五百円の加湿器を、二週間で捨てた話から
十二月、乾燥で喉をやられた住人が三人続いた年。
机の上に置ける小さいやつを買ってくる、とタケルが言って、その日のうちに戻ってきた。
ペットボトルの口に差し込むタイプ。白い霧が、細く上に伸びる。
「見て、出てる出てる」
四人で覗き込んで、そのときは全員が納得していた。
二週間後、彼の机の上でそれは動かなくなった。吸水芯に白い塊が固まって、水を吸い上げなくなっていた。
そもそも、これで湿度上がってたのか?
湿度計を持ってきて測った。三十一パーセント。買う前と、ほとんど変わっていなかった。
シェアハウスに三年住んで、ペットボトル型を五台見送っている。生き残っているのは二台。
使い方を間違えなければ働く道具だけれど、期待の置き場所を間違えると、ただのインテリアになる。
部屋全体を加湿する道具ではない
最初に線を引いておく。
ペットボトル型が出せる水の量は、一時間あたり数十ミリリットル程度。
六畳の部屋の湿度を十パーセント上げるには、それでは足りない。何時間動かしても、数字はほとんど動かない。
この道具が効くのは、顔の周り数十センチの範囲。喉と鼻を守るための、局所的な装置。
そう理解して買えば、満足度が変わる。
選ぶ軸は、方式と手入れのしやすさ
売り場には十種類以上並んでいる。デザインで選ぶと外す。
見るのは、霧を出す仕組みと、内部を洗えるかどうか。この二点。
方式で、性格がまるで違う
超音波式は、霧が見える
一番多く売られているタイプ。
水を細かく振動させて、粒にして飛ばす。白い霧が目に見えるので、動いている実感がある。
消費電力が小さく、パソコンの端子から電源が取れる。机の上で使うには都合がいい。
弱点が二つある。水を加熱しないので、雑菌がそのまま空気に出る。それと、水道水のミネラル分が白い粉になって、周囲に積もる。
うちの住人の机は、キーボードの周りがうっすら白くなっていた。指でなぞると、ざらっとした。
気化式は、霧が出ない
布や紙のフィルターに水を吸わせて、風を当てて飛ばす方式。
霧が見えないので、動いているのか分かりにくい。
そのかわり、白い粉が出ない。周囲を濡らさない。書類やパソコンの近くで使うなら、こちらのほうが安全。
うちで三年生き残っている二台のうち一台が、この方式。フィルターを月に一度交換するだけで、トラブルが起きていない。
吸水芯だけのタイプは、期待しない
電源がいらない、紙やフェルトを水に浸すだけのもの。
静かで、電気も食わない。
出る水分量は、方式のなかで最も少ない。密閉した机の下や、枕元の数十センチの範囲でようやく体感できる程度。
うちの住人が枕元に置いていたが、湿度計は動かなかった。本人は喉が楽になったと言っていた。気の持ちようかどうかは、判断がつかない。
買う前に見る、三つの場所
本体が、分解できるか
これが一番効く判断基準。
水に触れる部分を、全部外して洗えるか。パッケージの写真か、商品ページの分解図を見る。
一体成型で内部に手が届かないものは、二か月ほどで内側にぬめりが出る。洗えないので、そこで寿命になる。
うちが捨てた五台のうち、三台がこの理由。分解できない構造だった。
ボトルの口の規格
差し込むタイプは、ペットボトルの口の径が合わないと使えない。
一般的な飲料のボトルは規格が統一されているが、一部の炭酸飲料や、輸入品は口が違う。
うちの住人が、家にあった炭酸水のボトルで使おうとして、はまらなかった。
使い回すボトルを、先に決めておく。細くて背の高いボトルは、倒れやすい。
底面の広い、二リットルの角形ボトルが一番安定した。
電源の取り方
パソコンの端子から取るタイプが多い。
この場合、パソコンの電源が切れると止まる。夜通し動かしたいなら、コンセントから直接取れるアダプタが要る。
うちは電源タップに挿す形にした。パソコンを閉じても動き続ける。
車で使うなら、シガーソケットに対応しているかを見る。うちの住人が長距離運転用に買っていた。
三年生き残った二台の共通点
毎日、水を替えている
ここが分かれ目だった。
ボトルに水を入れっぱなしにすると、二日目から匂いが出はじめる。
超音波式は、その水をそのまま霧にして飛ばす。匂いのついた水を、部屋に撒くことになる。
うちの生き残り組は、朝に水を捨てて、新しく入れる習慣がついている。作業は三十秒。
捨てた五台のうち二台は、匂いが取れなくなって処分した。
週に一度、クエン酸に浸けている
白い塊の正体は、水道水に含まれるミネラル分。
これが吸水芯や噴霧の部分に固着すると、水が上がらなくなる。
薄めたクエン酸に一時間浸けると、溶ける。しゅわしゅわと細かい泡が出て、白い層が剥がれていく。あの瞬間、地味に気持ちいい。
うちは日曜の朝にまとめてやる。二台同時に浸けて、乾かして、月曜から使う。
精製水を使う住人もいる
ミネラル分を含まない水を使えば、白い粉も固着も起きない。
薬局で買える。二リットルで二百円ほど。
うちの住人の一人がこれをやっている。彼の加湿器は、三年経っても内部が新品同様に透明。
毎回買いに行く手間と費用を、どう見るか。パソコンの近くで使う人には、割に合う選択だと思う。
置き場所で、効き方が変わる
顔から五十センチ以内に
部屋全体を狙わない。自分の呼吸する空気だけを湿らせる。
机の上なら、モニターの横。画面に霧がかからない位置。
うちの住人が画面の真下に置いて、モニターの下部に水滴が付いていた。電子機器の近くは、風向きを見て置く。
枕元なら、頭から少し離した床の上。真上や真横に置くと、寝具が湿る。
床の上には置かない
湿った空気は、冷えると下に降りる。
床に置くと、出た水分が足元に溜まって、呼吸する高さまで届かない。
机の上か、棚の上。目線に近い高さがいい。
うちは十センチの台を作って、その上に置いた。それだけで体感が変わった。
木の家具の上は、避ける
超音波式は、周囲に細かい水滴が落ちる。
無垢の木の机に置くと、その部分だけ表面が白くなることがある。
うちの住人の机は、加湿器を置いていた位置に輪染みが残った。
プラスチックのトレーか、防水のマットを敷く。百円ショップのもので足りる。
ペットボトル型を、選ばないほうがいい人
部屋の湿度を数字で上げたい人
湿度計の針を動かしたいなら、この形式では届かない。
タンク容量が二リットルから四リットルある据え置き型を買う。値段は五千円から一万円ほど。
うちのリビングには据え置き型が一台ある。六畳の個室にペットボトル型、共用スペースに据え置き型、という使い分けに落ち着いた。
手入れを続けられない人
毎日水を替える。週に一度洗う。
この二つを続けられないなら、買っても二か月で使わなくなる。
うちが捨てた五台の背景には、必ずこの怠慢があった。自分も含めて。
手入れが要らない加湿器は存在しない。頻度が違うだけ。
子どもや小動物がいる部屋
ボトルが倒れると、水がこぼれる。電源が入ったまま濡れると危ない。
底面が広くて重い台座が付いているタイプを選ぶ。あるいは、届かない高さに置く。
うちの住人が猫を連れてきた日、机の上のボトルが倒された。幸い電源が抜けていたが、書類が濡れた。
先週、タケルの机を見たら、新しいのが置いてあった。
霧は見えない。フィルターに風が当たっているだけの、静かなタイプ。
横に二リットルの角形ボトルが立っていて、その隣に湿度計。
「今度は、粉が出ないやつ」
彼はそう言って、ボトルの水をひと息に流しに捨て、蛇口を捻った。水の音が、朝のキッチンに響いた。

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