スマホの保存フォルダに、同じ冷蔵庫の写真が十七枚あった。
淡いミントグリーン、丸みのある角、太いクロームの取っ手。角度違い、キッチン違い、色違い。ミハルさんが半年かけて集めたものだという。
「もう完全に恋なんですよね。値段も調べてないのに、置く場所だけ何度も想像してる」
その恋が現実に着地するかどうかは、デザインでも予算でもなく、三か所の寸法で決まる。
憧れの前に、測る場所が三つある
本体幅に十センチ足して考える
搬入の目安は、本体の幅プラス左右五センチずつ。合計で十センチの余裕。
測るのは、取っ手ではなく手掛け部分を含めた実寸。カタログの数字より数センチ大きくなることがある。
新品は化粧箱に入った状態で運ばれてくるので、その箱の寸法でも一度確認しておく。
海外の大型モデルは幅九十センチを超えるものも珍しくない。日本の五百リットル級が六十五センチ前後だと考えると、その差がどれくらい効いてくるかが見えてくる。
玄関のポストとドアノブが、意外な壁
経路のどこか一か所でも足りなければ、そこで止まる。
エレベーターの内寸、階段の踊り場、手すりの出っ張り、廊下の曲がり角。集合住宅なら玄関ドアに埋め込まれたポストが張り出していて、そこだけ数センチ狭くなっていることがある。
室内のドア枠も忘れずに。玄関と廊下は通ったのにキッチンの入口で止まった、という話は毎年どこかで起きている。
本体のドアを外して幅を稼ぐ方法があるけれど、これは自分でやってはいけない。操作パネルの基板と信号線が通っていて、出荷時にネジの調整がされている。業者に相談する。
経路が読めない建物なら、管理会社に図面を確認してもらう。断られてから慌てるより、はるかに安い手間で済む。
置き場所の放熱寸法
搬入できても、置けるとは限らない。
冷蔵庫は熱を捨てながら動くので、上と左右に余白が要る。機種によって指定は違い、上部に五センチのものもあれば三十センチのものもある。
海外モデルは奥行きが深い設計が多く、日本のキッチンだと壁から手前へせり出す。通路が狭くなって、扉を開けたときに人が通れなくなる。
床の耐荷重も見ておきたい。大型は本体だけで百キロを超える。木造の二階なら、置く位置を梁の上に寄せる配慮がいる。
電気で止まる、いちばん多いつまずき
日本は百ボルト
海外の家庭用電圧は百十から二百四十ボルト。日本の百ボルトとは合わない。
そのまま挿しても本来の性能が出ないうえ、故障の原因になる。使うには昇圧トランス、いわゆるアップトランスを挟んで電圧を上げることになる。
冷蔵庫は二十四時間動き続ける家電なので、変圧器も常時通電。それなりの容量のものを選ぶ必要があり、置き場所も食う。
日本の住宅にある単相二百ボルトの電源で代用しようという発想も出てくるけれど、プラグの形状が特殊で差し込めず、電圧も二十ボルトずれる。使えないと考えたほうがいい。
変圧器では、周波数を変えられない
見落とされやすいのがこちら。電圧は変えられても、周波数はそのまま。
東日本は五十ヘルツ、西日本は六十ヘルツ。海外の製品がどちらを前提に作られているかで、モーターの回り方が変わる。冷蔵庫の心臓部はコンプレッサーというモーターなので、影響を受ける側の家電になる。
周波数まで変換したいなら業務用のインバーターが必要で、そこまでやるなら別の選択肢を探したほうが早い。
正規輸入と並行輸入の差
ここが分かれ道。日本の正規代理店が扱っているモデルは、百ボルト仕様に作り替えられている。プラグもそのまま挿さる。保証も付く。
一方、個人輸入や並行輸入で入ってきたものは現地仕様のまま。変圧器と周波数の話が全部ついてくる。
そして電気用品安全法のマークがない製品は、国内での販売や譲渡ができないとされている。手放すときに困る、という形で後から効いてくる。
憧れのブランドが日本に代理店を置いているかどうか。まずそこを調べる。置いているなら、話はずいぶん単純になる。
水と氷が要る機種の話
給水の配管
扉に製氷機や冷水のディスペンサーが付いたモデル。あれは水道に直結して使う。
日本の一般的なキッチンには、冷蔵庫用の給水栓が用意されていない。分岐水栓を付ける工事が必要になり、賃貸なら管理会社の許可も要る。
給水なしでも使えるモードを持つ機種もあるので、購入前に確認する。憧れていた機能が、日本の住宅では飾りになることがある。
壊れたときに、誰が直すか
冷蔵庫は十年前後使う家電。その間に一度は不調が来ると思っておく。
正規輸入なら国内の窓口が対応する。並行輸入は、そこが空白になる。部品を海外から取り寄せて数か月待つ、という話も現実に起きる。
夏に冷えなくなって、直るのが秋。この可能性を受け入れられるかどうか。ここは冷静に線を引いておきたい。
大きさは、憧れの副作用でもある
六百リットルは、本当に要るか
海外向けの冷蔵庫は、そもそも買い物の習慣が違う国のために設計されている。週に一度まとめて買い、大きな箱で保管する暮らし。
週に二、三回スーパーへ寄る生活だと、中身が半分埋まらない。空いた空間も冷やし続けるので、電気だけが出ていく。
容量の目安として、七十リットルに家族の人数をかけて百七十を足す、という計算が使われている。二人暮らしなら三百リットル余り。写真で憧れた大型とは、だいぶ違う数字になる。
動線が変わる
奥行きのある本体を置くと、その前に立ったときの通路が狭くなる。
両開きの扉は左右に広く開くので、シンクとコンロの間に立てなくなることもある。
タクマさんは共用キッチンに大型を入れる案を出したものの、扉を開けた状態を段ボールで再現してみて取り下げた。人が二人すれ違えなくなることが、その場ではっきり見えたから。
見た目だけが欲しいなら、別の手がある
シートで色を変える
正直に書くと、憧れの正体が色と質感だけ、という場合はかなり多い。
それなら手持ちの冷蔵庫にカッティングシートを貼る。艶消しのくすんだグリーン、淡いブルー、マットな黒。数千円で表情が変わる。
貼るときは脱脂してから。角は温めながら伸ばす。賃貸でも自分の持ち物なら自由だし、退去のときに剥がせる。
取っ手だけをクロームのバーに替える手もある。丸みのある本体でなくても、金属の光沢が入ると空気が変わる。
小物で世界観をつくる
冷蔵庫本体を諦めても、そのブランドのケトルやトースターなら手に入る。百ボルト対応で、価格も一桁違う。
キッチンの視線が集まるのは、実は天板の上。そこに二つ並べば、部屋の印象は十分に変わる。
ミハルさんは結局、正規輸入の小型モデルを選んだ。幅五十センチ台、容量は二百リットルに届かない。写真フォルダにあった大型とは別物だけれど、玄関を通り、コンセントに直接挿さる。
それでも入れると決めたら
買う順番
寸法を測る、代理店の有無を調べる、放熱の指定を確認する、見積もりを取る。この順番を崩さない。
搬入経路に不安があるなら、事前見積もりを依頼する。当日に断られると、キャンセル料と再手配で数万円が飛ぶ。
古い冷蔵庫の引き取りも同時に頼む。搬出と搬入を別日にすると、その間の食材の行き場がなくなる。
搬入の日にやること
通路のものを全部どける。玄関マット、傘立て、廊下の棚。床には養生シートを敷いておく。
設置後すぐに電源を入れず、数時間置いてから通電する。運搬中に傾いていた場合、冷媒とオイルが落ち着くまで待つほうがいい。
そして扉を開けて、なかが冷えていく音を聞く。ずしりとした本体が、想像していた場所にぴたりと収まっているかどうか。あの数分は、半年の写真フォルダに見合うだけの時間になる。

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