共用のノートパソコンに写真を移したら、サムネイルが灰色のまま並んでいた。
ファイル名の末尾は.heic。ダブルクリックしても開かない。撮影したサチさんの指が、マウスの上で止まった。
「私のiPhoneでは普通に見えてるんですよ。なのに、こっちだと全部グレー」
その場で検索して行き着いたのが、設定の中にある互換性を優先という項目。ところがこの言葉、iPhoneの中に二か所あって、意味がまるで違う。
同じ言葉が、二か所に置かれている
カメラのフォーマット
ひとつめは、設定からカメラへ進み、フォーマットを開いた先。カメラ撮影という欄に、高効率と互換性優先という二択が並ぶ。
ここで扱っているのは、撮った写真と動画をどの形式で保存するか。買ったままの状態では高効率が選ばれている。
サチさんのパソコンが開けなかったのは、この設定が理由だった。
インターネット共有のスイッチ
ふたつめは、テザリングの画面。設定からインターネット共有へ進むと、互換性を優先というスイッチがある。iPhone 12以降のモデルに用意されているもの。
こちらはWi-Fiの周波数帯の話で、写真とは何の関係もない。
同じ言葉なので混同されやすい。片方を調べて納得したつもりで、もう片方の設定を触ってしまう人がいる。
カメラの互換性優先が意味するもの
高効率はHEIF、互換性優先はJPEG
高効率を選んでいると、写真はHEIFという形式で保存される。拡張子は.heic。動画はHEVCになる。
互換性優先に切り替えると、写真はJPEG、動画はH.264。長く使われてきた形式で、たいていの機器が読める。
高効率のほうが新しく、圧縮の効率が高い。そのぶん対応していない環境がある、という構図。
容量は二倍近くになる
数字で見ると差がはっきりする。
1200万画素の写真をHEIFで保存すると2メガバイト前後。同じものをJPEGにすると、その2倍近くまで膨らむ。
枚数が増えるほど効いてくる。500枚撮れば1ギガ近い差が生まれる計算になる。
128ギガのiPhoneで、写真と動画が容量の大半を占めている人は少なくない。互換性優先へ切り替えるということは、その消費速度を倍にするということでもある。
それでも、ほとんどの人は切り替えなくていい
送るときは、自動で変換される
ここがいちばん知られていない部分。
HEIFで撮った写真をメールに添付したり、AirDropで送ったりすると、iOSが自動でJPEGへ変換して渡す。相手の環境がHEIFに対応していなくても開ける。
つまり、iPhoneの中では軽い形式で持ちながら、外へ出すときだけ互換性の高い形式になる。よくできた仕組み。
だから、写真が開けないという事態が起きるのは、この自動変換を通らない渡し方をしたとき。ケーブルでパソコンへ直接コピーした場合が典型的。
パソコンへ移す設定も見ておく
USBでつないで移すなら、設定から写真へ進んだ先に、パソコンへ転送するときの扱いを決める項目がある。
自動を選んでおけば、転送のタイミングで互換性のある形式に変換される。元のフォーマットのままを選んでいると、.heicがそのまま出ていく。
サチさんの場合は、ここが元のフォーマットのままになっていた。カメラの設定は一切いじらず、この一か所を変えるだけで解決した。
Windowsの側で読めるようにする手もある。ストアから画像の拡張機能を入れれば、標準のビューアで表示できるようになる。パソコンが自分のものなら、こちらのほうが根本的。
切り替えたほうがいい場面
JPEGでの提出を求められたとき
証明写真、ネットからの申請、応募フォーム。JPEGで、何ピクセル以下、何キロバイト以下、と条件が指定されることがある。
こういう用途では、撮る前に互換性優先へ倒しておくのがいちばん早い。あとから変換する手間が消える。
必要な撮影が終わったら、高効率へ戻す。一時的なスイッチとして使う。
古い機器に直接渡すとき
仕事で撮った写真を、その場でSDカードやUSBメモリに入れて相手に渡す。相手のパソコンの環境がわからない。
コンビニのプリント端末や、写真店の受付機に読ませる場面も同じ。機種によってはHEIFを認識しない。
こういう予定が決まっているなら、前日に設定を変えておく。撮り直しがきかない場面ほど、保険をかける価値がある。
画質が上がるという話について
圧縮効率と、細部の描写
互換性優先にすると画質が良くなる、という説明を見かけることがある。ここは慎重に扱いたい。
圧縮の効率という点では、HEIFのほうが優れている。スクリーンショットのような色の面が広い画像では、その差がはっきり出る。
一方で、微妙に違う色が大量に含まれる風景写真では、JPEGのほうが細部の描写に分がある、という意見もある。撮る対象によって傾向が変わる、というのが実際のところ。
選ぶ理由は、画質ではなく互換性
日常の写真で、並べて見比べて差が分かる人はほとんどいない。ユウトさんも同じ被写体を両方の設定で撮って比べたけれど、拡大しても判断がつかなかったという。
容量が倍になる代償を払ってまで追う差ではない。
この設定を動かす動機は、画質ではなく、渡す相手の環境。名前のとおり互換性のための項目だと考えておけば、判断に迷わなくなる。
テザリングの互換性を優先は、まったく別の話
オンにすると、2.4GHzだけになる
こちらのスイッチをオンにすると、テザリングで使うWi-Fiが2.4GHz帯に限定される。5GHz帯と、対応していれば6GHz帯も無効になる。
2.4GHz帯は障害物に強く、遠くまで届く。そして古い機器のほとんどが対応している。
接続先のパソコンやゲーム機のWi-Fi一覧に、自分のiPhoneの名前が出てこない。そういうときにオンにすると、たいてい現れる。
速度とセキュリティは、少し下がる
代償もある。オフのときは802.11acの規格で、条件がよければ866.7Mbps。オンにすると802.11nになり、上限は144.4Mbps。
さらに、セキュリティの方式がWPA2に固定される。通常はWPA3も使われるので、そこが一段落ちる。
つまり常時オンにしておく設定ではない。速度と安全を少し差し出して、つながらない機器をつなげるためのスイッチ。
倒すのは、つながらないときだけ
普段はオフ。接続できない機器が現れたら、その場でオンにする。終わったら戻す。
外出先で建物の中や人混みにいると、5GHz帯は障害物に弱くて速度が落ちることがある。そういう状況で、あえてオンにするという使い方もできる。
シェアハウスのリビングでは、古いゲーム機をiPhoneのテザリングにつなぐ場面でだけ、このスイッチが役に立った。あのとき一覧にぱっと名前が現れた瞬間、四人が同時に声を上げた。
写真のほうは高効率のまま、パソコンへの転送設定だけを直す。テザリングのほうは、必要なときだけ倒す。
サチさんのノートパソコンには今、灰色のサムネイルはひとつも並んでいない。

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