内側の見口に指をかけて、反時計回りにひねる。
最初はびくともしなかったのが、ぐっと力を込めた瞬間にかちりと緩んだ。二回、三回とまわすと、真鍮色の筒が手のひらにころんと落ちてくる。ドアには十四ミリほどの穴だけが残った。
作業していたケンジさんが、その穴に目を近づけて笑った。
「これ、たった三十秒でしたね。工具もいらなかった」
のぞき穴というのは、外側のレンズ部分と内側の見口が、ねじで噛み合っているだけの構造をしている。だからカメラへの入れ替えが楽にできる。
そして、その手軽さには裏側がある。
のぞき穴は、思っているより単純な部品
覗かれる側にもなっている
ドアスコープは、内側から外を見るための道具として設計されている。ところが特殊な器具を使えば、外から中が見える状態を作れることが知られている。
さらに、この部品を外側から取り去られて、そこを侵入の足がかりにされる手口も報告されてきた。
不安をあおるつもりはない。実際、そうした解錠手口による被害は、鍵の性能が上がったことで大きく減っている。二〇〇〇年ごろに全国で二万九千件を超えていた報告が、二〇一八年には三十件ほどまで落ちたという集計もある。
確率としては小さい。ただ、対策の値段も小さい。この二つを並べたときに、やらない理由が見つからなかった。
外から外せない仕様のものがある
部品を交換するなら、防犯仕様として売られているスコープを選ぶ手がある。外側からは外せない構造で、のぞき見を防ぐカバーが内蔵されたものも並んでいる。
黄銅や真鍮でできた本体に光学ガラスのレンズ。プラスチックのものと比べると視界がすっきりしている。
カメラ機能は要らない、覗かれるのだけ止めたい。そういう人は、この防犯スコープに替えるだけで用が足りる。数千円で終わる。
カバーという、もっと軽い手
部品を交換せずに済ませたいなら、内側からかぶせるドアスコープカバー。マグネットで着脱できるものやスライド式のものがあり、千円台から手に入る。
普段は閉じておいて、来客のときだけ開ける。ドア本体に加工しないので、賃貸でも気兼ねがない。
カメラを入れる場合も、機種によってはこのカバーが併用できる。逆に併用できない形状のものもあるので、両方を買うなら順番を決めて確かめる。
三つのタイプで、できることがまるで違う
スコープごと入れ替えるカメラ
いちばん本格的なのがこれ。既存の部品を外して、レンズにカメラが仕込まれたものへ差し替える。
外から見た姿は普通ののぞき穴とほとんど変わらない。存在を悟られにくく、うっかり外されるリスクも低い。
広角百五十五度、フルハイビジョン、動体検知、スマホへの通知。この構成の製品が一万円前後から出ている。業務用のドアビューアー型になると五万円近い。
弱点は電源。玄関にコンセントがないので、モバイルバッテリーで動かすか、室内へケーブルを引くことになる。ここが運用の分かれ目。
内側にかぶせるモニター型
既存のスコープをそのままにして、内側から挟み込むように取り付けるタイプ。三インチ前後の液晶が付いていて、ボタンを押すと外が映る。
乾電池で動くものが多く、配線がまったく要らない。取り付けは数分。
訪問者を確認する目的ならこれで十分。動く物を検知して自動で撮るものや、赤外線で夜間も写せるものもある。
遠隔で見たい、外出先に通知がほしい。そこまで求めると力不足になる。
ねじでドアに固定するタイプ
三つめは、ドア面に直接ねじで留める方式。安定感は上。
そのかわり、外したあとにねじ穴が残る。持ち家ならともかく、借りている部屋では選ばないほうがいい。
六角レンチが要る製品もあり、作業のハードルも一段上がる。
買う前に測る、二つの数字
穴の直径
入れ替え型を買うなら、まず既存の穴の直径。十二ミリから十九ミリの範囲で対応をうたう製品が多く、十四ミリあたりが標準的なところ。
測り方は簡単で、内側の部品を外して、穴にノギスか定規を当てるだけ。定規で測りにくければ、外した部品の筒の外径を見る。
モニター型は穴の許容範囲が広く、十四ミリから二十八ミリまで対応するものもある。
ドアの厚み
見落とされがちなのがこちら。スコープは内外の部品でドアを挟み込む構造なので、厚みが合わないと噛み合わない。
製品には適合扉厚が書いてある。三十三ミリから四十七ミリ、二十三ミリから三十八ミリといった数字。モニター型では四十ミリから百ミリという広い範囲のものもある。
集合住宅の玄関ドアはおよそ三十五ミリから四十五ミリに収まることが多いけれど、断熱仕様の厚いドアだと外れる。穴の直径だけ見て注文して、届いてから届かないことに気づくのが典型的な失敗。
どちらもメモしてから買い物かごに入れる。二分の作業で、返品の手間が消える。
映りで後悔しやすい、三つの場面
西日で、顔が白く飛ぶ
廊下が西向きの物件で起きる。夕方、逆光になった相手の顔が真っ白になって判別できない。
これはレンズの性能というより、光の量の差。逆光補正やハイダイナミックレンジに対応した機種を選ぶと、だいぶ耐える。
設置してから確かめるなら、午後四時から五時に自分で外に立ってみる。撮れているつもりが撮れていない時間帯を、先に知っておく。
夜の廊下は、想像より暗い
共用廊下の照明は、防犯より節電を優先して落とされていることがある。人感センサーで数十秒だけ点く物件も。
赤外線での夜間撮影に対応しているかどうか。ここは必ず見る。
ただし赤外線は、レンズのすぐ前で光が反射する。ドアの外に張り出した部品があると、その面が白く光って画面が使いものにならなくなる。取り付け位置の周囲がすっきりしているかも見ておく。
冬の朝、レンズが曇る
室内が暖かく、外が冷えている日。金属の部品を通して温度差が伝わり、レンズの内側に細かい水滴がつく。
朝の八時ごろに映像を確認したら、白い霧の向こうに人影がぼんやり、という状態。
これは製品の問題というより、玄関という場所の条件。防曇処理をうたうものを選ぶか、冬場は玄関の暖房を控えるか。完全には消えないと思っておいたほうが、がっかりしない。
取り付けと、元に戻すとき
固くて回らないとき
新築から一度も外していない部品は、ねじ止め剤が効いていて固い。指では歯が立たないことがある。
内側の見口には、コインや専用工具をかけるための溝が切ってあるものが多い。十円玉を差し込んで、ゆっくり力をかける。
どうしても動かないなら、無理をしない。塗装を傷つけると、そこが原状回復の対象になる。管理会社に相談すれば、業者の手配や別の方法を教えてもらえる。
外すときは、外側の部品が廊下へ落ちないように手を添えておくこと。ミオさんは共用廊下の排水溝に真鍮の筒を転がしてしまい、しゃがみ込んで五分ほど格闘したという。あの音は忘れられないらしい。
純正の部品を、どこにしまうか
賃貸で入れ替える人がいちばんやりがちな失敗が、外した部品の紛失。
退去のときに戻せないと、その分の費用が出ていく。数千円とはいえ、覚えのない請求は気分が悪い。
ジッパー付きの袋に入れて、何の部品かを書いた紙を一緒に入れる。保管場所は、契約書と同じファイル。二年後の自分は、玄関まわりの記憶をきれいに失っている。
入れ替える前の状態を写真に撮っておくのも忘れずに。戻すときの向きが分からなくなるのは、わりとよくある話。
ケンジさんの玄関には今、外から見ても違いのわからないのぞき穴が付いている。内側にはカバーが一枚。
外した純正の部品は、契約書の封筒に入って靴箱の上の棚で眠っている。

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