シンクに積まれた皿を見て、月三千円を払う気になった
六人が住むシェアハウスの共用キッチン。
夜十時、シンクには五人ぶんの食器が層になっていた。誰のものか分からない鍋が二つ、いちばん下に沈んでいる。
洗おうとして蛇口をひねったら、水が跳ねて、油の膜が指に張り付いた。
これ、毎日誰かがやってるんだよな
その週の住人会議で、食洗機を入れる話が出た。買うと五万円以上。設置工事も要るかもしれない。
誰も踏み切れなかった。そこで出てきたのが、月額で借りるという選択肢だった。
半年借りて、そのあと買った。この順番でよかったと今は思っている。
借りるべき人と、最初から買うべき人がはっきり分かれる。
レンタルが向くのは、設置が読めない場合
結論を先に置く。
自分のキッチンに置けるか、分岐水栓が付くか、動線が成立するか。これらが不明なら、借りる価値がある。
条件がはっきりしていて、長く使うと決まっているなら、買ったほうが安い。
うちが借りたのは、共用キッチンのシンク横に本当に収まるか、誰も自信を持てなかったから。
費用の分かれ目は、一年
月額は三千円から五千円ほどが相場だった。
一年借りると、四万円から六万円。本体を買う金額に届く。
一年を超えて使うと決まっているなら、買ったほうが安い。
うちは半年で二万円ほど払って、そのあと本体を購入した。授業料としては妥当だった。
借りてよかった、三つのこと
設置できるか、試せた
これが最大の理由。
うちのキッチンは、シンク横のスペースが幅四十五センチしかなかった。カタログの寸法では入る計算。
実際に置いてみると、扉を開けたときに冷蔵庫の扉とぶつかった。
借りたものだったので、返却して別の機種に変えられた。買っていたら、その場で詰んでいた。
水の分岐が、必要かどうか分かった
食洗機には、給水の方式が二つある。
水道から分岐させて自動で引くものと、手で水を注ぐものがある。
うちの蛇口は特殊な形状で、分岐の部品が合うか不明だった。
借りたのは手で注ぐタイプ。半年使って、この方式で足りると分かった。買うときも同じ方式を選んだ。
分岐の工事をしていたら、賃貸の原状回復の話になっていた。
使う頻度が、読めた
導入前は、毎日使うつもりだった。
実際には、週に四回ほど。少人数で食べた日は、手で洗ったほうが早い。
この頻度が分かったので、購入時に容量を一段階小さくした。値段が下がって、置き場所も楽になった。
使ってみないと分からないことが、思ったより多かった。
借りて困った、四つのこと
機種を選べない
うちが借りたのは、扱いのある機種が三つだけだった。
そのうち条件に合うのは一つ。選択肢がない。
買うなら、寸法も容量も自分で選べる。借りるときは、あるものから選ぶことになる。
うちが最初に借りた機種は、乾燥の音が大きかった。深夜に回すと、二階まで響いた。
中古が届く場合がある
新品が届くとは限らない。
うちに来たものは、扉の内側に細かい傷があった。動作には問題なかったが、庫内に前の使用者の匂いがわずかに残っていた。
最初の一回は、空で洗浄運転を回した。それで消えた。
気になる人は、新品保証があるか確認する。あるものは、月額が上がる。
返却の手間
届いたときの箱を、保管しておく必要がある場合がある。
うちは箱を捨ててしまい、返却時に困った。業者に相談して、梱包材を送ってもらった。
返却の送料が自己負担かどうかも、契約前に確認する。
最低利用期間が設定されていることもある。三か月未満で返すと、違約金が発生する契約だった。
途中で買うと、割高になる
借りた分の金額は、購入価格から引かれない契約だった。
うちは半年分の二万円が、そのまま消えた。
借りた金額を購入代金に充当できる仕組みを持つところもある。長く使う可能性があるなら、この条件を先に探す。
設置の現実
置き場所は、幅より奥行きと高さ
シンク横のスペースを測るとき、幅だけ見て安心してはいけない。
奥行きが足りないと、本体が前にはみ出す。通路が狭くなる。
高さは、上部に吊り戸棚がある場合に問題になる。扉を上に開ける機種だと、開ききらない。
うちは、幅四十五、奥行き四十、高さ五十五という条件で探した。合う機種が二つしかなかった。
排水の逃がし方
使った水を、どこに流すか。
シンクにホースを垂らす方式が多い。ホースの先が水に浸かっていると、逆流する。
うちは、ホースをシンクの縁にクリップで固定した。百円ショップのもので足りた。
排水の温度が高いので、樹脂のシンクだと変形することがある。ホースの先を、直接同じ場所に当て続けない。
電源の確保
食洗機は、消費電力が大きい。千二百ワット前後。
電子レンジや電気ポットと同じ回路で同時に使うと、ブレーカーが落ちる。
うちは一度これで落とした。深夜、住人全員が起きてきた。
壁のコンセントに直接挿す。使う時間帯を、他の家電とずらす。
使ってみて分かった、性能の限界
入れ方を覚えるまで、洗い残しが出る
最初の二週間、皿の裏に汚れが残っていた。
水が届く向きを考えずに入れていたから。
汚れた面を、水が噴き出す方向に向ける。皿を重ねない。深い器は伏せる。
この配置を覚えると、洗い残しがほぼなくなった。
入らないものがある
大きなフライパン、木製の器、耐熱でないプラスチック。
うちの共用キッチンには、直径二十六センチのフライパンがある。入らなかった。
結局、大きな調理器具は手で洗うことになる。食洗機は、食器と小物を担当する道具として使う。
それでも、洗い物の総量は明らかに減った。
時間はかかる
一回の運転に、一時間から二時間ほど。
今すぐ皿が欲しい、という場面には使えない。
うちは、夕食後にセットして、寝る前に開ける流れにした。翌朝には乾いている。
急ぐときは手で洗う。両方を使い分ける。
共同生活での、運用
誰が回すかを、決める
共用にすると、誰も回さない時間帯が生まれる。
うちは、最後に食べた人が回す決まりにした。
入れるだけ入れて放置する人が出ると、次の人が使えない。庫内が埋まったまま朝になる。
洗剤の補充も、気づいた人がやる形にした。
個人の食器を、混ぜるか
うちは混ぜる形にした。
自分の分だけ回すと、庫内が半分しか埋まらない。水と電気が無駄になる。
取り出したあと、誰の食器か分からなくなる問題は起きた。共用の食器を増やして、個人所有を減らす方向で解決した。
音の問題
運転音は、機種によってかなり違う。
うちが借りた機種は、乾燥の段階でファンの音が大きかった。
二十二時以降は回さない決まりにした。
借りるときに音の大きさを確認するのは難しい。この点は、実際に使ってみないと分からない部分だった。
借りるか、買うかの判断
借りたほうがいい人
設置できるか自信がない。引っ越しの予定が近い。使うかどうか分からない。
この三つのどれかに当てはまるなら、借りる価値がある。
特に賃貸で、水道の工事に踏み切れない場合。手で注ぐタイプを借りて試せる。
買ったほうがいい人
置き場所が確保できていて、一年以上使うと決まっている。
この場合、迷わず買う。金額で必ず逆転する。
うちも、条件が分かったあとは買った。半年借りた費用は、判断材料を得るための出費だと割り切っている。
契約前に、確認する三点
最低利用期間があるか。返却の送料は誰が持つか。購入に移行できる仕組みがあるか。
うちはこの三つを確認しなかった。返却の送料が自己負担で、三千円かかった。
契約書の細かい部分に書いてある。届く前に読む。
先月、共用キッチンで夜十時。
シンクは空だった。カウンターの上で、食洗機が静かに回っている。
リョウが冷蔵庫から飲み物を出しながら、庫内の窓を覗いた。
「これ、借りてたやつと違うんですね」
音が小さいだろ。それが決め手だった。
運転が終わる音がして、キッチンに湯気の匂いが広がった。

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