洗濯かごに顔を近づけて、思わずのけぞった
平日は忙しくて、洗濯は週末まとめて。脱いだ服を、洗濯かごにどんどん放り込んでいく。三日目の夜、かごに服を足そうと近づいた瞬間、下のほうから酸っぱいような、もわっとしたにおいが立ちのぼった。
都内のシェアハウスに住むAさん(20代)の話だ。「自分の脱いだ服のにおいって、慣れてて気づかないと思ってたんですよ。なのにかごの底の層が、はっきり臭くて。鼻の奥にツンときて、思わず顔をそむけました。まだ洗ってもいないのに、なんでもう臭いの…?って」。
洗濯物を放置すると、何日でだめになるのか。検索する人が知りたいのは、洗う前にためた汚れ物がいつから危険になるかだ。先に言う。1週間以上の放置で雑菌とカビが繁殖し、目安は2から3日に1回。なぜ洗う前なのに臭うのか、ためるならどう保管すればいいのか、Aさんの失敗からたどっていく。洗ってあるのに臭う話ではない。脱いだ服が、洗う前から臭いを育てている話だ。
脱いだ瞬間から、菌は服の上で増え始める
まず、なぜ洗う前から臭うのかを知ると、対策が見えてくる。
一日着た服には、汗や皮脂が染み込んでいる。そして、その汗をエサにする菌が、すでに服に付着している。生乾き臭の正体としても知られるモラクセラ菌だ。この菌は、私たちの皮膚や衣類にいる常在菌で、汗や皮脂を栄養にして増えながら、雑巾のようなにおいの物質を出す。
つまり、脱いだ服を洗わずに放置している間、菌はずっと増え続けている。汗をかいた服を何日も洗わずにおくと、その間にどんどん菌が繁殖する。Aさんのかごの底が臭ったのは、最初に入れた服ほど長く放置され、菌が増える時間を稼いだからだ。洗濯前の山は、菌にとって、エサが尽きない居心地のいい住処になっている。
放置がもたらす、二つのやっかいな連鎖
一枚の臭い服が、かご全体に菌を移す
放置で怖いのは、においが一枚で済まないことだ。
通気性の悪い洗濯かごに衣類を入れっぱなしにしておくと、汚れの多い一枚から、ほかの衣類にも菌が移っていく。汗をたっぷり吸った服や、湿ったタオルが一枚あるだけで、同じかごの中の服全体に菌が広がる。
これが意味するのは、放置した山は、洗ってもにおいが取れにくくなるということだ。一度増えて繊維の奥に入り込んだ菌は、普通に洗っただけでは落ちきらず、残った菌がまた増える悪循環に陥る。こうなると、洗濯したのに臭う、という状態が染みついてしまう。Aさんが嗅いだあのにおいは、放っておけばかご全部の服に広がるサインだった。
湿気が高いと、カビまで生え始める
菌の繁殖と並んで進むのが、カビだ。
カビは湿度60パーセント以上の場所を好み、タンパク質や脂肪を栄養にして増える。汚れて湿った洗濯物の山は、カビにとって理想的な環境になる。梅雨や冬など湿気が高い季節は、さらに繁殖が加速する。1週間以上放置された洗濯物は、雑菌だけでなくカビが繁殖している可能性が高い。
カビの胞子が衣類に定着すると、目に見える斑点として現れることもある。お気に入りの服が、洗う前の放置でだめになる。汗のにおいだけならまだしも、カビとなると衣類そのものを失いかねない。ここまでくると、洗濯の手間どころの話ではなくなる。
やってはいけない、洗濯機にためる習慣
洗濯槽の中は、菌にとって最高の環境
ここで、多くの人がやりがちな最悪の保管方法を指摘したい。脱いだ服を、洗濯機の中にためることだ。
洗濯かごを置く場所がない、洗濯機に入れておけば洗うとき楽、という理由で、脱いだ服を洗濯槽に放り込んでいる人は少なくない。でもこれは、絶対に避けたい。
洗濯槽の中は湿度が高く、洗濯をせずに衣類を放置すると雑菌が増殖する。さらに厄介なのが、洗濯槽の見えない裏側には、もともとカビや雑菌が潜んでいることだ。そこへ汚れた衣類というエサが長時間提供されると、菌は水分を得て活動を再開し、洗濯槽と衣類の両方で大繁殖する。汚れた服をためた洗濯機で次に洗濯すれば、その菌が洗い上がりの衣類にうつる。洗濯機に入れるのは、洗う直前に。これだけは守りたい。
ためるなら、こう保管する
通気性のいいかごを、湿気のない場所に置く
週末まとめ洗いをやめられないなら、保管の仕方を変えるだけで菌の繁殖を抑えられる。
まず、洗濯かごは通気性のいいものを選ぶ。メッシュタイプや、側面に穴の空いたかごがいい。空気が通ることで、湿気がこもらず、菌が増えにくくなる。布製で密閉されたかごは、内部に湿気をため込むので避けたい。
置き場所も大事だ。洗濯物置き場は湿気がたまりやすいので、換気できる場所を選ぶ。意外な盲点が、洗濯機の近くだ。洗濯機の周りは湿気が多いので、汚れ物のかごを置く場所としては向かない。脱衣所の隅で湿気がこもりがちなら、風の通る別の場所に移すだけで、においの発生が変わる。
詰め込まず、濡れたものは先に乾かす
かごの使い方にも、ふたつコツがある。
ひとつは、詰め込みすぎないこと。大量に詰めると通気性が落ちて、湿気がこもる。量が多いときは、かごを2つに分けて空気の通り道を作る。山を低く、風が抜ける状態を保つ。
もうひとつは、濡れたものをそのまま入れないこと。汗で湿った服や、使った後のバスタオルは、特に菌が増えやすい。濡れている洗濯物は、一度干して乾かしてからかごに入れる。湿ったまま放り込むと、その水分がかご全体の菌を活性化させる。乾いた状態でためる、これだけで放置中の繁殖がぐっと抑えられる。
ためてしまった山を、においを残さず洗う
酸素系漂白剤のつけ置きで、菌をリセット
すでに臭いがついてしまった山は、普通に洗うだけでは落ちきらない。ひと工夫がいる。
においが気になる衣類は、40から50度のお湯に酸素系漂白剤を溶かし、20から30分ほどつけ置きしてから洗う。酸素系漂白剤には菌を減らす効果があるので、増えてしまった菌をリセットできる。つけ置きした後は、その漂白剤入りのお湯ごと洗濯機に入れて洗えばいい。ただし、ウールやシルクなどデリケートな素材には使えないので、洗濯表示は必ず確認する。
洗剤は、部屋干し用を選ぶと消臭に効く。抗菌や除菌の成分が入っているので、菌の増殖を抑えてくれる。
詰め込まず、すすぎを増やし、数回に分ける
まとめ洗いの山を一度に洗おうとすると、洗濯機に詰め込みすぎて失敗する。
洗濯物を入れすぎると、汚れが落ちきらず、雑菌の繁殖も防ぎにくくなる。洗濯槽の7から8割を目安にして、量が多い日は数回に分けて洗う。一度に全部、を諦めるのが、結局いちばん清潔に仕上がる。
すすぎも増やしたい。標準コースのすすぎが1回なら、2回に設定する。洗剤の残りは菌の栄養になるので、しっかりすすいで流す。そして洗い終わったら放置せず、すぐに干す。せっかく菌をリセットしても、洗った後に放置すれば元の木阿弥になる。月に1回、洗濯槽クリーナーで槽を洗っておくと、においの元そのものを断てる。
シェアハウスの共用ランドリーで決まった、ためないルール
Aさんのかごのにおいは、シェアハウスに小さな見直しをもたらした。
共用の洗濯機を使っているので、誰かが汚れ物を洗濯槽にためると、次に洗う人の衣類ににおいがうつる。「自分のかごのにおいで気づいて、共用洗濯機の中を見たら、案の定、誰かの脱いだ服が入りっぱなしで。これ、みんなの服に菌が回るやつだって」。
そこでメンバーで、洗濯機に汚れ物をためないこと、各自のかごは通気性のいいものを使うこと、最低でも2から3日に1回は洗うこと、というゆるい申し合わせができた。Aさん自身も、密閉だったかごをメッシュのものに替え、置き場所を湿気の少ない窓際に移した。「かごを替えて場所を変えただけで、底の層が臭わなくなったんですよ。ためること自体より、ため方の問題だったんだなって」。
見えてきたのは、洗濯物の放置は、ためる日数だけでなく、ためる環境で被害が決まるという事実だった。脱いだ服は乾かしてから通気性のいいかごへ、洗濯機にはためない、2から3日で洗う。これを押さえれば、まとめ洗い派でも、かごの底からにおいが立ちのぼることはない。かごに顔を近づけてのけぞったあの夜から、Aさんの洗濯かごは、風の通る窓際で静かに週末を待っている。

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