買い物袋の底が、じっとり濡れていた
夏の夕方、スーパーから帰った住人が玄関でしゃがみ込んでいました。エコバッグの底に水たまり。冷凍餃子の箱が、角から色を変えている。
寄り道した書店で、思ったより長く立ち読みしたらしい。
一時間半…いや、二時間くらいかな
袋から出した唐揚げのパックは、指で押すとふにゃっと沈む。アイスは形が崩れて容器の縁からあふれかけていました。
判断の基準を先に置きます。氷の粒が残っていて中心が硬ければセーフ。全体が柔らかいがまだ冷たいなら、その日のうちに加熱調理。常温まで戻って生ぬるいなら処分。この三段階で、迷う時間を減らせます。
触った瞬間の温度で、三つに分ける
芯が硬い、氷の結晶が見える状態
表面だけ溶けて、中央を押すと硬い抵抗がある。袋の内側に霜や氷の粒が残っている。
この段階なら冷凍庫に戻して大丈夫です。品質は少し落ちますが、菌が増える温度帯まで上がっていない。
戻すときは冷凍庫の奥、いちばん冷える場所へ。周りの食品の温度を上げないよう、他とくっつけない。
柔らかいが、冷蔵庫の中くらいの冷たさ
握ると形が変わる。でも手が冷たく感じる。この状態は、その日のうちに火を通して食べ切る。
うちの餃子はここでした。夕食を予定変更して、その場で全部焼きました。二十四個。四人で食べて、腹がはち切れそうになった。
冷凍庫に戻すのは避けます。理由は後で書きますが、味の問題だけじゃない。
常温、ぬるい、汁が出ている
パックの底に赤い汁が溜まっている。触って冷たさを感じない。袋が膨らんでいる。
処分してください。もったいないのは分かる。それでも、腹を下して寝込む一日と、数百円を天秤にかけたら答えは出ます。
溶けても平気なものと、危ないもの
一律には決められません。中身によって、危険の度合いがまるで違う。
生の肉と魚が、いちばん早く手遅れになる
冷凍の鶏肉、ひき肉、切り身。これらは表面に菌が付いた状態で凍っているだけで、菌は死んでいません。
温度が上がった瞬間から増え始める。特にひき肉は表面積が大きく、菌の増える足場が多い。柔らかくなった時点で、その日に中心まで火を通すか、諦めるかの二択です。
住人の一人が、半解凍のひき肉を冷凍庫に戻して三日後に使いました。加熱したのに、翌朝から腹が鳴りっぱなし。加熱では消えない毒素があるという話を、身をもって学んでいます。
加熱済みの冷凍食品は、少し余裕がある
唐揚げ、コロッケ、グラタン、餃子。すでに火が通っている製品は、菌の量がもともと少ない。
とはいえ油断はできません。衣やソースは水分と栄養が豊富で、菌にとっては好条件。冷たさが残っているうちに調理する、という線は同じです。
アイスクリームは、味が終わるだけ
安全面での危険度は低い。牛乳と砂糖の塊なので、菌が爆発的に増える環境じゃありません。
ただし食感は完全に別物になります。溶けて再凍結したアイスは、なめらかさが消えてジャリジャリする。うちの冷凍庫にあったバニラが、まさにそうなりました。スプーンが刺さらない、氷の板。
冷凍野菜は、水分が抜けて別の食材になる
ブロッコリーやほうれん草は、溶けるとぐったりして色も落ちます。細胞が壊れて水が出た状態。
安全性の問題は薄いので、その日にスープや炒め物へ。形を保ちたい料理には使えません。
再冷凍がダメな理由は、味だけじゃない
氷の粒が、細胞を内側から刺す
一度目の冷凍でできる氷の結晶は、急速冷凍なら細かい。家庭用の冷凍庫でゆっくり凍らせると、粒が大きくなります。
大きな氷は、食材の細胞膜を突き破る。溶けたときに、そこから水分と旨味が流れ出す。二度目の冷凍でさらに粒が育つので、解凍後はスカスカのパサパサに。
うちで再冷凍した鶏肉を焼いたら、脂が抜けきって板みたいになりました。噛んでもほどけない。
増えた菌は、凍らせても死なない
こちらが本質的な話。冷凍は菌を殺す処理ではなく、動きを止めるだけ。
溶けている間に増えた菌は、再冷凍しても数がそのまま保存されます。次に解凍したとき、増えた状態からスタートする。しかも菌が出した毒素は、凍結でも加熱でも消えないものがある。
見た目も匂いも変わらないまま、危険だけが積み上がっている。ここが怖いところです。
停電と旅行、気づいたときには手遅れの場面
冷凍庫は、開けなければ二日持つ
台風で半日止まったとき、うちの冷凍庫は開けずに耐えました。中身は全部無事。
満杯の冷凍庫なら四十八時間、半分程度なら二十四時間が目安です。食品同士が保冷剤の役割を果たすので、詰まっているほど有利。
やってはいけないのが、心配で何度も開けること。確認するたびに冷気が逃げ、寿命を削ります。
コインを使った判定法
長期の旅行に出る前、うちの住人が始めた方法があります。
小さな容器に水を入れて凍らせ、その上に十円玉を一枚置いて冷凍庫へ。帰宅したときにコインが表面にあれば、溶けていない。底に沈んでいれば、留守中に一度完全に溶けて再凍結したという証拠になります。
中間の深さに埋まっていれば、部分的に溶けたということ。見た目では判断できない事態を、これが教えてくれる。
買い物の帰り道で、溶かさないために
保冷剤より、氷のほうが長く効く
スーパーのサッカー台にある氷、あれを袋に詰めて入れる。凍った食品同士をくっつけて、その塊を氷で包む。
住人が実験したところ、真夏の三十五度で保冷バッグと氷の組み合わせなら、九十分後もアイスが形を保っていました。エコバッグに直接入れた場合は四十分で崩壊。
冷凍を最後に買い、寄り道をしない
当たり前だけど、これがいちばん効く。日用品や飲み物を先に買い、冷凍コーナーは会計直前に回る。
寄り道の予定がある日は、冷凍食品を買わない。うちの住人はあの日の餃子事件以来、書店に行く日は生鮮を諦めるようになりました。
車のトランクは、真夏の凶器
締め切った車内は六十度を超えます。トランクに入れて三十分放置したら、保冷バッグでも守り切れない。
車で買い物に行くなら、荷物は足元か座席へ。エアコンの風が当たる位置に置く。
溶けたものを、うまく使い切る
その日に調理する前提なら、道はあります。
半解凍の肉は、むしろ切りやすい。包丁がすっと入るので、薄切りにして炒め物へ回すと火の通りも早い。
崩れた冷凍餃子は、形を諦めてスープに落とす。皮が溶けて具が散っても、味は変わりません。ごま油を垂らすと、それらしい一品になります。
溶けたアイスは、凍らせ直さずにその場で飲む。牛乳を足してシェイクにした住人がいて、あれは正解でした。
冷凍野菜は水気を絞ってから使う。絞らずに炒めると、フライパンの中が水浸しになって蒸し野菜に化けます。
あの日の袋を、まだ覚えている
餃子二十四個を全部焼いた夜、フライパンから立ちのぼる湯気の向こうで、住人が申し訳なさそうに笑っていました。
数百円のために腹を壊すのは割に合わない。かといって、まだ冷たいものを恐れて捨てるのも違う。触った温度で線を引く。この単純な判断ができるようになってから、うちの冷凍庫の前で悩む時間が短くなりました。
いま玄関に置いてあるエコバッグには、保冷剤が二つ入りっぱなしになっています。

コメント