引き出しが閉まらなくなって、ようやく気づく霜の存在
冷凍庫の引き出しを押し込んでも、最後の数センチが閉まらない。
都内のシェアハウスに住むYさん(30代)が共用の冷凍庫をのぞき込むと、奥の壁一面に白い氷の層がびっしり育っていた。「アイスの箱が霜に埋もれて、発掘現場みたいになってて。引っ張ったらバリバリッて音がして、指先にじんと冷たさが残りました」。
霜取りといえば、電源を切って10時間放置するのが定番の方法として知られている。でも現実問題、それは難しい。冷凍庫には食材がぎっしり入っているし、シェアハウスの共用冷蔵庫なら自分の判断だけで電源を落とすわけにもいかない。一人暮らしでも、10時間ぶんの保冷手段を用意するのは大ごとだ。
実は、霜の厚さが育ちきる前であれば、電源を入れたまま霜取りは完結できる。手順と道具、そしてやってはいけないことさえ押さえれば、30分から1時間で終わる作業だ。
霜の厚さ3〜5mmが、動くべきサイン
霜は放置するとどうなるか。まず冷気の循環が悪くなり、冷えムラが出る。霜の層が断熱材のように働いて熱交換を妨げるから、コンプレッサーが余計に働き、電気代がじわじわ上がる。さらに育つと引き出しの開閉を物理的に妨害し始める。
目安は厚さ3〜5mm。指で触ってざらつく程度ならタオルで拭くだけで済むが、爪が立つくらいの厚みになったら計画的に取りかかるタイミングだ。Yさんのように引き出しが閉まらなくなってからでは、作業時間も労力も倍以上かかる。霜は小さいうちに摘むのが一番ラクで、これは断言できる。
電源を入れたまま行う霜取りの全手順
手順1 食材を出して、扉を開けておく
電源は切らなくても、食材は出す。ここは省略できない。
作業中は扉を開けっぱなしにするので、庫内の温度は上がる。食材を入れたままだと溶け始めてしまうから、クーラーボックスか発泡スチロール箱に保冷剤と一緒に移しておく。理想を言えば、霜取りの日を決めて数日前から冷凍食材を計画的に食べきっておくと、この移動作業ごと消える。
庫内が空になったら、扉を開けたままにする。これだけで霜の表面がゆるみ始め、この後の作業効率がまるで変わる。床に水が垂れるので、冷凍庫の下と手前にバスタオルを敷いておくのも忘れずに。
手順2 温タオルを霜に当てて溶かす
40℃前後のお湯にタオルを浸し、固く絞って霜に直接当てる。
じゅわっと霜の表面が溶けて、白い層がみるみる薄くなっていく。タオルが冷めたらお湯に浸け直して、面ごとに繰り返す。薄い霜ならこれだけで完全に取りきれる。
時間を短縮したいなら、ドライヤーの温風を併用する方法もある。ただし距離には注意が必要だ。近づけすぎると庫内のプラスチック部品やパッキンを傷める。30cm以上離して、温風を全体にふんわり当てるイメージで使う。一点に集中して当て続けるのは避ける。
手順3 ゆるんだ霜をプラスチック製ヘラで剥がす
温めてゆるんだ厚めの霜は、ヘラで剥がし落とす。
使うのはプラスチック製か木製のヘラ。100円ショップのお好み焼き用ヘラでも十分に機能する。霜と壁面の境目にヘラを差し込むと、板状になった霜がペリッと気持ちよく剥がれる瞬間がある。剥がれた霜の塊はボウルか袋に集めて、シンクで処分する。
ここで絶対にやってはいけないのが、アイスピックやナイフ、マイナスドライバーなど金属の鋭利な道具を使うことだ。庫内の壁のすぐ裏には冷媒の通る配管がある。突き破れば冷媒ガスが漏れ、その冷凍庫は終わる。修理ではなく買い替えレベルの故障だ。力を入れてガリガリ削る作業は、手が滑ってケガをするリスクも高い。固くて剥がれない霜は、削るのではなく、もう一度温めてゆるませてから剥がす。この順番だけは守ってほしい。
車用の解氷スプレーを思いつく人もいるかもしれないが、これも禁止だ。主成分のアルコールが庫内のプラスチックやゴムパッキンを劣化させて、故障の原因になる。食品を入れる場所に使うものではない。
手順4 水分を完全に拭き取って終了
霜を取りきったら、乾いたタオルで庫内の水分を徹底的に拭き取る。
ここを雑にすると、残った水分が数日後にはまた霜に化ける。せっかくの作業が振り出しに戻るので、隅やパッキンの溝まで乾拭きする。拭き終わったら扉を閉めて、庫内が冷えるのを待ってから食材を戻す。作業全体で30分から1時間。電源を切って10時間待つ方法と比べれば、休日の午前中に終わる軽さだ。
シェアハウスの共用冷凍庫という難しさ
Yさんの家の冷凍庫には、5人分の食材が入っていた。
「電源を切る方式だと、全員の食材をどうするかって話になるんですよ。誰のアイスか分からないものもあるし、勝手に出すのも気が引ける」。霜は気になるけど誰も手を付けない。結果、霜は育ち続ける。共用設備にありがちな、責任の空白地帯だ。
Yさんが取った方法はシンプルだった。グループチャットで「今度の土曜の午前、霜取りします。冷凍の食材は金曜までに名前を書いてもらえたら一時保管します」と宣言した。電源を切らない方式なら作業は1時間で終わるから、各メンバーへの負担も最小限で済む。当日は2人が手伝いに来て、温タオル係とヘラ係に分かれて30分で完了したという。
取材で見えてきたのは、共用家電のメンテナンスは「方法のハードルを下げると人が動く」という事実だった。10時間電源を切る計画なら誰も言い出せなかったことが、1時間で終わる方法なら声をかけられる。
霜を育てないための日常習慣
霜の正体は、庫内に入り込んだ湿気
霜の原因は、扉の開閉時に流れ込む湿った空気と、食品から出る水分だ。庫内で冷やされた水蒸気が壁面に結晶化して、霜として積もっていく。
つまり対策は、湿気を入れない・発生させないに尽きる。扉の開閉は最小限に、開けたらすぐ閉める。温かい食品は完全に冷ましてから入れる。食品はラップや密閉袋でしっかり包んで、水分の放出を抑える。この三つを意識するだけで、霜の成長速度は目に見えて変わる。
パッキンと冷風出口の点検も忘れずに
習慣を変えても霜がすぐ育つ場合、設備側に原因があることが多い。
まず疑うべきはドアパッキンの劣化だ。ゴムが硬くなったり変形したりして密閉が甘くなると、外気が常に入り込み続ける。扉に名刺くらいの紙を挟んで閉め、すっと抜けるようなら密閉不足のサインだ。パッキンは部品として取り寄せて交換できる機種が多い。
庫内の冷風出口がホコリや食品のカケラで塞がっていないかも確認したい。風の通り道が塞がると結露が増えて霜になりやすく、冷却効率も落ちて電気代まで上がる。詰め込みすぎで出口を食品が塞いでいるパターンも多いので、庫内は7割収納を目安にする。
ちなみに、霜が付くのは主に直冷式と呼ばれるタイプで、小型冷凍庫やセカンド冷凍庫に多い。ファン式(間冷式)には自動霜取り機能が付いていて、日常的な霜取りはほぼ不要だ。買い替えや2台目の購入を考えるタイミングがあれば、この方式の違いを確認しておくと、霜取りという作業自体から解放される。
Yさんのシェアハウスでは、あの土曜以来、霜取りが3か月に1回の共用イベントになった。薄いうちに取れば温タオルだけで10分で終わる。発掘現場と化した冷凍庫を見ることは、もうないそうだ。

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