レジの手前で、カートを止めて固まった
カートの上に、二.二キロの鶏むね肉。トイレットペーパー三十ロール。冷凍のベリー。牛乳二本。ロティサリーチキン。
そして、袋がない。
気づいたのは、レジまであと三組というところでした。手のひらがじわっと湿る。うしろのカートが、じりじり近づいてくる。
(今から車に戻る……いや、無理だ)
シェアハウスの買い出し当番だった私は、五人分の食料を前に、完全に固まりました。
隣のカートには、たたまれた大きな袋
横を見ると、みんな用意がいいんですよ。
巨大な保冷バッグ。折りたたみのコンテナ。使い込まれたエコバッグを三枚。
準備してきた人たちの列に、手ぶらで並んでいる自分。あの居心地の悪さ、味わった人にはわかるはず。
落ち着いてください、詰む状況ではない
先に言っておきます。買い物をあきらめる必要は、まったくありません。
コストコは、袋を忘れた人がいることを最初から織り込んでいる店です。
慌てて列を抜けなくていい。そのまま進んで大丈夫。
コストコに、レジ袋はない
その代わりに、ダンボールがある
あの店では、レジ袋を配っていません。有料でも、売っていない。ここが他のスーパーと決定的に違うところ。
代わりに置いてあるのが、商品が入っていた空のダンボールです。
レジの周りや、レジを抜けた先のスペースに、大小さまざまな箱が積まれている。あれを使っていい。
無料です。誰にも咎められません。
ダンボールは無料。ただし、いつでもあるとは限らない
ここが、ネットの記事があまり書かない部分。
箱の量は、時間帯でまったく違います。
補充作業が進む午前から昼過ぎは、空き箱がどんどん出てくる。積み上がっている。
夕方以降、特に週末の閉店前は、めぼしい箱が消えている日があります。残っているのは、ぺしゃんこの薄い箱と、やたら深い巨大な箱だけ。
袋を忘れたと気づいたなら、レジに並ぶ前に箱を確保しておく。この順番が効きます。
レジで言うべき、たった一言
レジのスタッフに、箱がほしいと伝える。それだけ。
慣れているので、たいていすぐに出してくれます。会計後の袋詰めスペースまで、そのまま流れていく。
恥ずかしがる必要は、本当にないです。忘れる人、毎日います。
いい箱と、後悔する箱がある
深すぎる箱は、腰を壊す
選べるなら、浅めの箱。
深い箱に食材を詰めると、あっという間に持てない重さになります。取っ手の穴に指をかけて持ち上げた瞬間、腰にぐっと来る。
うちの買い出しで、深い箱をひとつ選んだ日。駐車場までの三十メートルで、二回止まりました。
浅い箱を二つ。これが正解でした。
底が抜ける箱の見分け方
持ち上げる前に、底を見てください。
一度水に濡れて乾いた箱は、繊維が波打っていて、指で押すとふにゃっと沈む。冷蔵品が入っていた箱に多い。
その箱に牛乳を二本入れて持ち上げると、駐車場で底が抜けます。
(ぶちゃっという音、二度と聞きたくない)
卵とパンは、箱に入れてはいけない
重い缶やペットボトルの隣に卵を置くと、車の揺れで確実に割れます。
パンも同じ。潰れたディナーロールを見た朝の、あのしぼんだ気持ち。
卵とパンだけは、手で持つ。もしくは助手席の足元に単独で置く。箱に詰めない。この一行だけでも覚えて帰ってください。
箱がなかった日の、現実的な逃げ道
売り場で袋を買って、その場で使う
箱が枯れていた夕方。私が最後に取った手です。
売り場に戻って、コストコで売っているエコバッグや保冷バッグを買う。それをレジに一緒に通して、会計後にその袋へ詰める。
高くはつきます。でも、次からずっと使えるものが手に入る。忘れた罰金だと思えば、悪くない。
保冷バッグは、夏場なら特に元が取れます。
カートのまま駐車場まで運ぶ
コストコのカートは、駐車場まで持ち出せます。
つまり、箱がなくても、カートに商品を裸で乗せたまま車まで行ける。そこから直接トランクへ移せばいい。
袋詰めという工程を、丸ごと飛ばす手です。
車で来ている人にとっては、これがいちばん速い。
台車のような使い方をしない
ただし、カートを車の横に置きっぱなしにして、のんびり積み替えるのはやめたほうがいい。
坂のある駐車場だと、カートが勝手に動き出します。隣の車に、ごつん。
積み終わったら、返却場所へ戻す。当たり前のことですが、慌てている日ほど飛ばしがちです。
車に積むところまでが、買い物です
助手席に積んだ肉が、カーブで飛ぶ
箱を助手席に置いて、最初の右カーブ。
どさっ。
二.二キロの鶏むね肉が、足元へダイブしました。ドリップが染み出して、マットに赤い染みが残った。あれを拭く時間のほうが、袋を取りに戻る時間より、はるかに長かった。
箱は、床に置く。座席には置かない。
重い箱は下、軽い箱は上、が崩れる理由
積み方の基本は、重いものを下。これは誰でも知っています。
崩れるのは、箱の大きさがバラバラだから。
大きい箱の上に、小さくて重い箱を乗せると、加速のたびに前へ滑る。ずるっ、ずるっと。
底面のサイズを揃えて積む。無理なら、隙間にトイレットペーパーの袋を突っ込む。あれは優秀な緩衝材です。
保冷はどうする
箱には、保冷機能がありません。夏場の車内は、想像より速く温度が上がる。
生鮮を買った日は、レジ横の保冷剤や氷を活用する。もらえる場合があります。
もっと確実なのは、買い回りの順番を変えること。冷凍と冷蔵を最後に取る。それだけで、庫内にいる時間が二十分は変わります。
レジではなく、入口で解決する
会員証を出す前に、目に入る場所
根本的な話をします。
袋を忘れたことに、レジで気づくから慌てるんです。入口で気づけば、まだ車に戻れる。
会員証を出す瞬間、カバンの中を見る。そこに袋がなければ、その場でカートを置いて取りに戻る。往復三分。レジで固まる十分より、ずっと安い。
忘れる人は、また忘れる
意志の力に期待しない。これがいちばんの結論です。
袋を玄関に置いても、忘れる。カバンの中に入れても、別のカバンで行って、忘れる。
車で行くなら、車に置きっぱなしにする。それだけ。トランクに畳んだ保冷バッグを常備しておけば、持って出る工程そのものが消えます。
忘れる人間を責めるより、忘れても成立する仕組みを作るほうが早い。
この家が落ち着いた、袋の置き場所
玄関でも、部屋でもなかった
うちのシェアハウスでは、買い出し用の大きな保冷バッグを、車の後部座席の足元に置きっぱなしにしています。
玄関のフックに掛けていた頃は、三回に一回は忘れていた。車に置いてからは、ゼロ。
持ち帰ったら、中身を出して、そのまま車に戻す。ルールはこれだけ。
忘れた日の買い物は、意外と悪くない
あの日、私はダンボールを二つ抱えて駐車場を歩きました。
腕が痛い。箱の角が脇腹に刺さる。息が上がる。
帰って玄関で箱を開けたら、住人たちが群がってきました。箱から出てくる大量の食材に、なぜかテンションが上がるんですよ、あれ。
袋なら、こうはならなかった。箱には、そういう祝祭感がある。
忘れたことを恥じる必要は、たぶんどこにもない。

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