録画したドラマが、全部見られなくなった
本体の調子が悪くなって、修理から戻ってきた日。
電源を入れて、録画一覧を開いた。
リストは残っている。タイトルも日付も、そのまま並んでいる。再生ボタンを押す。
再生できません。
別の番組を選ぶ。同じ表示。三十本、全部だめだった。
(え、リストだけ残ってるの、なんの嫌がらせ?)
基板を交換したので、録画した番組と機器の紐づけが切れたらしい。二年ぶんの録画が、一覧の形だけ残して消えた。
その週末、うちの住人が集まって、しばらく画面を見ていた。誰も気の利いたことを言わなかった。
シェアハウスの共用スペースに、テレビ機能の付いた一体型パソコンを二年置いた。
便利だと思って導入して、最後は普通のモニターとパソコンに分けた。その判断に至った理由を書く。
一台にまとめる、という発想の落とし穴
場所を取らない、コンセントが一つで済む、リモコン一つで完結する。
導入したときの理由は、全部このあたりだった。実際、置いた最初の一か月は快適だった。
問題が出はじめたのは、片方の機能に不具合が出たとき。
一体になっているということは、片方が壊れると両方使えなくなるということ。
買う前に想像しなかったこと
壊れたときの話。買い替えのタイミングの話。そして、そもそも使うかどうかの話。
この三つを、購入前にうちは検討していなかった。
録画したものが、機器に縛られる
本体を替えたら、見られない
冒頭の話。
地上波を録画したデータは、著作権を守る仕組みで保護されている。録画した機器でしか再生できない。
本体が壊れて修理すると、その紐づけが切れることがある。
うちの場合、修理前にメーカーが警告してくれていた。ただ、そのときは他に選択肢がなかった。動かないパソコンを直すか、録画を諦めるか。
外付けに移しても、同じ
外付けの記憶装置に録画を保存していても、状況は変わらない。
その装置を別のパソコンに繋いでも、再生できない。録画した本体と紐づいているので。
うちは二台目のパソコンを買ったとき、これを試して分かった。データは見えるのに、再生だけができない。
円盤に焼く機能があれば、そちらに移す手はある。ただ、枚数が増えると管理が面倒になる。
買い替えのたびに、録画が消える
パソコンは、テレビより買い替えの周期が短い。
性能が古くなる。動作が重くなる。四年から五年で替えたくなる。
そのたびに、録画したものを手放すことになる。
テレビと録画機を別に持っていれば、パソコンを買い替えても録画は残る。この差は、思った以上に大きかった。
使う時間帯が、ぶつかる
作業中は、テレビが見られない
当たり前の話なのに、買う前は気づかなかった。
一台しかないので、誰かが作業をしていると、テレビを見る人は待つことになる。
うちの共用スペースでは、この衝突が毎晩起きた。
資料を作っている住人の後ろで、テレビを見たい住人が立っている。あの空気の重さ。
別々の機器なら、片方でテレビを見ながら、もう片方で作業できる。
裏で録画すると、動作が重くなる
録画は、本体の処理能力を使う。
録画中に別の作業をすると、両方が遅くなる。
うちは、録画が始まった瞬間に画面の動きが引っかかるようになった。動画編集をしていた住人が、作業を中断していた。
テレビ専用の機器なら、録画は独立して動く。パソコンの負荷とは無関係。
音量の調整が、噛み合わない
細かい話だけれど、日常的に効いてくる。
パソコンの音量と、テレビの音量が別々に管理されている機種がある。
テレビを見ようとして音が出ない。設定を探す。二か所で音量を上げる必要がある。
うちの住人が、毎回この操作で苛立っていた。慣れの問題だと言われればそうだけれど、慣れるまでが長い。
壊れたときの、被害が広い
画面が壊れると、全部使えない
一体型の最大の弱点。
画面と本体が一つになっているので、画面が壊れると、中のデータにも触れなくなる。
うちのは、二年目に画面の左端に縦の線が入った。作業には支障がある程度だったが、修理見積もりは七万円だった。
本体とモニターが別なら、モニターだけ買い替えればいい。二万円で済む話。
修理のあいだ、テレビも見られない
修理に出すと、二週間ほど手元から離れる。
そのあいだ、パソコンもテレビも使えない。
うちは共用スペースにテレビが一つもない期間ができた。住人が各自の部屋にこもるようになって、リビングが静かになった。
別々に持っていれば、片方が修理中でも、もう片方は動く。
部品の保有期間が、短い
テレビの部品は、製造終了から長く保有されることが多い。
パソコンは、それより短い傾向がある。
テレビ機能の付いたパソコンは、パソコンとして扱われる。修理できる期間が、テレビより短くなる。
うちのは、五年目に修理を断られた。部品がないという回答だった。
性能面で、中途半端になる
画面が、どちらにも最適化されていない
パソコンの画面は、近くで文字を読むために作られている。
テレビの画面は、離れて映像を見るために作られている。
両方をやろうとすると、どちらかを妥協することになる。
うちのは、文字がやや滲んで見えた。映像は悪くなかったが、作業していると夕方に目が重くなった。
本体が厚く、重くなる
テレビの受信部品が入るぶん、筐体に余裕が要る。
うちのは、同じ画面サイズの一般的な一体型より、明らかに厚かった。
掃除のときに動かすのが大変で、結局ずっと同じ場所に置きっぱなしになった。背面に埃が層になっていた。
値段が、上乗せされる
テレビ機能があるぶん、価格が高くなる。
うちの購入時、同性能のパソコンとの差額は四万円ほどだった。
その四万円で、テレビ用の小型モニターと録画機を別に買えたと思う。今なら、そう判断する。
それでも向いている場面
置く場所が、本当にない
狭いワンルームで、机の上に一台しか置けない。
この条件なら、一体型の意味がある。
うちの住人で、四畳半の部屋に住んでいた人は、この形式を選んでいた。彼にとっては合理的だった。
録画を溜めない使い方
見たらすぐ消す。溜め込まない。
この使い方なら、録画が消える問題はほぼ起きない。
配信サービスが中心で、地上波はニュースを流す程度。そういう人には、デメリットが表面化しない。
一人で使う
共用にすると、時間の取り合いが起きる。
一人で使うなら、その衝突がない。作業とテレビを、自分の都合で切り替えられる。
うちの失敗は、六人で共用したこと。台数の問題を、機能の統合で解決しようとした。
分けたあと、どうなったか
二十七インチのモニターと、小型パソコン
今の共用スペースには、モニターとパソコンが別々に置かれている。
テレビは、壁際に別途一台。
場所は取る。コンセントも増えた。それでも、誰かが作業していてもテレビが見られる。
片方が壊れても、もう片方が生きている。
録画は、別の機器に任せた
テレビに外付けの記憶装置を繋いで、そこに録画している。
テレビは十年近く使える。そのあいだ、録画は残り続ける。
パソコンを買い替えても、影響がない。
費用は、ほぼ同じだった
分けたほうが高くつくと思っていた。
実際に計算したら、当時の一体型とほぼ同額だった。
壊れたときの修理費まで含めると、分けたほうが安い。片方だけ交換できるので。
先月、共用スペースでミオが資料を作っていた。
その斜め後ろで、リョウがテレビを見ている。音量は控えめ。
以前なら、どちらかが待っていた光景。
「これ、当たり前になっちゃいましたね」
モニターの光と、テレビの光が、それぞれ別の方向から壁を照らしていた。

コメント