湿度計が、三十四から三十八になった
シェアハウスの寝室に、住人が紙製の加湿器を置きました。水を張った皿に、白い花の形をした紙が立っている。電源はありません。
置いた翌朝、湿度計を覗き込んで、その人は微妙な顔をしていました。
え、これだけ?
四ポイント。上がるには上がった。でも劇的な変化を期待していた本人は、明らかに肩を落としていました。
自然気化式に何を求めるかで、評価が真っ二つに割れます。部屋全体をカラカラから快適に引き上げる装置ではない。枕元や机の周りの空気を、少しだけ湿らせる道具です。ここを理解して買えば満足度は高い。
うちで三種類を冬ごと試してきた記録を出していきます。
電気を使わずに、水が空気へ移る仕組み
洗濯物が乾くのと、まったく同じ現象
水は沸騰しなくても蒸発します。空気が乾いているほど、表面積が大きいほど、風が当たるほど速く。
自然気化式はこの三つを利用します。フィルターが水を吸い上げ、広がった面から水分が空気へ移っていく。
だから消費電力はゼロ。音も出ない。熱くならないので、子どもがいても倒しても危険が少ない。
一日の蒸発量は、二百から五百ミリリットル
これが現実的な数字です。製品と環境によりますが、この帯に収まります。
超音波式や加熱式は、一日で二リットルから四リットル出す。単純に四倍から十倍の差がある。
八畳の部屋を丸ごと湿らせたいなら足りません。ただし、デスク周りの半径一メートルなら空気の質が変わります。喉のイガイガが軽くなった、という声はうちでも複数出ました。
加湿できる範囲は、想像より狭い
住人が実験しました。加湿器の真横と、二メートル離れた場所に湿度計を置く。
真横が四十二パーセント、離れた場所が三十六パーセント。同じ部屋で六ポイント違った。
つまり、効かせたい場所のすぐそばに置くのが前提の道具です。部屋の隅に置いて全体をどうこうしようとすると、期待外れになる。
置き場所を変えるだけで、蒸発量が二倍になる
ここが一番おもしろかった部分。
エアコンの風下に置いた日、水がごっそり減った
うちの住人が試したのは、暖房の風が緩く当たる位置。棚の上、風の通り道です。
前日まで一日百八十ミリリットルだった減り方が、三百五十ミリリットルまで伸びました。風が水面の湿った空気を運び去り、次の蒸発を促すから。
ただし直撃はさせない。強い風が当たると、フィルターが乾いて水を吸い上げるより先に表面だけ乾きます。緩く流れる位置がちょうどいい。
床置きは、ほぼ無駄
冷たい空気は下に溜まります。床付近は温度が低く、蒸発が進まない。
床に置いていたときと、高さ七十センチの棚に移したとき。減り方が明らかに違いました。持ち上げるだけで性能が上がる、珍しい家電もどきです。
窓際と壁際は避ける
窓のそばは冷えるので結露を招きます。壁にくっつけると空気が回らず、その面のカビの原因に。
部屋の中ほど、少し高い位置、風が通る場所。この三つが揃うと本領を発揮します。
最大の弱点は、水がずっと常温でいること
正直に書きます。ここが自然気化式の泣きどころ。
三日放置した水から、生乾きの匂いがした
うちで起きた失敗です。忙しくて四日ほど水を替えなかった週がありました。
部屋に入った瞬間、あの雑巾みたいな匂い。発生源は加湿器の皿でした。水の表面に薄い膜が張っていて、指で触るとぬるっとする。
加熱式は沸騰させるので菌が死にます。自然気化式にはその工程がない。二十度前後の水を置きっぱなしにするのは、菌にとって理想的な環境です。
水は毎日替える、これが使用条件
足すのではなく、残りを捨てて入れ替える。皿を軽くすすぐ。所要十秒。
この十秒を守れない人には向きません。うちは水を替える担当を朝の歯磨きの後に組み込んで、ようやく続くようになりました。
フィルターの交換時期を、匂いで判断しない
紙製のフィルターは一シーズンが目安。ひと冬使うと、水を吸い上げる力が落ちて茶色く変色します。
うちは二年目に持ち越したことがあり、フィルターの根元にうっすら黒い点が出ていました。あれを見てからは素直に買い替えています。
素材で、蒸発量と手間が変わる
紙製は見た目が良く、寿命が短い
花や立体的な形に加工されたタイプ。デスクに置くと様子がいい。
表面積を稼ぐ設計なので蒸発量は稼げますが、繊維が水を含んだまま劣化します。ひと冬で買い替える前提。価格が千円台なので、割り切れる範囲です。
フェルトや不織布は、洗える
うちで一番長持ちしているのがこのタイプ。取り外して洗い、乾かせば繰り返し使えます。
二シーズン目に入りましたが、蒸発量は落ちていません。洗うときは中性洗剤を薄めて、しっかりすすぐ。洗剤が残ると匂いの原因になります。
陶器や素焼きは、蒸発量が控えめ
デザイン重視の製品に多い素材。倒れにくく、清潔さは保ちやすい。
ただし水を吸い上げる面積が小さいので、加湿の実感は薄めです。デスクの装飾として置いて、加湿はおまけと考えるならいい。
加熱式と、どう使い分けるか
寝室は自然気化式が勝つ
音が出ないという一点で、寝室では強い。加熱式のゴボゴボという音や、超音波式のファンの音が気になる人には代えがたい。
うちの住人は枕元から五十センチの位置に置いています。朝起きたときの喉の状態が変わったと言っていました。数値では四ポイントの差でも、体感は別物らしい。
リビングは電気式でないと届かない
広い空間を四十パーセントまで持っていくには、蒸発量が桁違いに要ります。自然気化式を三台並べても足りません。
うちのリビングは加熱式一台。そのうえで、それぞれの部屋に自然気化式を置く配置に落ち着きました。
結露が出る家なら、電気式より安全
加湿しすぎて窓がびしょ濡れになる家、けっこうあります。木造で気密が低いと、窓が冷えて水滴になる。
自然気化式は空気が飽和すると蒸発が止まります。入れすぎない構造なので、結露のリスクが低い。うちの北向きの部屋は、これが決め手でした。
買わずに、同じ効果を出す
仕組みが単純なので、家にあるもので再現できます。
洗面器に水を張り、コーヒーのペーパーフィルターを何枚か立てる。上端を折って引っかければ、水を吸い上げて広い面ができます。
住人が試したところ、一日で二百ミリリットル減りました。市販品の下限と同じくらい。見た目は正直ダサいけど、性能は出る(笑)
濡らしたバスタオルを部屋に干すのも同じ理屈です。ハンガーにかけて広げれば、一晩で乾く水分が全部空気に移る。うちで一番よく使われている方法が、実はこれ。
買う前に、湿度計を置く
数字を知らないまま加湿器を選ぶと、判断ができません。千円ほどの湿度計を先に買って、一週間測る。
四十パーセントを下回る日が続くなら、加湿の出番。三十パーセント台の前半で張り付くなら、自然気化式では届かないので電気式を検討する。
うちの寝室は三十五パーセント前後で推移していました。あの四ポイントは、四十に届かせるための最後のひと押しとしては悪くない働きです。
紙の花は、いま二代目が机の隅で静かに水を吸い上げています。朝いちばんに皿を洗う音が、この家の冬の始まりの合図になりました。

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