幅十四センチのワゴンが、入らなかった
シェアハウスのキッチンは、冷蔵庫と壁の間に細長い空間があります。誰も使っていない、埃の溜まる場所。
そこに住人がスリムワゴンを買いました。測った幅は十五センチ。選んだ商品は十四センチ。一センチの余裕、完璧なはず。
段ボールから出して、押し込もうとした瞬間。
あれ、入らない…
ガタン、と嫌な音を立てて途中で止まりました。原因は幅じゃなかった。冷蔵庫の側面から出っ張った放熱板と、壁側の巾木。この二つが、下のほうで通路を狭めていたんです。
隙間収納で失敗する人の大半は、寸法の測り方を間違えている。うちで三回やらかしてから、ようやく測る順番が固まりました。
測るのは幅だけじゃない、四か所を見る
いちばん狭い場所を、床に近い高さで測る
冷蔵庫の側面は平らに見えて、下部にコードやパネルが張り出していることがある。壁側は巾木が数センチせり出している部屋が多い。
だから測るのは、床から十センチの高さ。ここが最狭部になります。上のほうで測った数字を信じると、うちみたいに玄関で立ち尽くすことになる。
奥行きは、冷蔵庫の前面より手前で止める
奥行きをぴったり合わせると、ワゴンの前面が冷蔵庫より飛び出します。通路が狭いキッチンだと、ここに腰をぶつけて青あざを作る。
うちの住人は太もものあたりに一週間、内出血の跡を残していました。冷蔵庫の奥行きから三センチ引いた数字で選ぶと、見た目も揃って収まりがいい。
高さは、コンセントの位置で決まる
背面の壁にコンセントがある場合、ワゴンの高さがプラグに当たります。差し込んだプラグの上端まで測って、それより低いものを選ぶ。
炊飯器の蒸気が当たる位置も避けたい。上に棚があるなら、蒸気の逃げ道を残す高さで止めます。
引き出す動作に必要な、手前の空間
ワゴンを引き出すには、その長さぶんの通路が要ります。奥行き四十センチのワゴンなら、手前に四十センチ。
対面にシンクや食器棚があると、引き出した瞬間に通せんぼになる。設置してから気づくと、二度と引き出さない飾りになります。
幅で変わる、入るものと入らないもの
十センチから十五センチ、調味料と保存袋の指定席
この幅なら、醤油やみりんのボトルが一列で立ちます。ラップとアルミホイルの箱も縦置きでちょうどいい。
うちのワゴンには、上段に使用頻度の高い調味料、中段にジッパー袋とキッチンペーパーの替え、下段にレジ袋のストックが入っています。
注意点は重心。細長いものは倒れやすく、引き出す勢いで傾きます。重いものを下段に置いて、上を軽くする。これを守らないと、床に醤油の海ができます。実際に一度やりました。拭いても匂いが三日残った…
二十センチから三十センチ、ここが最も使える帯
一リットルの紙パックが立ち、二リットルのペットボトルが横に寝る。缶詰やレトルトが箱ごと収まる。
住人が導入したのは、幅二十八センチの三段ワゴンでした。米袋の予備、缶詰、インスタント麺、乾物。冷蔵庫に入れる必要のない食品を全部ここに集約したら、シンク下が空きました。
この幅帯は選べる商品も多く、価格も三千円台から見つかります。隙間があるなら、まずここを狙いたい。
三十五センチ以上あるなら、隙間家具ではなく普通の棚
スリムを名乗る商品は幅が狭いぶん割高です。三十五センチを超えるなら、一般的なラックのほうが安く、収納力も上。
隙間収納という言葉に引っ張られて、わざわざ高い商品を選ぶ必要はありません。
詰めすぎると、冷蔵庫が壊れる
ここは真面目な話です。
放熱スペースを塞ぐと、電気代が上がる
冷蔵庫は側面と背面から熱を逃がしています。壁との間に必要な距離は、機種によって五ミリから五センチ。取扱説明書の設置条件に書いてあります。
隙間をぴっちり埋めると、放熱が追いつかず庫内を冷やすために余計な電力を使う。うちで隙間にワゴンを詰め込んだ夏、電気代が前月より千円ほど上がりました。因果関係を証明できたわけじゃないけど、疑わしい。
可燃物を側面に密着させない
放熱部分は触ると温かい。段ボールや紙袋を長期間くっつけておくのは避けたい。
うちは冷蔵庫の側面に段ボールを立てかけていた時期があり、外したら表面が変色していました。ゾッとした。
ワゴンを置くなら、冷蔵庫の側面から一センチは離す。壁側に寄せて設置します。
マグネットを使うと、隙間が要らなくなる
そもそも床の隙間を使わない解決策もあります。
側面が磁石の付く冷蔵庫なら、壁が棚になる
最近の機種は側面がガラスやアルミで磁石が付かないものも増えました。まず磁石を当てて確認する。
付くなら、マグネット式のラックが使えます。うちはキッチンペーパーホルダー、ふきん掛け、調味料ラックの三つを側面に貼りました。床に何も置かないので、掃除が一気にラクになる。
耐荷重の表示を、必ず守る
マグネットラックは重さに弱い。表示が二キロなら、調味料を並べただけで超えることがあります。
落ちたときの音が本当に嫌なんですよ。夜中にガシャンと鳴って、全員が起きた。中身は瓶入りの油。床が悲惨なことになりました。
貼る前に、冷蔵庫の側面を拭いて油分を落とす。これで吸着力が変わります。
見落とされている、上と後ろ
冷蔵庫の上は、軽いものだけ
放熱の関係で、上に物を置けない機種があります。置ける場合でも、重いものは避ける。
うちが置いているのは、パンのストックと弁当箱、来客用のグラス。取り出すときに背伸びする高さなので、頻繁に使うものは向きません。
浅いカゴを一つ置いて、その中に収める。直置きすると埃と油が混ざって、拭き取れない汚れになります。
扉と壁の間の数センチ
冷蔵庫の扉側、開閉する方向の壁との隙間。ここに薄いフックを付けて、エコバッグを掛けている住人がいます。
扉の開閉に干渉しない位置を確認してから。全開にしたときに当たると、扉のパッキンが傷みます。
買う前に、キャスターの種類を決める
ストッパー付きを選ばないと、勝手に動く
床がフローリングだと、扉を開けた風圧でワゴンが動きます。じわじわ移動して、気づくと冷蔵庫の前に出てきている。
ストッパー付きなら止まる。うちの最初のワゴンはこれが付いておらず、毎回蹴って戻していました。地味にストレス。
取っ手があるかどうかで、使用頻度が変わる
取っ手のないワゴンは、引き出すときに縁を掴むことになる。指が入りにくいと、だんだん使わなくなります。
住人が二台目に買い替えた理由がこれでした。取っ手が付いた途端、片手で引ける。使う回数が明らかに増えたそうです。
買わずに済ませる手もある
数千円出す前に、家にあるもので試せます。
深めの収納ボックスに、百円のキャスターを四つ貼る。これで自作のスリムワゴンになります。うちの住人が作ったものは、二年経った今も現役。
ファイルボックスを横に寝かせて重ねるだけでも、レトルトの収納には足ります。無理に引き出す構造にせず、上から取るだけなら固定でいい。
そもそも隙間を埋めない選択も現実的です。空けておけば掃除機が入り、埃が溜まらない。うちのキッチンは、冷蔵庫の左側だけ何も置かないルールにしています。
メジャーを持って、床にしゃがむところから
あの入らなかったワゴンは、返品して二センチ細いものを買い直しました。差額と送料で二千円ほど余計にかかった計算になります。
床から十センチの高さで、いちばん狭い場所を測る。その数字から一センチ引いた商品を選ぶ。手前に引き出せる通路があるか確認する。この三つを守るようになってから、失敗は止まりました。
いま冷蔵庫の横には、幅二十八センチのワゴンが静かに収まっています。引き出すときの、カラカラという軽い音がちょっと気持ちいい。

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