雨の金曜、洗濯物を抱えて立ち尽くした
玄関のドアを開けたら、土砂降りでした。
両手には、二日分の洗濯物を詰めた大きな袋。傘は、片手じゃ差せない。
(今日じゃなきゃダメか……いや、明日も雨だ)
コインランドリーは、歩いて七分。その七分が、絶望的に遠く感じた。
洗濯機を買わずに一人暮らしを始めて、二か月目。あの雨の金曜が、最初に心が折れかけた夜でした。
手ぶらで引っ越せた解放感は、本物だった
最初は、最高だったんです。
洗濯機を買わない。それだけで、初期費用が数万円浮いた。引っ越しの荷物も減って、業者の見積もりが安くなった。
狭いワンルームの、洗濯機置き場だったスペースに、棚を置けた。部屋が広い。身軽さって、こういうことか、と思いました。
問題は、費用ではなく主導権だった
持たない生活を検索する人は、たいてい費用で悩んでいます。
でも、二か月やってみてわかった。効いてくるのは、金額じゃない。
いつ洗うかを、自分で決められなくなること。天気と、営業時間と、洗濯機の空き。この三つに、生活のリズムを握られる。ここが、本当の分かれ道でした。
洗濯機を持たない生活は、成立する
週一なら、コインランドリーで回る
先に、できるという話をします。
一人分の洗濯物は、そんなに出ません。週に一回まとめて洗えば、十分に回ります。
平日は部屋着とタオル、休日にシャツと下着をまとめて。この頻度なら、コインランドリー生活は現実的に成立します。
乾燥まで五十分で終わる、という速さ
これは、家の洗濯機にはない強みです。
大型の乾燥機は、パワーが桁違い。洗濯から乾燥まで、一時間かからずに終わる。ふかふかに乾いて、たたむだけ。
部屋干しの生乾き臭とも、無縁です。梅雨の時期、これは想像以上にありがたい。
設置スペースが、丸ごと空く
洗濯機は、場所を取ります。
その一角がまるまる空くと、狭い部屋では効果が大きい。収納にも、作業スペースにもできる。
洗濯機の振動音も、排水口の掃除も、そもそも存在しない。持たないことで消える面倒は、確かにあります。
それでも、毎月いくらかかるのか
一回の洗濯乾燥、その相場
コインランドリーで、洗濯と乾燥を通しでやると、一回あたりだいたい七百円から千円ほど。
洗濯だけなら数百円、乾燥はそこに追加でかかる、という料金体系が一般的です。乾燥は時間で課金されるので、詰め込みすぎると延長ぶんがかさむ。
店や地域で幅があるので、近所の一台を一度、確かめておくといい。
週一で通うと、月にこうなる
仮に、一回八百円として、週に一回。
月に、およそ三千二百円。年間だと、四万円近く。
夏場に頻度が上がれば、もっといく。この金額を、高いと見るか、身軽さの対価と見るか。ここが最初の判断材料になります。
洗濯機を買った場合と、並べてみる
一人暮らし向けの洗濯機は、安いものなら数万円で手に入ります。
乾燥機能なしのシンプルなものなら、三万円台から。ここに、設置費用や運搬費が乗ることもある。
コインランドリーの年間四万円と、洗濯機本体の数万円。この二つを、まず並べてみてください。
損益が分かれるのは、何か月目か
二年以上住むなら、たぶん買ったほうが安い
ざっくりした目安を出します。
コインランドリーに月三千円以上かけるなら、一年ちょっとで、安い洗濯機の本体価格を超えます。
その部屋に二年、三年と住むつもりなら、初期費用を払っても、洗濯機を買ったほうが総額は安く収まる可能性が高い。
半年で出る予定なら、持たない一択
逆に、住む期間が短いなら、話は変わります。
半年だけの単身赴任。数か月のお試し移住。すぐ引っ越すかもしれない状況。
この場合、買って、運んで、また処分する手間と費用のほうが重い。持たない生活が、はっきり有利です。
電気代と水道代を、忘れていないか
洗濯機を買う派が見落とすのが、ここ。
本体を買っても、毎月の電気代と水道代がかかります。乾燥機付きなら、電気代はさらに乗る。
コインランドリーの料金には、これが全部含まれている。単純な本体価格の比較だけだと、この差を取りこぼします。
金額に出てこない、本当のコスト
天気に、予定を握られる
あの雨の金曜の話に、戻ります。
自宅に洗濯機があれば、雨だろうが深夜だろうが、いつでも回せる。乾燥は部屋干しでいい。
コインランドリーは、外に持ち出す前提です。土砂降りの日に、洗濯物を抱えて七分歩けますか。この一点が、地味に、でも確実に効いてくる。
待ち時間という、消えていく一時間
洗濯機を回して、部屋で他のことをする。これができません。
洗濯から乾燥まで、一時間近く。その間、店で待つか、一度帰ってまた戻るか。
待っている間にスマホをいじる一時間。これが週に一回。塵も積もれば、けっこうな時間です。本を読むと決めれば有効に使えますが、決めないとただ溶けます。
下着を、外で洗うということ
これは、感覚の問題です。
自分の下着やタオルを、共用の機械で洗う。前に誰が何を洗ったか、わからない。
気にならない人は、まったく平気。でも、少しでも引っかかる人は、毎週それがストレスになります。ここは、自分の性格と相談するしかない。
持たない生活が向く人、詰む人
出張と外泊が多い人は、勝てる
家を空けがちな人には、持たない生活が向いています。
そもそも部屋にいる時間が短いなら、洗濯機の稼働率も低い。まとめて洗う生活と、相性がいい。
出張帰りに、たまった洗濯物を一気に片付ける。この使い方なら、コインランドリーのパワーが活きます。
在宅で、毎日汗をかく人は詰む
逆に、これは厳しい。
在宅勤務で毎日部屋着を替える。運動の習慣があって、汗だくのウェアが毎日出る。夏に、Tシャツを一日二枚。
洗濯物が毎日出る生活だと、週一の頻度では回りません。通う回数が増え、費用も手間も膨らむ。ここは、素直に洗濯機を持つべきです。
潔癖の気があるなら、やめておく
共用の機械に抵抗がある人は、最初から買ったほうがいい。
毎週のことなので、小さな引っかかりが、じわじわ効いてくる。
自分が神経質なほうだと自覚があるなら、無理に節約しない。ストレスの総量が、数万円の差を軽く上回ります。
折衷案は、ちゃんとある
手洗いと、小型の相棒
全部をどちらかに寄せなくても、いいんです。
下着や靴下といった、毎日出る少量のものは、洗面所で手洗いする。シーツやまとめ洗いだけ、月に数回コインランドリーへ。
バケツ型の小型洗濯機や、折りたためるタイプもあります。省スペースで、下着だけ洗うには十分。外で下着を洗う抵抗が、これで消える人もいます。
設置できるか、退去でいくらか
洗濯機を買う前に、確認すること。
そもそも部屋に、蛇口と排水口はありますか。防水パンのサイズに、買う機種は収まりますか。ここを測らずに買うと、置けない悲劇が起きます。
退去時に、洗濯機を処分する費用もかかる。リサイクル料と、運び出し。買うなら、出ていくときのことまで、頭に入れておく。
この家で出た、身も蓋もない結論
半年は通い、七か月目に買った
私は結局、半年間コインランドリーで粘って、七か月目に安い洗濯機を買いました。
決め手は、あの雨の金曜が、何度も来たこと。天気に予定を握られる感覚に、耐えられなかった。
費用の計算では、まだコインランドリーが少し安い時期でした。それでも買った。金額じゃなかったんです。
自由の値段は、人によって違う
持たない生活は、確かに成立します。身軽で、初期費用がかからず、乾燥まで速い。
でも、その自由と引き換えに、いつ洗うかを決める権利を、少しだけ手放している。
その権利を、月三千円で買い戻すか。天気に振り回されても身軽さを取るか。
今、私の部屋の一角には、小さな洗濯機が静かに回っています。雨の日でも、深夜でも、好きなときに。あの七分の道のりを歩かなくていい。それだけで、私にとっては元が取れました。
あなたの暮らし方が、週一の外出で回るのか、毎日の洗濯を必要とするのか。分かれ目は、たぶんそこにあります。

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