搬入まで四時間、冷凍庫の中身が汗をかきはじめた
共用冷蔵庫の入れ替え当日。
朝八時、古い冷蔵庫の電源を抜いた。新しいものが届くのは正午。搬出と搬入のあいだに、四時間の空白がある。
中身を全部出して、床に並べた。冷凍の肉が四パック、冷凍野菜、アイス、そして冷蔵室の乳製品と卵と作り置き。
クーラーボックスは、うちに一つもなかった。
これ、全部だめになるやつでは
床に座り込んで、袋の中の肉を触った。まだ硬い。でも表面がうっすら濡れている。
六人ぶんの食材が、その日の判断ひとつで生ゴミになるかどうか決まる。背中が汗ばんだ。
結論から書くと、失ったのはアイス一箱だけだった。
やったことは、家にあるもので冷たい塊を作り、その中に食材を閉じ込めるという単純なこと。
冷たさは、量で作る
クーラーボックスの役割は二つ。外の熱を遮ることと、中の冷気を保つこと。
断熱材がなくても、冷たいものを大量に詰めれば、温度は保たれる。
冷凍庫の中身そのものが、実は最強の保冷剤になる。凍った肉や野菜は、それ自体が氷の塊。
これを分散させずに、一か所に固めるのが基本方針になる。
段ボールと毛布で、箱を作る
うちが使ったのは、この二つ。
段ボールの内側に新聞紙を敷き、その中に凍ったものを密に詰める。上から毛布をかぶせる。
四時間後に開けたとき、肉はまだ凍っていた。表面がわずかに柔らかくなった程度。
冷凍のものを、どう守るか
隙間を作らない
これが最も効いた。
凍ったもの同士を、隙間なく詰める。空気の層があると、そこから温まっていく。
うちは段ボール一箱に、冷凍食品を全部押し込んだ。動かない程度にぎゅうぎゅうに。
余った隙間には、丸めた新聞紙を詰めた。空気の対流が止まる。
新聞紙を、何重にも使う
段ボールの底、側面、そして上部。
新聞紙は空気を含むので、断熱の働きをする。三枚重ねると、体感でかなり違う。
うちは箱の内側を新聞紙で二周巻いて、その中に食材を入れた。
最後に、上からも新聞紙を三枚かぶせて、それから蓋を閉じた。
毛布で、箱ごと包む
段ボールの外側を、毛布でくるむ。
断熱材の代わりになる。冬用の厚い毛布があれば、それが一番いい。
うちは、押し入れから出した毛布を二枚使った。箱を真ん中に置いて、両側から巻く形。
床に直接置かず、下にも一枚敷いた。床からの熱が伝わるので。
冷蔵のものを、どう扱うか
凍ったものと、一緒にする
冷蔵の食材を、冷凍の塊の上に載せる。
凍ったものから出る冷気が、上に溜まる。それを利用する。
うちは、卵と乳製品を袋に入れて、冷凍の箱の一番上に置いた。四時間後、触ると冷たいままだった。
直接触れさせると凍るので、新聞紙を一枚挟む。
常温で平気なものを、選り分ける
全部を冷やそうとすると、箱が足りなくなる。
調味料の多くは、常温で数時間置いても問題ない。醤油、味噌、ソース類。
うちは、この選り分けに十分かけた。結果、冷やすべきものが半分に減った。
根菜や、未開封の飲料も、常温に出しておける。
優先順位をつける
守るべき順番を決めておく。
生肉と生魚が最優先。次に乳製品と卵。作り置きのおかず。その次に野菜。
うちはアイスを最後にした。溶けても命に関わらない。結果、アイスだけが犠牲になった。
判断を先にしておくと、当日に迷わない。
家にあるもので、代用する
保冷バッグを、集める
うちは住人六人の部屋から、買い物用の保冷バッグを集めた。
四つ出てきた。それぞれに冷凍のものを分けて入れて、さらに毛布で包む。
一つの大きな箱より、小さな袋を複数使ったほうが、扱いやすい場面もあった。
食材の種類ごとに分けられるので、取り出すときに全部を開けなくて済む。
発泡スチロールの箱
通販の荷物に入っていたものが、押し入れにあった。
断熱性能は、段ボールより上。
うちは一つしかなかったので、最も守りたい生肉をここに入れた。
使う予定がなくても、一つ取っておくと、こういう日に助かる。
氷を、前日から作る
これが最も効果的な準備だった。
前日から製氷皿をフル稼働させる。あるいは、ペットボトルに水を入れて凍らせる。
うちは五百ミリリットルのボトルを四本凍らせた。溶けても水になるだけで、こぼれない。
袋入りの氷を買ってくる手もある。前日にコンビニやスーパーで数袋。
時間を、短くする工夫
搬出と搬入を、同じ業者に頼む
うちの失敗は、ここだった。
古い冷蔵庫の引き取りと、新しいものの搬入を、別々に手配していた。そのあいだに四時間の空白ができた。
同じ業者に頼めば、古いものを運び出してすぐ、新しいものを設置してもらえる。空白は三十分ほどで済む。
購入時に、引き取りも同時に依頼できるか確認する。
時間指定を、朝一番にする
配送の時間帯が幅を持っていると、待機時間が読めない。
午前中という指定だと、九時に来ることも十二時に来ることもある。
うちは、時間を絞れる配送を選ぶようにした。追加料金がかかることもあるが、食材を捨てる金額より安い。
冷蔵庫を空にしてから、日を決める
最も確実な方法。
買い替えの一週間前から、買い足しを控える。中身を消費していく。
うちは二台目の入れ替えのとき、これをやった。当日、冷凍庫に残っていたのは二パックだけ。
段ボールも毛布も要らなかった。
新しい冷蔵庫が届いてから
すぐには、冷えない
設置して電源を入れても、庫内が冷えるまで時間がかかる。
機種によるが、冷凍室が使える温度になるまで四時間から半日ほど。
うちは、届いてすぐ食材を入れて、翌朝に冷凍室のものが半解凍になっていた。
説明書に、食品を入れるまでの待ち時間が書いてある。それを守る。
運搬直後は、すぐ電源を入れない
横倒しにして運んだ場合、内部の油が回っている可能性がある。
そのまま動かすと、圧縮機を傷める。
設置後、一時間から数時間置いてから電源を入れる。業者が説明してくれることが多い。
うちは言われた通り二時間待った。そのぶん、冷えるのが遅れる。この時間も計算に入れる。
冷える順番
冷凍室が先に冷える機種と、冷蔵室が先の機種がある。
うちのは冷凍室が先だった。凍らせたいものから順に入れていった。
庫内に温度計を入れておくと、判断がつく。手を入れて冷たいと感じるのは、数字より遅い。
やらないほうがいいこと
浴槽に水を張って、浸ける
うちの住人が提案した方法。止めた。
水道水は二十度前後ある。冷たく感じるが、食材を保つ温度ではない。
包装が濡れると、そこから傷む。
氷を大量に入れるなら別だが、それだけの氷を用意できるなら、箱に入れたほうがいい。
ベランダに出す
冬なら気温が低いから、と考える。
直射日光が当たると、外気温より高くなる。曇りでも、輻射で温まる。
それに、虫や鳥が来る。
うちは冬の入れ替えでも、室内で処理した。日陰の廊下のほうが、温度が安定していた。
何度も開けて確認する
気になって、箱を開けたくなる。
開けるたびに、冷気が逃げる。
うちは四時間、一度も開けなかった。開けたのは、新しい冷蔵庫が冷えてから。
心配なら、外側から手を当てる。冷たさが伝わってくれば、中は保たれている。
先月、二台目の冷蔵庫を入れ替えた。
搬入の三十分前、キッチンの床には段ボールが一つだけ置かれていた。中には冷凍の肉が二パック。
一週間かけて中身を消費した結果だった。
「今回、毛布いらないっすね」
リョウが押し入れから出しかけた毛布を、そのまま戻した。
新しい冷蔵庫が入って、二時間後に電源が入った。庫内灯が点いて、静かな運転音が始まった。

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