家電量販店で30分、ドアの前から動けなかった
冷蔵庫売り場で、開けて、閉めて、また開けて。
都内のシェアハウスの共用冷蔵庫を買い替えることになったJさん(30代)は、店頭で完全に迷子になっていた。「右開き、観音開き、両開き。店員さんに両開きは便利ですよって言われたんですけど、便利って言葉だけだと、逆に何かウラがある気がしちゃって(笑)」。
両開き冷蔵庫とは、1枚のドアが左右どちらからでも開けられるタイプを指す。シャープのどっちもドアが代表で、1988年から続く同社の看板技術だ。中央から左右に2枚のドアが開く観音開き、いわゆるフレンチドアと混同されやすいが、別物。この記事で扱うのは左右どちらからでも開く方の両開きで、検索して情報が混ざって混乱した人は、まずこの区別から押さえてほしい。
結論を先に出す。両開きのデメリットは確かに存在する。ただしその大半は構造上の宿命で、致命傷になるかは置き場所と使い方で決まる。Jさんの家が買って1年使った本音も交えながら、買う前に知るべき弱点を全部並べていく。
使って分かる、両開きの4つのデメリット
ドアが重く、最後まで閉まりきらないことがある
最初に体感する違和感は、ドアの重さだ。
左右どちらでも開く構造を支えるため、両開きのドアは片開きより部品が多く、重い。開ける瞬間が一番重く、閉めるときはガチッとはまる感触がある。観音開きの軽い2枚ドアに慣れた人ほど、この重さに戸惑う。
そして重さ以上に注意したいのが、半ドア問題だ。普通の冷蔵庫は軽く押せば最後は自然にパタンと閉まる。両開きは構造上その自動で閉まる力が弱く、軽く押しただけでは半開きのまま止まることがある。気づかず放置すれば庫内の温度が上がり、食材が傷み、電気代も無駄に流れる。最近のモデルは閉め忘れ防止ブザーを積んでいるので、買うならこの機能の有無は必ず確認したい。
Jさんの家でも、入居者が閉めたつもりで半ドアになっていたことが最初の月に2回あった。「ピーピー鳴るブザーに何度救われたか。あの音がなかったら、たぶん一度は庫内全滅してました」。
開閉音が大きく、深夜に響く
開けるときのカチッ、閉めるときのバンッ。両開き特有のラッチ機構の音は、片開きより大きい傾向がある。
日中は気にならなくても、深夜のキッチンでは話が変わる。Jさんのシェアハウスはキッチンの隣が個室で、夜中の冷蔵庫の音が壁越しに伝わると指摘があった。今は深夜だけそっと閉める紳士協定ができている。静音性を最優先する人、寝室とキッチンが近い間取りの人は、店頭で実際に閉めて音量を確かめてから決めるべきだ。
両手がふさがっていると、むしろ不便な瞬間がある
意外な盲点がこれだ。両開きのハンドルは左右の縁に縦に付いている。買い物袋で両手がふさがった状態だと、ドアを開ける動作がワンテンポ遅れる。
さらに、左右どちらからでも開くがゆえに、開ける側によって庫内の見え方が変わる。右から開けた日と左から開けた日で視界が反転し、一瞬どこに何を置いたか分からなくなるという声は口コミでも繰り返し出てくる。毎回同じ側から開ける人には無縁の話だが、家族や同居人が多い家では地味に起きる現象だ。
価格が高く、選択肢がシャープにほぼ限られる
両開きは特許技術として長くシャープの独占だった経緯があり、特許期間終了後も他社の参入はわずか。実質、選ぶならシャープ一択に近い。
構造が複雑な分、同容量の片開きより価格は1〜3万円ほど高くなる。メーカー比較で値引き競争をさせる余地も小さい。デザインや省エネ性能の選択肢が他方式より狭いことは、買う前に受け入れておくべき制約だ。
ちなみに壊れやすいという噂については、はっきり言っておきたい。2000年代初頭にドアの不具合事例があったのは事実だが、現在は部品が改良され、シャープは左右10万回の開閉耐久テストを実施している。38年近く続く技術が本当に脆弱なら、とっくに市場から消えている。重さとラッチ音が壊れそうな印象を生んでいるだけで、現行モデルの耐久性への過度な心配は不要だ。
シェアハウスの1年で見えた、デメリットの向こう側
ここまで弱点を並べてきたが、Jさんの家が両開きを選んで後悔したかといえば、答えはノーだ。
決め手は、キッチンの動線だった。5人が暮らす家のキッチンは、シンク側からもリビング側からも人が冷蔵庫にアクセスする。片開きだった旧冷蔵庫の時代は、開いたドアが通路を塞いで、料理中の人の背後をすり抜けられない渋滞が毎晩起きていた。
両開きに替えてから、その渋滞が消えた。料理する人はシンク側から、飲み物を取るだけの人はリビング側から、互いのドアの陰に隠れることなくすれ違える。「導線が2本になった感覚です。あと地味に、開けた側と反対からは中身が見えにくいので、自分の食材を漁られてる視線を感じなくて済むのもいい(笑)」。
取材で見えてきたのは、両開きのデメリットは一人で使うほど目立ち、複数人で使うほど薄まるという構図だった。重さも音も半ドアも、使う人数が増えれば運用でカバーされ、左右から開ける価値だけが日々積み上がっていく。
引っ越しが多い人には、保険として機能する
もうひとつ、両開きが強さを発揮する場面がある。引っ越しだ。
冷蔵庫の置き場所は物件によって右壁付けか左壁付けかが変わる。片開きを持っていると、引っ越し先で壁にドアがぶつかって全開できない悲劇が起きうる。両開きなら、どんな間取りに移っても開く方向を選べる。実際、購入半年で引っ越したら冷蔵庫置き場の向きが真逆だったが、どっちもドアのおかげで問題なく使えたという声もある。
一人暮らしサイズには152Lと179Lのつけかえどっちもドアという選択肢もある。常時両開きではなく、工具なしで開く向きを左右付け替えられる方式だ。転勤族や更新ごとに住み替えるタイプの人にとって、この柔軟性は数万円の価格差を回収して余りある保険になる。
買っていい人、やめたほうがいい人の線引き
整理する。両開き冷蔵庫をやめたほうがいいのは、寝室とキッチンが近く深夜の音が致命的な人、ドアの重さがつらい人、毎回必ず同じ側からしか開けない人、そして1円でも安く買いたい人だ。これらに当てはまるなら、素直に片開きを選んだほうが満足度は高い。
逆に、複数人で冷蔵庫を共有する家、キッチンの両側から人が出入りする間取り、引っ越しの予定や可能性がある人。この条件に一つでも当てはまるなら、両開きのデメリットは許容範囲に収まり、メリットが日常を確実に楽にする。
Jさんの家の冷蔵庫には今、閉め忘れブザーが鳴ったら閉めた人がもう一押しという手書きの貼り紙がある。デメリットを知った上で、運用で飼いならす。1年使った5人の結論は、もう片開きには戻れない、だった。

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