共用の洗濯機が、まさかの二層式だった
シェアハウスに引っ越した初日、共用の洗濯スペースをのぞいて、思わず二度見した。そこにあったのは、全自動ではなく、槽が二つ並んだ二層式の洗濯機。洗いの槽と脱水の槽が別々になっている、あのタイプだ。
都内のシェアハウスに住むMさんが、そのときのことを話す。「今どき二層式!?って、正直びっくりして。洗濯物を自分で移し替えるやつですよね。面倒くさそうって顔に出てたと思います。なんでわざわざ全自動にしないんだろうって、しばらく槽の前で腕を組んでました」。
二層式洗濯機を使ってる人。検索する人は、Mさんのように、なぜ今も二層式なのかを不思議に思っているか、自分も使うか迷っていることが多い。先に言う。二層式を使ってる人は、変わり者ではない。洗浄力や安さ、丈夫さを最優先した、合理的な選択をしている人たちだ。今も家庭の約5パーセントが使い続けている。その理由と、向き不向きの線引きを、Mさんの共用洗濯機をたどりながら整理していく。
手間がかかるのに使い続ける、その裏には理由がある
まず、多くの人が抱く疑問に向き合いたい。全自動が当たり前の今、なぜあえて手間のかかる二層式なのか。
二層式は、洗いの槽で洗って、終わったら自分で脱水の槽に移し替える。全自動のように、スイッチを押して放っておけば終わる、という手軽さはない。それでも使い続ける少数派のユーザーがいる。彼らは、手間という一点を差し引いても余りある利点を知っているから、二層式を選んでいる。その利点が何なのかを、順番に見ていく。手間を惜しまない人だけが得られる恩恵がある、というのが二層式の本質だ。
二層式を使う人が語る、7つの理由
理由1 とにかく洗浄力が高い
二層式ユーザーが口を揃えて挙げるのが、これだ。汚れ落ちが、全自動とは段違いにいい。
全自動の縦型は、洗濯槽が二重構造になっていて、モーターの力が槽に伝わりにくい。一方、二層式の洗濯槽は二重になっておらず、モーターの回転が直接伝わる。回転羽根の力が非常に強く、衣類を力強く撹拌して、繊維の奥に入り込んだ泥汚れや汗染みを、力ずくで落とす。全自動が優しくもみ洗いするのに対して、二層式はガンガン洗う。これ本当に落ちるの、と諦めていたガンコな汚れが、すっきり落ちる。
理由2 本体価格が安い
コスト面の魅力も大きい。二層式の本体価格は、2万円から3万円ほど。全自動の縦型やドラム式が10万円を超えることもざらなのに比べると、約半額かそれ以下だ。
安いのに洗浄力が高いので、コストパフォーマンスがずば抜けている。限られた予算でやりくりする一人暮らしや、部活やサークルの共同利用でも重宝される。初期費用を抑えたい人にとって、この安さは決定的な理由になる。
理由3 シンプルな構造で、丈夫で長持ち
長く使えることも、見逃せない利点だ。二層式は構造が単純なので、丈夫で壊れにくい。10年以上、大切に使えば20年近く使えるモデルもある。
壊れても修理がしやすい。この丈夫さゆえに、理容室や美容室、ガソリンスタンド、工場といった業務用の現場で、今も根強く使われ続けている。屋外で使われていることもあるほどタフだ。頻繁に買い替えたくない人、壊れにくいものを長く使いたい人に、二層式は応える。
理由4 洗いと脱水を同時に進められる
効率の面での強みもある。洗濯槽と脱水槽が分かれているので、洗いと脱水を同時進行できる。
片方の槽で洗濯している間に、もう片方の槽で先に洗ったものを脱水する。この並行作業ができるので、洗濯物が多いときは、全自動よりも短時間で大量に洗える。朝の忙しい時間帯でも、テンポよく洗濯を回せる。洗濯物の量が多い家庭にとって、この同時進行は大きなメリットだ。
理由5 洗い方を自分で自由に調整できる
洗濯にこだわる人が二層式を選ぶ理由が、この自由度だ。全自動はコースごとに水量や時間が決められているが、二層式は自分で細かく設定できる。
洗いの時間を長くする、すすぎだけをする、脱水だけをする、つけ置きをする、途中で洗剤を足す。汚れや素材に合わせて、思いのままに調整できる。泥汚れのひどいものを先に洗い、色柄物と白物を分けて洗う、といった使い分けも簡単だ。手洗いに近い感覚で、洗濯物一つひとつに合わせた洗い方ができる。
理由6 水を再利用できて、節水になる
節約の面でも優れている。二層式は、洗濯に使った水をいちいち捨てずに、溜めておける。
洗濯物の汚れ具合を見て、汚れの軽いものから洗えば、洗濯水や洗剤を使い回せる。すすぎも、水を溜めてすすぐ、ためすすぎを使えば、水道を出しっぱなしにするより大幅に水を節約できる。お風呂の残り湯を使えば、さらに水道代が浮く。水の使い方を自分でコントロールできるのが、二層式の節水力の源だ。
理由7 カビが生えにくく、手入れが楽
衛生面の利点もある。二層式の洗濯槽は、全自動のように二重構造になっていないので、カビが生えにくい。
全自動の縦型は、槽の裏側にカビが繁殖して、それが衣類に移ることがある。二層式は、その隠れたカビの温床がない。衣類へのカビ移りの心配が減る。構造がシンプルなぶん、槽の手入れも簡単だ。清潔さを保ちやすいことも、二層式が支持される理由になっている。
唯一にして最大のデメリットは、手間
移し替えと、洗濯中の拘束が負担になる
ここまで利点を並べてきたが、二層式には、はっきりしたデメリットもある。公平に見ておきたい。
最大のデメリットは、手間がかかることだ。洗いが終わったら脱水槽に移し、脱水が終わったら洗濯槽に戻してすすぎ、またすすぎ後に脱水槽へ移す。この移し替えを手動で行う。濡れた洗濯物に何度も触れなくてはならないので、寒い季節や夜は、それが負担になる。さらに、工程ごとに操作がいるので、洗濯中はその場に拘束される。洗濯中にちょっと買い物へ、という使い方がしにくい。全自動のように、放っておけば終わる、とはいかない。
場所を取り、脱水の音も大きい
ほかにも、いくつか短所がある。二層式は槽が二つ横に並ぶので、幅が広く、場所を取る。省スペース性はよくないので、洗濯パンのサイズと合わないこともある。運転音、特に脱水時の音が大きめなのも気になる点だ。集合住宅や夜間に使うなら、静音性や防振対策を考えたい。毛布や布団のような大きなものは、コンパクトな機種だと洗いにくい。給水を手動で止める必要があるので、目を離すと水があふれることもある。これらを許容できるかが、選ぶ際の分かれ目になる。
結局、二層式が向いている人は誰か
汚れ落ちとコストを重視する人に向く
デメリットを踏まえて、向き不向きを整理する。二層式が向いているのは、こんな人だ。
泥汚れや作業着、部活のユニフォームなど、汚れのひどいものを頻繁に洗う人。洗浄力を何より重視する人。初期費用を抑えたい人。壊れにくいものを長く使いたい人。洗濯物が多くて、同時進行で効率よく洗いたい人。水道代を節約したい人。洗濯にこだわって、自分で洗い方を調整したい人。肌にやさしい粉石けんを使いたい人。これらに当てはまるなら、二層式は全自動より満足度が高い。
時短と手軽さを求める人には向かない
逆に、二層式が向かない人もはっきりしている。洗濯を時短したい人、手間をかけたくない人だ。
移し替えの手間が、毎回のストレスになる。洗濯中に外出したい人、放っておいて終わらせたい人にも向かない。省スペースを重視する人、毛布などの大物を洗いたい人も、二層式では不便を感じる。こうした人は、素直に全自動を選んだほうがいい。ちなみに、まとめ洗いは大きな全自動、汚れのひどいものだけ小型の二層式、という二台使いの合わせ技も、洗浄力と手軽さの両取りができて賢い選択だ。
シェアハウスの共用二層式が、意外な人気者になった話
Mさんは、あの二層式をどう受け止めるようになったか。
最初は面倒に感じていたが、あるとき泥だらけになったスニーカーと部活着を洗って、考えが変わった。「全自動じゃ落ちなかった泥汚れが、二層式だとびっくりするくらい落ちて。洗い上がりを見て、思わずおおって声が出ました。手間はかかるけど、この汚れ落ちは代えがたいなって」。
共用の二層式ならではの発見もあった。「みんなで使うと、洗いと脱水を同時に回せるのが地味に便利で。誰かが洗ってる間に、別の人が脱水を使えるんです。しかも本体が丈夫だから、大勢で毎日使ってもなかなか壊れない。共用にはむしろ向いてるのかもって、見直しました」。運動部のメンバーや、料理で服を汚しがちなメンバーには、特に好評だったという。
見えてきたのは、二層式洗濯機を使ってる人は、手間と引き換えに洗浄力とコストと耐久性を選んだ、理にかなった人たちだという事実だった。汚れ落ち重視、コスト重視、丈夫さ重視なら、二層式はむしろ全自動より合う。手間を受け入れられるかが、唯一の分かれ目になる。今どき二層式かと二度見したあの日から、Mさんは共用の二層式を、その汚れ落ちごと気に入って使っている。

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