搬入された冷蔵庫が、壁にぴったり吸いついていた
新しい冷蔵庫がキッチンに収まった。サイズはぴったり。壁との間に、紙一枚すら入らないくらい、ぴたっと吸いついている。
都内のシェアハウスに住むKさん(20代)は、その姿に最初は満足していた。「無駄なスペースがなくてスッキリ、って思ったんですよ。でも一週間くらいして、ふと背面に手を伸ばしたら、壁との隙間がほんのり生ぬるくて。あれ、これ熱がこもってる…?電気代、大丈夫かなって急に心配になりました」。
冷蔵庫、壁ギリギリ。そう検索する人は、Kさんのように設置スペースがぴったりで隙間がない、あるいはこれから買う冷蔵庫が壁に近くなりそうで不安、というどちらかだ。先に結論を言う。最近の冷蔵庫は昔より隙間が少なくて済むが、ゼロは避けたい。どこにどれだけ空ければいいのか、なぜ隙間が必要なのか、そして狭くても済ませるコツまで、順番に話していく。
冷蔵庫は冷気を作るのではなく、熱を捨てている
まず、なぜ隙間が必要なのかを知ると、すべてが腑に落ちる。
冷蔵庫は、冷たい空気を作り出しているわけではない。庫内の食材や空気から熱を奪い、その熱を外に捨てることで冷やしている。ヒートポンプという仕組みだ。つまり冷蔵庫は、常に熱を排出している家電なのだ。
この捨てる熱の逃げ場がないと、どうなるか。排出した熱が冷蔵庫の周りにこもり、その熱をまた奪わなければならなくなる。冷やす効率が落ち、コンプレッサーが余計に働き、電気代が上がる。最悪の場合、冷えが悪くなったり寿命が縮んだりする。Kさんが背面で感じた生ぬるさは、まさに逃げ場を失った熱だった。隙間は、この熱を逃がすための通り道なのだ。
どこに、どれだけ空ければいいのか
今の冷蔵庫は、上と左右が肝心
ここで多くの人が驚く事実がある。隙間を空ける場所が、昔と今では変わっているのだ。
型が古い冷蔵庫は、背面に黒い網のような放熱板がついていた。だから背面を壁から10センチ以上離す必要があった。ところが最近の冷蔵庫は、放熱板の位置が本体の側面と上部に移っている。外から見えないよう、本体の鉄板全体で熱を捨てる設計に変わった。
そのため、現在の冷蔵庫で重要なのは背面ではなく、上部と左右だ。メーカーの目安では、上部に5センチ以上、左右にそれぞれ5ミリ以上の隙間が推奨されている。背面は、基本的に放熱スペースが必要ないモデルも増えている。背面をぴったり壁につけても、上と横さえ空いていれば、放熱は成立する場合が多い。思っていたより隙間がなくても大丈夫、と感じた人は正しい。
背面を離すべき、例外のケース
ただし、背面を離したほうがいい場合もある。これは知っておきたい。
湿気が多くて壁の結露が気になるときは、壁から3センチ以上離す。結露を放置すると、壁にカビが生えたり変色したりする。背面側にコンセントがある場合も、プラグの分だけ壁から離す必要がある。振動音が壁に伝わるのが気になるとき、壁の汚れを防ぎたいときも、少し離して設置するといい。
つまり、放熱のためだけでなく、結露やコンセント、振動への配慮として背面の隙間が役立つ場面がある。自分の設置環境がこれらに当てはまるなら、背面もある程度空けておくほうが無難だ。
機種ごとに違うから、取扱説明書が正解
ここまで一般的な目安を挙げてきたが、最も確実なのは取扱説明書を見ることだ。
必要な隙間は、機種によって異なる。あるメーカーの大型モデルでは上部30センチ、左右2センチ、背面7センチが必要とされるものもあれば、別のタイプでは上部だけ空ければいいものもある。放熱板がどこにあるかで、空けるべき場所がまるで変わる。買う前、設置する前に、その冷蔵庫の仕様書で放熱スペースを確認する。これが、電気代と寿命を守るいちばん確実な方法だ。
スペースがギリギリでも、快適に使うコツ
カタログ値プラス1センチで、余裕を持たせる
設置スペースがぎりぎりの賃貸やキッチンでは、隙間を取りたくても取れないことがある。そんなときの考え方がある。
理想は、カタログに書かれた放熱スペースの数値に、さらに5ミリから1センチほど余裕を持たせることだ。この余裕が、電気代を抑え、冷蔵庫を長持ちさせる秘訣になる。逆に、設置スペースから冷蔵庫の幅を決めるときは、本体サイズに加えてこの放熱スペースぶんを引いた幅で選ぶ。置けると使えるは違う、という視点が大事だ。
測るときの注意もある。壁は必ずしも垂直ではないし、床近くには巾木という出っ張りがある。コンセントプレートやスイッチが干渉しないか、マンションなら天井の梁が奥で出っ張っていないかも確認する。ミリ単位の正確な計測が、入るはずだったのに入らない、を防ぐ。
上に物を置かない、貼り物をしない
隙間を確保しても、放熱を自分で妨げてしまう習慣がある。気をつけたい。
冷蔵庫の上に物を置くと、上部からの放熱が妨げられる。今の冷蔵庫は上部が放熱の要なので、上に何も置かないのが基本だ。同じ理由で、側面や前面に磁石でいろいろ貼り付けたり、リメイクシートで全体を覆ったりするのも、放熱効率を落とす。おしゃれにアレンジしたい気持ちはわかるが、放熱面をふさぐと電気代に跳ね返る。
隙間にたまるホコリも放熱の敵だ。側面や背面にホコリが積もると、熱がうまく逃げなくなる。定期的に冷蔵庫を動かして、隙間のホコリを掃除する。狭い設置だからこそ、この一手間が効いてくる。
壁の汚れ防止シートで、退去時も守る
賃貸でギリギリに置くなら、設置前にやっておきたいことがある。
背面の壁に、冷蔵庫用のキズ防止マットや防カビ・汚れ防止シートを貼っておく。ホームセンターや100円ショップで手に入る。これを一枚挟むだけで、結露や静電気による汚れが壁紙に直接ダメージを与えるのを防げる。退去時の原状回復トラブルを避けるためにも、設置してからでは手が届かないので、必ず設置前に貼っておきたい。
シェアハウスの共用冷蔵庫を、壁から少し離した話
Kさんの冷蔵庫は、結局どうしたか。
取扱説明書を確認すると、上部と左右に隙間が必要なタイプだった。背面はぴったりでも問題ないモデルだったが、Kさんは念のため、冷蔵庫を数センチ手前に引いて、背面にも少し空気の通り道を作った。「背面の生ぬるさが消えて、隙間に手を入れても熱がこもってない感じになって。ついでに壁にシートも貼って、これで退去のときも安心です」。
共用冷蔵庫だったので、Kさんはこのことをメンバーにも共有した。「みんなで使う冷蔵庫の電気代って、結局みんなで割って払うんですよ。だから放熱できてないと、全員が余計に払うことになる。上に物を置かない、っていうのもルールにしました」。冷蔵庫の上が物置になりがちな共用キッチンで、上を空ける習慣が根づいたという。
見えてきたのは、冷蔵庫の壁ギリギリ設置は、上と左右さえ空けて取扱説明書を守れば、過度に恐れる必要はないという事実だった。熱の逃げ場を作る。放熱面をふさがない。この二つを押さえれば、限られたスペースでも電気代を抑えて長く使える。背面の生ぬるさにヒヤッとしたあの日から、Kさんの冷蔵庫は今、ほどよい隙間に守られて静かに働いている。

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