上の部屋のエアコンだけ、いつも効きが悪かった
八月、共用ベランダ。
二台の室外機が、金属の架台で上下に重なって設置されている。下が一階の共用リビング、上が二階の個室。
その夏、二階の住人がずっと言っていた。
「なんか、うちのだけ全然冷えない」
ある午後、ベランダに出て両方の室外機に手をかざした。
下から吹き出す風が、そのまま上の機体の背面に吸い込まれていく。
手のひらに当たる空気が、明らかに熱い。
(これ、下の熱を上が吸ってるだけじゃないか)
背中に汗が伝った。原因は、機械の故障ではなかった。
シェアハウスの共用ベランダは幅が狭い。二台を並べて置く余地がなく、上下に積む形になっていた。この配置で三年、季節ごとに何が起きるかを見てきた。
二段置き自体は、問題ではない
先に整理しておく。
上下に重ねる設置方法は、メーカーも想定している。専用の架台が販売されている。
問題になるのは、上下の間隔と、風の通り道。この二つが確保されていないとき。
うちの現場は、間隔が足りていなかった。
効率が落ちるのは、熱を吸い直すから
室外機は、部屋から集めた熱を外に捨てる装置。
下の機体が吐き出した熱い空気を、上の機体が吸い込むと、捨てた熱をもう一度扱うことになる。
機械は設定温度に届かせようとして、より強く動く。電気を余分に使い、部品にも負担がかかる。
うちの二階の部屋が冷えなかったのは、これが理由だった。
間隔をどれだけ空けるか
三十センチが最低ライン
上の機体の底面と、下の機体の上面。この距離を測る。
うちの現場は十八センチしかなかった。専用の架台なのに、なぜそうなっていたのか分からない。前の入居時からその状態だった。
三十センチを下回ると、熱の吸い戻しがはっきり起きる。
架台を交換して四十センチに広げたら、二階の効きが変わった。設定温度に到達する時間が、体感で半分になった。
吹き出し口の前を、五十センチ空ける
上下の間隔とは別に、正面の空間も要る。
うちのベランダは、室外機の前に自転車と物置と植木鉢が並んでいた。
熱を捨てる先が塞がれていれば、上下の間隔を広げても意味がない。
全部どかして、前方五十センチと側面二十センチを確保した。この作業だけで、下の機体の効きも改善した。
背面の吸い込みにも、隙間が要る
室外機は、背面と側面から空気を吸って、正面から吐き出す。
背面が壁にぴったり付いていると、吸える空気が減る。
うちは十センチほど壁から離した。手を差し込める程度の隙間があれば足りる。
壁との隙間には、落ち葉や綿ぼこりが溜まる。年に一度、掃除する。
上下で、条件がまるで違う
上の機体は、熱を吸いやすい
暖まった空気は上に行く。
下の機体が出した熱が、そのまま上へ流れる。上の機体は、常に不利な位置にいる。
うちは、使用頻度の高い部屋のエアコンを下段に配置し直した。頻度の低い部屋を上に持ってきた。
配置を入れ替える工事に三万円ほどかかったが、夏の不満はなくなった。
上の機体は、直射日光も浴びる
下の機体は、上の機体が屋根の役割をしている。日陰になる。
上の機体には、遮るものがない。真夏の午後、金属の筐体は触れないほど熱くなる。
うちはすだれを一枚、上の機体の上に斜めに立てかけた。百円ショップのもの。
本体を布で覆うのは駄目。風が抜けなくなって逆効果になる。日陰を作るだけでいい。
下の機体は、水を浴びる
冷房運転をすると、室外機から水が出る。上の機体の排水が、下の機体に落ちる。
うちは、上の機体の排水ホースを延長して、下の機体を避けて床に流すようにした。
ホースは千円ほど。作業は十分。
放置すると、下の機体の上面に水が溜まって、そこから錆が広がる。うちの下段は、上面の塗装が一部剥げていた。
架台そのものの問題
錆びると、上の機体が落ちる
二段置きの架台は、金属製。屋外で雨風にさらされ続ける。
うちの架台は、設置から何年経っているか分からなかった。脚の付け根に赤い錆が広がっていた。
指で押すと、わずかに沈む感触があった。あの瞬間、心臓が跳ねた。上には数十キロの機体が載っている。
管理会社に連絡して、架台ごと交換してもらった。費用は貸主負担だった。
年に一度、脚の付け根を見る
確認する場所は決まっている。
床と接している脚の底、そして溶接されている接合部。
赤茶色の粉が浮いていたら、進行している。指でこすって、金属が痩せている感触があれば、専門家に見てもらう。
うちは春の掃除のときに、全員で一度確認する習慣にした。
振動で、ボルトが緩む
室外機は運転中に振動する。その振動が架台に伝わり続ける。
固定しているボルトが、少しずつ緩む。
うちは一度、上の機体が運転中にがたがた鳴り出したことがある。ボルトを締め直したら止まった。
自分で締めるなら、電源を落としてから。判断がつかないなら、業者に頼む。
音の問題
上段は、音が伝わりやすい
架台が金属なので、振動が構造体を通って伝わる。
うちは二階の部屋の窓のすぐ外に上段の機体があった。夜、運転音が室内に響いた。
防振用のゴムを、架台と機体のあいだに挟んだ。四つで三千円ほど。
音が完全に消えるわけではないが、低い唸りが減った。
隣家との距離を、確認する
二段置きにすると、上の機体の位置が高くなる。
高い位置から出る音は、遠くまで届く。隣の建物の窓と同じ高さになることがある。
うちは隣家との距離が三メートルほどだった。設置の向きを変えて、吹き出し口が隣家を向かないようにした。
苦情が来る前に手を打つ。来てからだと、話が難しくなる。
夜間の運転を、控える工夫
うちは、上段のエアコンを深夜に強く運転しないよう、住人と話し合った。
設定温度を極端に下げると、室外機が全力で回る。音が大きくなる。
寝る前に部屋を冷やしておいて、就寝中は弱で維持する。
これで、夜の音の苦情はなくなった。
設置を検討している人へ
横に並べられるなら、そのほうがいい
選択肢があるなら、平置きを選ぶ。
二段置きは、スペースがない場合の妥協案。効率の面では、必ず何かを失う。
うちのベランダは幅が九十センチしかなかった。並べる余地がなかった。
奥行きに余裕があるなら、前後にずらして置く方法もある。互いの吹き出し口が干渉しない配置を探す。
専用の架台を、必ず使う
ブロックを積んで、その上に置くという方法を見たことがある。
地震で崩れる。振動でずれる。絶対にやらない。
専用の架台は、機体の重量と振動を前提に設計されている。二万円から四万円ほど。
うちは交換のとき、亜鉛メッキ処理されたものを選んだ。錆の進行が遅い。
賃貸なら、勝手に動かさない
室外機の位置を変えるのは、配管の工事を伴う。
自分で動かすと、配管が折れてガスが漏れる。修理費が数万円になる。
うちは全部、管理会社を通した。備え付けのエアコンだったので、費用は貸主が持った。
自分の持ち込みエアコンなら、自費になる。それでも業者に頼む。
先月、ベランダに出たら、二段の室外機のあいだに手を差し込んでいる住人がいた。
上の機体の底に手のひらを当てて、しばらく動かない。
「熱くないですね、今年」
下から吹き出した風が、架台の隙間を抜けて、ベランダの外へ流れていく。
四十センチの空間が、そこにあった。

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