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体を洗っても垢が出るのはなぜか、こすらない人ほど出なくなる話

十二月の脱衣所、共用のバスマットに白い粉が散っていた。
指でつまむと、ざらりとした感触。誰のものかは、住人の間でなんとなく察しがついていた。
その週、ミナさんはやたらと風呂が長かったから。
「背中がゴワつく気がして、ナイロンタオルでめちゃくちゃこすったんですよ。そしたら出る出る、ポロポロ止まらなくて」
達成感さえあったらしい。こんなに溜まってたんだ、と。
ところが翌週、彼女は鏡の前で肩をひねったまま固まっていた。左の肩甲骨の上あたりが、薄く茶色い。

目次

こすると出るあの塊は、汚れではなく剥がされた自分

中身は角質と皮脂と、タオルの繊維

肌の表面は、死んだ細胞が積み重なった層でできている。ケラチンで満たされた角質細胞が、下から押し上げられて外側へ。
そこに皮脂と汗、空気中のホコリが混ざって剥がれ落ちたものが、垢と呼ばれている。
垢すりで出てくるあの粘土みたいな塊。中身の大半は、本来ならこの先の数日で勝手に落ちていくはずだった角質だ。汚れはそのごく一部にすぎない。
ナイロンタオルを使えば、そこに繊維も混ざる。自分の皮膚とタオルの削りカスを丸めているようなもの、と言われたら気持ちが少し萎むでしょう。

出る量が多い人ほど汚れている、という誤解

垢そのものは、ほぼ無色に近い。白っぽく見えるなら角質が主体で、むしろ乾燥している合図。
つまり量は不潔さの証明にならない。ここを取り違えたまま、出るのが恥ずかしいから余計にこする人がとても多い。
ミナさんもそうだった。銭湯で隣の人の湯船が澄んでいるのを見て、耳が熱くなった経験があるという。
「自分だけ汚いのかと思って、家でさらにゴシゴシしてました。逆効果だったなんてね…」

大量に出る人に共通する三つの背景

代謝が速い、つまり肌が若い

表皮の細胞が生まれてから剥がれ落ちるまで、およそ二十八日。この周期は年齢とともに間延びしていき、四十日を超える人もいる。
裏を返せば、周期が短い若い世代ほど新しい細胞への入れ替わりが速く、出てくる量も増える。運動して汗をよくかく人も同じ。
二十代で垢が出やすいのは、体が正常に回っている証拠でもある。年を重ねてから量が減ったという実感は、清潔になったのではなく、単に生まれ変わりが遅くなったということ。

乾燥して、剥がれ方が乱れている

肌が乾くと、角質は一枚ずつきれいに離れてくれなくなる。
何枚か固まったまま浮き上がり、それが目に見える大きさのフケや粉になる。冬に粉が増えるのはこれ。
皮脂の分泌は加齢で落ちるし、暖房の効いた部屋も湿度を奪う。乾燥する条件がそろうと、出る量が跳ね上がる。

こすりすぎて、角質が厚くなっている

一番やっかいなのがこれ。
強い摩擦を受けた肌は、守ろうとして角質を厚く作りはじめる。厚くなればゴワつく、ゴワつくからこする、こするからまた厚くなる。
毎日こすって毎日出る、というループに入っている人は、汚れではなく防御反応と戦っていることになる。相手が自分の皮膚では、勝ち目がない。

背中の黒ずみは、日焼けでも汚れでもなかった

骨の出っ張りだけが茶色くなる理由

ミナさんの肩甲骨の色。あれは摩擦黒皮症と呼ばれるもので、ナイロンタオル黒皮症という別名もついている。
鎖骨、肋骨、肩甲骨、背骨、腕や脚の外側。皮膚の下に骨が近い場所ほど、タオルの圧が一点に集まる。そこで小さな炎症が繰り返され、色素が沈着していく。
最初は薄い茶色。刺激を続けるほど濃くなり、輪郭のぼやけたシミとして残る。首から下に広く出るのが特徴で、日焼けとは形が違う。

やせ形で、長く使ってきた人に多い

鳥取県医師会の解説によれば、二十歳から五十歳、やせ形、使用歴六年から十年ほどの人に多いという統計がある。
数十年前に全国で多発して、当時は原因がわからず診療現場が困惑した経緯まで残っている。今でもよく見る皮膚の病気のひとつ。
薄い人ほど骨が出ている。骨が出ているほど当たりが強い。ミナさんは身長百六十センチで四十キロ台、ナイロンタオル歴は中学生から数えて十年以上だった。教科書どおりすぎて、話を聞きながらこちらが唸った。

ナイロンタオルを捨てた三週間

一週目、物足りなさで手が止まる

彼女が試したのは、泡と手のひらだけで洗う方法。
初日の感想が笑えた。
「洗った気がしない。風呂上がりに、なんかヌルッとしてる気がして三回シャワー浴びました」
実際には落ちている。皮脂膜は水と少しの洗浄剤でゆるむし、角質は湯に浸かるだけでもふやけて離れる。落ちた実感がないだけ。
この一週間を越えられずに元へ戻る人が、たぶん一番多い。

三週目、粉が落ちなくなった

変化がはっきり出たのは十日を過ぎたころ。太ももの外側を掻いたときの、あの白い筋が引かれなくなった。
脱衣所のマットに粉も落ちない。すね毛の生え際がヒリッとしていたのも消えた。
「肌がしっとりというより、剥がれてこなくなった感じ。ずっと自分で削ってたんだなって」
肩甲骨の色はまだ残っている。摩擦をやめても、沈着した色素が薄れるには年単位の時間がかかる。今も彼女はそこを見ないようにして服を選んでいる。

出る量を自分で減らす洗い方

手のひらで足りる場所、足りない場所

石けんをよく泡立てて、手でなでる。胴体も腕も脚も、これで足りる。皮脂と汚れは泡が抱き込んでくれるから、圧をかける必要がない。
タオルを使うなら、かかとと足の裏に限定するのが現実的な線。皮膚が厚くて骨も遠いから、多少こすっても炎症になりにくい。
脇や足の指の間、鼠径部といった汗と皮脂がこもる場所は、泡を置く時間を少し長めに取る。ゴシゴシではなく、待つ。

湯温と、拭き方

熱い湯は皮脂を根こそぎ持っていく。四十度前後にして、湯船に浸かってから洗う順番にすると、角質がふやけて落ちやすくなる。
上がったあとの拭き方も響く。バスタオルで往復させるのは、乾いた布で肌を削る行為に近い。押し当てて水を吸わせるだけでいい。
そして五分以内に保湿剤。乾く前に蓋をする。ここを飛ばすと、翌日また粉が浮いてくる。

垢すりに行くなら、頻度と後の保湿

やめろとは書かない。あのスッキリ感には、他で代えのきかない気持ちよさがある。
ただ毎週はやりすぎ。角質層は十数枚しかない層の積み重ねで、それを一気に剥がせば守るものがなくなる。
月に一度から、季節に一度くらい。体を温めてから受けて、終わったら必ず保湿する。肘や膝、かかとに絞ってもらう伝え方も覚えておくと肌が楽になる。

それでも出続けるなら、洗い方の問題ではない

粉と一緒にかゆみや赤みが来ているとき

こするのをやめて三週間経っても粉が止まらない、掻くと赤い線が残る、夜に眠れないほどかゆい。
このあたりまで来たら、洗い方の調整では追いつかない。乾皮症や湿疹、脂漏性の皮膚炎など、名前のついた状態になっている可能性がある。
皮膚科では保湿剤も炎症を抑える塗り薬も処方してもらえるし、市販品を買い集めるより結局早い。
シェアハウスの別の住人は、粉ふきを二年間ボディクリームで押さえ込もうとして、受診した日に一週間で片づいた。あのときの脱力した顔は忘れられない。

垢がたくさん出る人は、汚れているのではなく、削っている。
ミナさんは今、洗面所にナイロンタオルを置いていない。代わりに置いてあるのは、詰め替え用のボディソープと、やたら大きな保湿剤のボトルである。

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屋根の下の知恵袋TOKYOシェアライフ

都内シェアハウス住民によるリアルな生活ハック発信中。
節約、家事、収納、コミュニティづくりまで、みんなで暮らすからこそ生まれる知恵を発信してます。

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