電気代のために保温を切ったら、翌朝ご飯が傷んでいた
シェアハウスの共用炊飯器に、前の晩のご飯が残っていた。電気代がもったいないと思ったメンバーの誰かが、保温を切って、釜のまま置いていったらしい。翌朝、フタを開けたら、なんとなく酸っぱいようなにおいが漂ってきた。
都内のシェアハウスに住むMさんが、そのときのことを話す。「保温つけっぱなしだと電気代かかるから、切っといたほうがいいって思うじゃないですか。でも朝のご飯、においが変で。保温を切ったせいで逆に傷んだのかもって、釜の前で鼻をつまみながら考え込みました」。
ご飯を炊飯器に放置、保温あり。検索する人は、Mさんのように保温をつけたまま置いていいのか、それとも切ったほうがいいのか迷っていることが多い。先に、大事な結論を言う。炊飯器にご飯を残すなら、保温は切ってはいけない。保温ありのほうが、保温を切って釜に置くより安全だ。ただし、保温ありでも時間には限界がある。なぜ保温を切ると危険なのか、保温ありなら何時間もつのか、Mさんの共用炊飯器をたどりながら整理していく。
保温を切って釜に放置は、最も危険な選択
まず、多くの人が誤解している点をはっきりさせたい。電気代を節約しようと保温を切って、ご飯を釜に置いておくのは、実は最もやってはいけない保存方法だ。
理由は温度にある。保温機能が働いている間、炊飯器の内部は、雑菌の繁殖や結露を抑える60度以上に保たれている。ところが保温を切ると、庫内の温度が徐々に下がり、雑菌が繁殖しやすい30度から40度あたりまで落ちる。この40度から60度は、細菌が最も元気に増える危険な温度帯だ。お米にはもともとバチルス菌という菌がいて、これは炊飯の高温でも芽胞のかたちで生き残る。保温を切った釜の中は、この菌にとって、絶好の繁殖環境になる。夏場の暑い時期なら、なおさら危ない。
つまり、保温を切って釜に置くことは、温かくも冷たくもない、菌が一番増える温度にご飯を放置することを意味する。Mさんのご飯が傷んだのは、良かれと思って保温を切ったことが、裏目に出た結果だった。炊飯器にご飯をキープしておくなら、保温ボタンは切らない。これが鉄則だ。
保温ありなら、何時間まで大丈夫なのか
おいしさは5〜6時間、安全は12〜24時間
では、保温をつけたままなら、いつまで大丈夫なのか。ここには、二つの目安がある。おいしさの目安と、安全の目安だ。
まず、炊きたてのおいしさを保てるのは、5時間から6時間ほどだ。朝炊いて昼に食べるくらいなら問題ないが、それを超えると、ご飯の水分が抜けて乾燥し、食感が落ちていく。多くのメーカーも、おいしく食べるなら6時間以内を推奨している。
安全に食べられる限界は、もう少し長い。取扱説明書によれば、マイコン式の炊飯器は12時間、IH式は24時間を限度とする場合が多い。ただし、これはあくまで食べても大丈夫という衛生面の話だ。国民生活センターには、24時間を超えて保温し続けたご飯から異臭が発生した事例も報告されている。保温ありでも、無限にもつわけではない。メーカーが定める時間の範囲内で使うことが、安全の条件になる。
保温ありでも進む、黄ばみと乾燥
保温をつけていても、時間がたてば品質は落ちていく。
長時間の保温で起きるのが、黄ばみだ。ご飯に含まれる糖とアミノ酸が、高温で反応して褐色に変色する。メイラード反応という現象で、パンが焼けて茶色くなるのと同じ反応だが、ご飯では風味を損なう方向に働く。80度を超える高温だと、この変色が進みやすい。あわせて、フタは完全な密閉ではないので、庫内の水分が少しずつ蒸発して、ご飯が乾燥し、パサついてくる。保温は品質を保つ機能ではなく、劣化を遅らせるだけの機能、と考えたほうが正確だ。
保温するなら、避けたいNG習慣
しゃもじの入れっぱなしと、継ぎ足し
保温の時間以前に、菌を呼び込んでしまう習慣がある。気をつけたい。
ひとつは、しゃもじを釜に入れたまま保温すること。しゃもじの持ち手についた雑菌が、保温中のご飯で繁殖してしまう。使ったしゃもじは、その都度抜いておく。
もうひとつが、継ぎ足しだ。冷やご飯が残っているとき、新しく炊いたご飯に混ぜて一緒に保温したくなるが、これは雑菌の繁殖や乾燥の原因になる。一度炊飯器から取り出したご飯は、釜に戻さない。さらに、フタの開けっぱなしや頻繁な開け閉めも、庫内の温度を下げて菌の繁殖を招くので避けたい。白ごはん以外の、具材が入った炊き込みご飯やおこわは、そもそも保温に向かないことも覚えておきたい。
長く置くなら、保温を続けるより冷凍する
冷蔵はでんぷんが老化する温度なので避ける
保温の限界を超えて長く保存したいなら、保温を続けるのでも、まして保温を切って放置するのでもなく、別の方法に切り替える。多くの人が冷蔵庫を選ぶが、実は冷蔵はご飯に向かない。
ご飯に含まれるでんぷんは、温度が下がるとパサパサした状態に戻っていく。そして、その老化が最も進むのが2度から3度とされている。冷蔵庫の中は、まさにこの温度帯だ。冷蔵保存は、ご飯のおいしさを最も削る温度に置くことになる。残ったご飯を冷蔵庫へ、は良かれと思って一番まずい選択になりかねない。
炊きたてを熱いうちに包んで冷凍する
ご飯を長く保存するのに最も向いているのは、冷凍だ。
食べきれないと分かったら、長時間保温を続けるのではなく、炊きたての熱いうちにラップで包んで冷凍する。ここで大事なのが、熱いうちに包むことだ。冷ましてから冷凍するのはよくない。炊きたての湯気ごと閉じ込めることで、解凍後もふっくらしたおいしさが保てる。1食分ずつ小分けにして冷凍すれば、3週間から4週間ほど日持ちする。食べるときは電子レンジで温め直せば、長時間保温で黄ばんだご飯より、ずっとおいしい。
ちなみに、電気代の面でも保温の長時間運転は損だ。24時間保温し続けるより、保温を切ってもう一度炊き直したほうが、電気代は安くなる。しかも味は炊きたてのほうが上だ。冷凍なら、温め直しの電気代は1回1円以下で済む。長く保温するのは、電気代も味も両方損をする落とし穴になる。
保温の劣化を抑える、置き場所の工夫
炊飯器をどこに置くかも、保温したご飯の持ちに影響する。
直射日光が当たる場所や、コンロの近く、窓際といった、温度変化の激しい場所に炊飯器を置くと、庫内の温度が安定せず、ご飯が乾燥しやすくなる。冬場は特に、フタ周辺から熱が逃げて、表面が乾きやすい。ベストな置き場所は、直射日光が当たらず、コンロや窓からも少し離れた、温度変化の少ない場所だ。最近、保温したご飯の劣化が早い気がすると感じたら、炊飯器の置き場所を見直してみるのも一つの手になる。内釜やフタ、蒸気口をこまめに掃除して清潔に保つことも、雑菌の繁殖を防ぐことにつながる。
シェアハウスの共用炊飯器で決まった、保存のルール
Mさんの共用炊飯器は、あの傷んだご飯のあとどうなったか。
メンバーで話し合って、炊飯器にご飯を残すときは保温を切らないこと、長く置く分はその日のうちに冷凍すること、というルールを決めた。「保温を切るのが節約になると思ってたのが、逆に危なかったんですよね。切るくらいなら、いっそ取り出して冷凍したほうが、電気代も安いし安全だって分かって」。炊いたら食べる分以外を、すぐラップに包んで冷凍する習慣もついた。
共用の炊飯器だからこその気づきもあった。「みんなで使うと、誰かが保温したまま放置したり、逆に切って放置したり、扱いがバラバラで。ルールを決めたら、変なにおいのご飯に当たることがなくなって。冷凍ご飯をストックしておけば、誰でもすぐ温めて食べられるのも便利なんです」。共用炊飯器を長く保温で占領する人もいなくなったという。
見えてきたのは、ご飯を炊飯器に放置するなら、保温を切ってはいけないという事実だった。保温ありなら、おいしさは5から6時間、安全は12から24時間まで。それを超えるなら、保温を切って釜に置くのではなく、冷凍する。保温を切って常温に放置するのが、菌が最も増える一番危険な選択だ。この違いを押さえれば、翌朝の釜から酸っぱいにおいが漂うことはない。保温を切ったせいで傷んだご飯に鼻をつまんだあの日から、Mさんは残ったご飯を、熱いうちにせっせと冷凍している。

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