見積書の下から三行目に、一万六千五百円
シェアハウスに入る前、都内でワンルームを借りた住人が持ち帰った書類。仲介の担当者が並べた項目の中に、室内消毒施工という一行がありました。
これ、何?
聞いたら、入居前に必ずやってもらってます、と返ってきたそうです。
必ずで押し切られる人が本当に多い。
結論から動きます。ほぼ断れます。うちの住人で断った人が全員そのまま契約できました。断ったせいで入居を拒まれた例は、引っ越し歴を掘り返しても出てきません。
なぜ断れるのか、根拠は契約の外側にある
賃貸借契約の中身ではない
部屋を借りるために必要なのは、賃料、敷金礼金、そして火災保険くらい。害虫駆除の施工は、そこに含まれていません。仲介会社や管理会社が別サービスとして案内しているオプションです。
必須と言われて押し込まれるケースが多いのは、単に断る人が少ないから。金額も一万五千円から二万円あたりで、揉めるほどじゃないと感じる絶妙な設定になっている。
実際の施工が数分で終わっている
住人の一人は断りそびれて支払い、当日の様子を見ています。作業員が来て、キッチンとユニットバスの隅にスプレーを吹き、燻煙剤らしき缶を置いて退出。所要十五分弱。
市販の燻煙剤は一個千円前後。プロの技術料と割り切るにしても、その差額に納得できるかという話になります。
解約時の原状回復とも関係がない
入居時に消毒しないと退去時に費用を請求される、という説明を受けた人がいました。これは繋がりません。原状回復は借主の使い方による損耗が対象で、入居前の消毒の有無で判定が変わるものじゃない。
そう言われたら、契約書のどの条項に書いてあるか見せてほしいと返す。書面に根拠がなければ、それは営業トークです。
その場で言える、角の立たない断り方
強く出る必要はありません。感じよく、はっきり。
自分で市販品を使うので外してください
これがいちばん通りやすい文言でした。断る理由が代替手段の提示になっているので、担当者も引き下がりやすい。
うちの住人は全員この一言で外れています。渋られたら、任意のサービスですよね、と一度だけ確認する。それで大抵は引きます。
見積もりを出す前の段階で伝える
書類ができあがってから外してもらうと、担当者の手戻りが発生して空気が重くなる。内見の後、申し込みの意思を伝えるタイミングで先に言っておくとスムーズです。
オプションは付けない方向で、と最初に置いておく。抗菌施工や消火器の販売も同じ列に並んでいることが多いので、まとめて処理できます。
断れないと言われたら、書面を求める
契約の必須条件だと押されたら、必須であることが書かれた書面をくださいと頼む。出せない場合は任意です。
住人の一人はここで担当者が黙り、次の日に上長から外せますという連絡が来ました。ゴネたわけじゃない。確認しただけ。
断ったぶん、自分で何をやるか
浮いた一万六千円をそのまま財布に入れるのは、ちょっともったいない。数千円だけ使えば、施工より効く状態を作れます。
家具を入れる前の空室が、最大のチャンス
これが核心です。荷物のない部屋で燻煙剤を焚くと、薬剤が全部の隙間に回る。冷蔵庫の裏、シンク下、押し入れの奥、全部が空っぽの状態。
住人の一人は鍵を受け取ったその足で部屋へ行き、燻煙剤を一つ焚いて、二時間換気してから荷物を入れました。二年住んで、ゴキブリを見たのは一度きり。
家具が入った後に焚くと、家具の裏側という一番の潜伏場所に薬が届きません。順番がすべて。
買うのは三種類、合計四千円ほど
煙が出るタイプの燻煙剤を一つ。火災報知器にカバーをかける手間があるので、水を入れて煙の出にくいタイプでもいい。
次にベイト剤、置いておくと巣ごと効くタイプ。冷蔵庫の裏、シンク下、洗濯機の脇、玄関の靴箱の中。この四か所に置きます。
最後に隙間を塞ぐ材料。エアコンの配管が壁を抜ける穴の周りに隙間が空いていることがあり、パテを詰めるだけで侵入経路がひとつ消えます。二百円くらい。
排水口の封水と、通気口の網
洗濯機の排水口に防臭キャップが付いていない部屋、けっこうあります。ここが下水と直通になっていて、上がってくる。ホームセンターで数百円のキャップを付ける。
換気扇のフィルターや通気口の網目も確認する。破れていたら管理会社に伝えれば、たいてい無料で直してもらえます。
それでも頼んだほうがいい部屋がある
全員に断れと言うつもりはありません。うちの住人が実際に困った条件を挙げます。
一階で、飲食店が同じ建物に入っている
以前住んでいた部屋がこれでした。一階の居酒屋の真上、建物は築四十年。入居して一週間で、深夜のキッチンにカサカサと音が走った。
その人は自力で二か月粘って、最終的に専門業者を呼んでいます。費用は二万八千円。最初から頼んでおけばよかったと言っていました。
建物全体に巣がある場合、自室だけの対策は焼け石に水です。
前の入居者がゴミ屋敷だった
内見のときに壁の隅が黒ずんでいる、独特の匂いが残っている、シンク下に小さな黒い粒が落ちている。この兆候が見えたら、専門的な処理を検討する価値がある。
ただしその場合も、仲介の勧めるオプションではなく、駆除専門の業者に直接依頼したほうが中身が濃い。一万円台のオプション施工と、二万円台の専門駆除では作業時間が桁違いです。
木造の古い建物で、隣室から流れてくる
壁の中を通って移動されると、自分の部屋だけ対策しても意味が薄い。管理会社に伝えて、建物全体での対応を求めるほうが早い。
引っ越し業者が勧めてくるオプションは別物
仲介会社のものと混同されがちですが、荷物を運ぶ業者が案内する害虫駆除は、また違う商品です。
旧居から虫を持ち込まないための処理を名目にしていることが多い。段ボールの中に卵が紛れる可能性はゼロじゃないので、理屈は通っています。
ただ、こちらも任意。断って値引き交渉の材料にした住人がいました。オプションを全部外したら、見積もりが八千円下がったそうです。
心配なら、旧居で荷造りの前に一度焚いておく。段ボールは新品を使い、スーパーでもらった箱を長期間部屋に置かない。それだけで持ち込みリスクはかなり削れます。
断った後に虫が出たら、どうするか
自己責任になるのは事実です。ただ、慌てて高額な業者を呼ぶ前に順番があります。
まず出た場所を特定する。キッチンなのか、風呂なのか、玄関なのか。侵入経路と潜伏場所は必ず近い。
ベイト剤を追加で置き、二週間見る。数が減っていれば自力で足りています。減らない、あるいは日中に見かけるようになったら、巣が室内にある可能性が高いので専門業者へ。
管理会社に連絡するのも忘れずに。建物の構造や配管に原因がある場合、費用が管理側の負担になることがあります。うちの住人は排水管の隙間が原因で、修繕費ゼロで直りました。
浮いた一万六千円で、何を買うか
断って、自分で四千円ぶん動く。差額の一万二千円は、防虫効果のあるゴミ箱にでも回せばいい。生ゴミの管理を変えたほうが、一回の消毒より長く効きます。
必ずやってもらってます、と言われた瞬間に財布を開かないこと。あの一文は、断られたことがある人には言えない台詞なんですよ。

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