深夜のドラマで、口の動きと声が合わなくなった
リビングのテレビの音が、前から気に入らなかった。
薄い筐体から出る声が、平べったく張り付いて聞こえる。低い音がまったく鳴らない。
棚の上に転がっていたEchoを指さして、住人のタケルが言った。
「これ、テレビにつなげるんじゃない?」
つないだ。設定は五分で終わった。音は確かに太くなった。低音がずしんと来る。
その三十分後、俳優の口が閉じてから声が届くようになった。
あ、これダメなやつだ
四人で顔を見合わせた。あの気まずい沈黙、覚えてる。
シェアハウスのリビングで、三年かけて何度も試した組み合わせ。うまくいった形と、失敗した形が両方溜まった。
方法は二つ。結果はまるで違う
Echoをテレビの音に使うやり方は、大きく二通り。
無線でつなぐ方法と、専用の機器を挟んで有線に近い形にする方法。
前者は無料で今すぐできる。ただし音がずれる。
後者は数千円かかる。かわりに、ずれがほぼ消える。
どちらを選ぶかで、この話の結論が分かれる。
音ズレの正体は、圧縮と伝送の時間
無線で音を飛ばすとき、データは一度圧縮されて、送られて、また戻される。
この処理に時間がかかる。映像はテレビの中でそのまま流れるので、音だけが遅れて届く。
遅れの幅は環境で変わるが、体感で分かるレベルになることが多い。会話劇では特に目立つ。
音楽を流すだけなら気にならない。映像とセットになった瞬間、破綻する。
無線でつなぐ、いちばん簡単な方法
テレビ側から接続する手順
まずEchoを接続待ちの状態にする。声で指示を出すか、アプリの設定画面から操作する。
テレビの設定を開いて、音声出力の項目を探す。無線の外部機器を検索させると、Echoの名前が一覧に出る。
選んで、つながる。所要時間は五分ほど。
つながった瞬間、テレビ本体のスピーカーは黙る。音が全部Echoから出るようになる。
ここで多くの人が詰まる
テレビによっては、無線で音を出す機能そのものが載っていない。
設定画面をいくら探しても、それらしい項目が出てこない。うちのリビングのテレビがまさにそれだった。
古い機種、あるいは安価なモデルで起きやすい。
この場合、無線で送る小さな機器を別に買う必要がある。テレビの音声出力端子に挿して、そこから飛ばす形。二千円から四千円ほど。
つないだあとの、遅れの体感
実際に何が起きるか。
ニュースのアナウンサーの口が閉じて、半拍おいて声が出る。
バラエティで笑い声が入るタイミングが、映像より遅れる。
料理番組で包丁が食材に入る映像と、とんとんという音がずれる。
数字にすれば零コンマ数秒の話。それでも脳が違和感を検出する。人間の耳と目、この分野に関してはやたら精度が高い。
ズレを消す、有線に近い方法
音声を分ける機器を挟む
遠回りに見えて、これが正解だった。
テレビの映像出力の経路に、音声を取り出す小さな機器を挟む。そこから有線でEchoにつなぐ。
Echoの背面に、音声を入力する端子がついている機種がある。ここに直接ケーブルを挿す。
無線を経由しないので、圧縮も伝送の待ち時間も発生しない。口の動きと声が合う。
機器の値段は三千円前後。ケーブルを含めても四千円で収まった。
入力端子がない機種もある
ここは事前に確認したほうがいい。
Echoにはいくつか世代とサイズがある。背面に音声入力の穴があるものと、ないものが混在している。
穴がない機種を持っている場合、有線という選択肢が最初から消える。無線でやるか、諦めるか。
うちのリビングにあったのは、穴のある世代だった。運がよかった。
本体の裏を見て、丸い穴があるかどうか。それだけの確認で、話が全部変わる。
音量の操作が、二重になる
有線でつなぐと、便利さと引き換えに一つ面倒が増える。
テレビのリモコンで音量を変えても、Echoから出る音は変わらない。Echoの音量を、別途操作する必要がある。
声で指示するか、本体のボタンを押すか。
最初の一週間、住人が全員これで混乱した。リモコンをぽちぽち押しながら、なんで変わらないんだと呟いていた。
慣れると、テレビのリモコンには触らなくなる。音量はEchoに任せて、映像だけリモコンで操作する形に落ち着いた。
音そのものは、どこまで良くなるか
低音は、はっきり増える
これは間違いなく良くなった。
薄型テレビのスピーカーは、筐体に余裕がないので低い音を出せない。
Echoは円筒形で、内部に空間がある。ドラムやベースの音が、腹に届く感じで鳴る。
映画の効果音、音楽番組のライブ映像。この二つは明らかに化けた。
台詞は、逆に聞き取りにくくなることがある
意外だったのがこれ。
Echoは音楽を鳴らすことを前提に調整されている。低音と高音を持ち上げて、真ん中の帯域が引っ込む。
人の声は、その真ん中に集まっている。
低音が増えたぶん、台詞が奥に押しやられて聞こえる場面があった。
アプリの音質設定で、低音を少し下げると改善する。うちは低音を二段階落として、中音を上げた。それで台詞が前に出た。
二台並べても、劇的には広がらない
Echoを二台使って、左右のステレオとして設定できる。
音の広がりは確かに出る。ただ、期待していたほどではなかった。
テレビの左右に一メートル離して置いたが、映像の中で音が動く感じにはならない。
それより、一台の音質設定を追い込んだほうが満足度が高かった。二台目を買う前に、まず一台で調整してみたほうがいい。
やってみて分かった、向き不向き
音楽番組と映画には、効く
低音が主役になる映像。ここは無線でも問題が出にくい。
音楽は、リズムのずれが元から曖昧に感じられる。多少の遅れが気にならない。
うちの住人は、休日にライブ映像を流すときだけ無線でEchoにつないでいる。それ以外は使わない。
ゲームには、絶対に向かない
言い切る。ゲームで無線接続は無理。
ボタンを押してから効果音が鳴るまでの遅れが、操作感を壊す。
リズムゲームは論外として、アクションでも違和感が出る。銃を撃った音が、画面より遅れて届く。
有線でつなげば解決するが、それならテレビの前にきちんとしたスピーカーを置いたほうが早い。
ドラマは、有線なら成立する
会話が主体の映像は、遅れがいちばん目立つ。
有線接続にすれば、この問題は消える。うちは今、この形で落ち着いている。
Echoをテレビの下に置いて、背面から短いケーブルが一本伸びている。見た目はすっきりしないけどね。
音は明らかに良くなったので、住人からの不満は出ていない。
常設するなら、考えること
音声操作が使えなくなる時間がある
テレビの音を大音量で出しているあいだ、Echoは呼びかけに反応しにくくなる。
自分が出している音で、こちらの声がかき消される。
うちは、音量を上げているときは本体のボタンを押して操作している。声が通らないと分かっていれば、腹も立たない。
置き場所で、音が変わる
Echoは全方向に音を出す設計。
壁に密着させると、後ろに出た音が跳ね返って濁る。
テレビ台の中に押し込むと、低音がこもって膨らむ。
うちはテレビの前、十センチほど手前に出して置いている。周りに空間があるほうが、音がすっきりする。
電源とケーブルの取り回し
Echoには電源が必要。テレビ周りのコンセントが一つ埋まる。
有線でつなぐなら、音声ケーブルも一本増える。
テレビ台の裏が、また一段ごちゃつく。結束バンドでまとめないと、掃除のたびに引っかかる。
うちは一度、掃除機のノズルがケーブルを引っかけて、Echoが台から落ちた。幸い壊れなかった。
先週、リビングでミオが映画を見ていた。
低い唸り声のような効果音が、床を伝って足の裏に届く。
彼女は画面を見たまま、片手をEchoのほうに伸ばして、音量を一段下げた。
「これ、前より台詞聞こえるようになったよね」
低音を二段階落とした日から、誰もその設定に触っていない。
テレビの下で、円筒形の本体が薄く光っていた。

コメント