の収納の扉の裏側だ。ここにアイロンを差し込めるホルダーを取り付けると、デッドスペースがそのまま収納になる。扉を開ければ、コードをまとめたアイロンがすっと収まっている。使う時に取り出して、使い終わって冷めたら、また扉の裏へ。洗面台の上には何も置かなくて済むから、見た目が驚くほどすっきりする。粘着で貼るタイプのホルダーなら、工具もいらず、賃貸でも扉に穴を開けずに設置できる。差し込むだけのホルダーは、熱が完全に引いてから使うのが前提だから、そこは耐熱マットとの合わせ技になる。
引き出しの中は、仕切って立てて入れる
洗面台下に引き出しがあるなら、その中を仕切って収めるのも手だ。ヘアアイロンを寝かせて入れると場所を取るし、他のものの下敷きになる。ブックスタンドのような仕切りを使って、立てて入れると、省スペースで取り出しやすくなる。冷めてコードをまとめたアイロンを、本のように立ててすっと差す。隣にヘアブラシやドライヤーも一緒に立てておけば、髪の道具がひとまとめになって、朝の支度の動線が短くなる。引き出しを開ければ、必要なものが立ち並んでいる。この見やすさが、忙しい朝には効いてくる。
使う場所の近くに置く、という発想も効く
きれいにしまうことばかり考えていたけれど、実は逆の発想も大事だった。しまい込みすぎると、今度は出すのが面倒になる。使う場所との距離が、収納の使い勝手を決める。
しまい込みすぎると、出すのが億劫になる
遠くの棚の奥や、高い場所にしまい込むと、取り出すのが面倒で、だんだん使わなくなる。あるいは、出したまま戻さなくなる。毎日使うものは、使う場所のすぐ近くに定位置を作るのが、片づけが続くコツだ。鏡の前で髪を整えるなら、その鏡のすぐ下の引き出しや、手を伸ばせば届く扉の裏に。取り出す動作と、しまう動作が短いほど、収納は自然に続く。きれいにしまうことと、楽に出せることは、両立させたい。この二つが噛み合った時、初めて散らからない仕組みが回り出す。
毎日使うなら、あえて出しやすさを優先する
毎朝欠かさず使う人なら、完璧に隠しきることにこだわりすぎなくてもいい。耐熱のトレーに乗せて、洗面台の隅に定位置を決める。それも一つの正解だ。要は、決まった場所があること。転がっているのが問題なのであって、定位置さえあれば、多少見えていても散らかって見えない。隠す収納が向く人もいれば、出しておくほうが続く人もいる。自分の使う頻度と面倒くさがり具合に合わせて、隠すか出すかを選べばいい。大事なのは、アイロンに帰る場所を一つ作ってやることだ。
結局、熱とコードと定位置で決まる
ヘアアイロンの収納アイデア。あれこれ試してたどり着いた答えは、三つの要素に集約された。熱を逃がす場所を作ること。コードをゆるくまとめること。そして、帰る定位置を決めること。この三つが揃えば、洗面台からアイロンが消えて、驚くほどすっきりする。見せる収納のおしゃれさに憧れたけれど、ほこりと落下の心配を思えば、囲って隠すほうが結局は快適だった。熱いまましまえない、コードが絡まる。この二つの壁さえ越えれば、収納はぐっと楽になる。
冷ます場所を決めれば、あとは自然に片づく
今、うちの洗面台の上に、ヘアアイロンが転がっていることはなくなった。使い終わったら、まず隅に敷いた耐熱トレーの上へ。冷めるのを待つあいだ、そこが指定席だ。冷めたら、コードを面ファスナーのバンドでゆるく束ねて、洗面台下の扉裏のホルダーへ差し込む。洗面台の上には、もう何も出ていない。朝、コードに手を引っかけてアイロンを落としかける、あのヒヤリともお別れした。熱いやつの置き場所に毎朝つまずいていた頃が、嘘みたいだ。冷ます場所を一つ決める。たったそれだけで、散らかりの連鎖が、するりとほどけた。

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