たたんだ毛布の山に手を入れたら、中がまだ熱かった。
外側は冷めているのに、二枚目と三枚目のあいだだけ、もわっとした熱が残っている。コインランドリーから持ち帰って三十分。
ユイさんは手のひらをそこに当てたまま、少し黙った。
「乾燥が終わったら熱いのは当たり前だと思ってたんですけど、この熱、どこにも逃げてないなって」
毛布と乾燥機と火事。この三つが結びつく場面は、実はこの瞬間にいちばん近い。
燃えるのは毛布ではなく、残った油
酸化するときに、熱が出る
繊維そのものが自然に燃え出すわけではない。火のもとになるのは、布に染み込んだ油。
美容オイルや食用油、動物性の油は、空気に触れると酸化する。このとき熱が出る。これを酸化熱という。
外気に触れて放熱できていれば、温度は上がらない。ところが熱がこもる場所に押し込まれると、その熱が積み重なって温度が上がり続け、やがて発火する。
乾燥機の熱風は、この反応の引き金を引く。高温にさらされた油の酸化が一気に進むから。
洗っても落ちきらないことがある
ここが厄介なところ。パナソニックは、油分の付着した衣類やタオルは洗濯後でも絶対に乾燥機で乾かさないよう案内している。通常の洗濯では油分が完全には落ちない場合があるため。
洗ったから大丈夫、という判断がいちばん危ない。
実験の記録も残っている。美容油を染み込ませたシャツを乾燥機から取り出してカゴに入れ、そのまま置いておいたところ、自然発火して洗濯物全体が燃えたという結果。
洗剤が残っていて焦げつきや発煙が起きた例もある。すすぎが足りない状態で高温にかけるのも、避けたほうがいい。
家の中で、毛布に付きやすい油
ボディオイルとヘアオイル
寝る前にオイルを塗る習慣がある人は、毛布に思っている以上の量が移っている。
オリーブオイル、アーモンドオイル、グレープシードオイル。消防が名前を挙げているのは、まさにこのあたり。
髪につけたオイルは、枕カバーだけでなく毛布の縁にも付く。首まわりが少し黒ずんでいる毛布は、その分だけ油を抱えている。
ペットのケア用品と、食べこぼし
犬や猫のブラッシング用スプレー、肉球のクリーム。毛布の上で手入れをしていると、確実に移る。
それから食べこぼし。ソファで鍋やピザを食べた夜の毛布は、油の面から見るとかなり汚れている。
アロマオイルを枕元で使う人も同じ。染み込んだ布は酸化反応を起こしているので、熱をこもらせない前提で扱う。
思い当たる節があるなら、その毛布は乾燥機に入れず、広げて自然乾燥させる。これが最も確実な線。
洗濯表示の四角を、最初に見る
丸の中の点は温度
タグを見る。四角の中に丸が描かれていれば、それがタンブル乾燥の表示。
丸の中の点がひとつなら低温で、上限はおよそ六十度。ふたつなら高温で、およそ八十度まで。
コインランドリーのガス乾燥機は最大で八十度あたりまで上がる。点ひとつの表示しかない毛布を高温コースにかけると、それだけで条件を外れる。
バツが付いていたら、そこで終わり
四角と丸にバツが重なっていたら、タンブル乾燥は禁止。迷う余地はない。
表示そのものがない古い毛布もある。二〇一六年より前のものだと、タンブル乾燥はお避けくださいという文章で書かれていることがあるので、タグの裏まで読む。
判断がつかないときは、使わないほうを選ぶ。乾かす手段は他にもある。
素材ごとに、起きることが違う
アクリルは縮んで硬くなる
アクリルの毛布は、タンブル乾燥禁止になっているものが多い。
高温をかけると繊維が縮み、あの柔らかさが失われる。手触りがぱりっと硬くなり、元には戻らない。
さらに温度が上がると、焦げや変色が起きる。合成繊維は溶ける性質を持つので、局所的に高温になった部分が固まって塊になることもある。
乾きの速い素材なので、外に干せば半日で仕上がる。竿を二本使ってM字に掛けると、内側に空気の通り道ができて早く乾く。
中綿と低反発は、熱がこもる
中綿の入った布製品は、外側が乾いても内部に熱と湿気が残りやすい。
低反発のウレタンを使ったものは、そもそも熱に弱い。劣化して粉のように崩れる。
スポンジやポリプロピレン製品と並んで、乾燥機に入れないものとして挙げられている分類。厚みのあるものほど、熱の逃げ場が減ると考えておく。
電気毛布は例外なく不可
これだけは条件を問わない。内部に発熱線が通っているので、回転と熱で断線する。
断線した箇所で異常な発熱が起きれば、そこから火が出る。翌シーズンに使うまで気づけないのも怖いところ。
洗える表示のあるものでも、乾燥は自然乾燥のみ。コードとコントローラーを外し、陰干しで乾かす。
詰め込みと、綿ぼこり
容量の半分でまわす
毛布は水を含むと重く、体積も大きい。ドラムいっぱいに押し込むと、回転せずに同じ面ばかりが熱風に当たる。
容量の半分から三分の一を目安にする。回っている様子が窓から見えるくらいの余裕があれば、熱が均等に入る。
コインランドリーで、ひとつ大きいサイズの機械を選ぶ。数百円の差で、仕上がりも安全も変わる。
フィルターを毎回さらう
札幌市消防局の調査報告では、コインランドリーのガス乾燥機からの出火として、油分を含んだ洗濯物からの発火に加えて、バーナーの火に着火した綿ぼこりがドラム内へ侵入した事例が挙げられている。
糸くずのフィルターは、使うたびに掃除する。家庭用でも同じ。毛布は繊維が抜けやすく、一回で驚くほど溜まる。
フィルターが詰まると排気が滞り、庫内の温度が上がる。乾きも悪くなるので、放置していいことはひとつもない。
乾いた直後の十分が、いちばん危ない
すぐ出して、広げて冷ます
消防の説明の中で、いちばん実践しやすいのがこれ。乾燥が終わった洗濯物を機械の中に入れたままにすると、酸化熱が蓄積して自然発火に至る可能性がある。
終了のブザーが鳴ったら出す。そして畳まずに広げる。
熱を持った布は、外気に触れていれば温度が下がっていく。逆に、たたんで積み上げると内側の熱が逃げない。ユイさんが手を入れたあの山が、まさにその状態だった。
持ち帰ってから、積まない
コインランドリーで乾かして、たたんで袋に入れて、自転車で帰る。ここまではよくある流れ。
帰宅したら、袋から出して広げる。ソファの背に掛けるか、床に広げて十分ほど置く。手のひらで触れて、ぬるいと感じる程度まで下がれば大丈夫。
油の付いた布を捨てるときも同じで、水をよく染み込ませてから袋に入れる。塗料やワックスを拭いた布、油を吸った紙。山積みにしないことが共通の対策になる。
マサさんは以前、油の付いた作業着を洗って乾燥機にかけたあと、車の後部座席に丸めて置いていた。何も起きなかったのは、たまたま窓を開けていたからかもしれない。今は洗ったらそのままベランダに掛けている。
毛布を乾燥機に入れてはいけない、という話ではない。表示を確かめ、油の心当たりを外し、終わったらすぐ広げる。この三つが揃えば、ふっくら仕上がる便利さのほうを取れる。

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