テレビのない6畳で、大学生活は普通に回る
引っ越し初日、段ボールの山の向こうに、何も置かれていない白い壁があった。
私が大学に入った春の話。テレビもテレビ台も、買わなかった。
理由は単純で、お金がなかったから。
段ボールに腰かけて、スマホの小さな画面でバラエティを流した。
カップ麺をすすった、その夜のことがいまだに忘れられない。
(え、この壁、4年間このまま…?)
そう思ったのに、結局卒業まで一度もテレビを買わなかったんですよね。
私は今、都内のシェアハウスで暮らしながら、このメディアの編集をしている。
同じ屋根の下には大学生のメンバーが何人もいて、個室にテレビを置いている人はゼロ。
彼らに話を聞いていくうちに、迷っている新入生に伝えたいことが固まってきた。
リビングに共用テレビがあるのに、誰もつけない
うちのシェアハウスには、共用リビングに50インチのテレビがある。
誰でも自由に使えて、受信料は運営側が払っている。
お金の理由も、置き場所の理由も消えた状態ですね。
それでもリビングのテレビに電源が入るのは、年に数回だけ。
正月の箱根駅伝、誰かが酔って始めた歌番組の鑑賞会、あとはこの夏のサッカー。
それ以外の夜に聞こえるのは、誰かのノートパソコンから漏れる配信の音と、電子レンジの音くらいです。
条件が整っていても、大学生はテレビをつけない。
この光景を毎晩目の前で見ているから、私は言い切ります。
一人暮らしの大学生の部屋に、テレビはいらない。
持たない学生は、もう珍しくない
数字も同じ方向を向いている。
マイナビ学生の窓口が2023年に学生300人へ聞いた調査では、家にテレビがない学生が13%。ほとんど、あるいは全く必要ないと答えた学生は34%にのぼった。
実家暮らしも含んだ数字だから、一人暮らしに絞ればテレビなしの割合はもっと上がるはず。
LINEリサーチの調査でも、18歳から27歳の男性ではテレビの保有率が7割台まで下がっている。
総務省の令和6年度の調査も見ておきたい。
平日のネット利用は181.8分、リアルタイムのテレビ視聴は154.7分。全年代の平均でさえ逆転した。
10代から50代は、世の中の動きをいち早く知る手段としてネットを一番に挙げている。
テレビを持たない選択は、もはや節約家の変わり種ではなく、ただの標準。
いらないと言い切る理由は、お金と場所と習慣
NHK受信料が4年間で約5万円消える
テレビを置いた瞬間、NHKとの受信契約の義務が生まれる。
地上契約は月額1,100円、12か月前払いにしても12,276円。
4年間で、約49,000円。
番組を一本も見なくても、バイト1か月分に近いお金が出ていく計算だ。
入居2週目、大学3年のナオの郵便受けにNHKからの封筒が届いた。
放送受信契約のお願い、と書かれた紙を握ってリビングに降りてきた彼の顔は、少し青かった。
「え、テレビないのに払うんですか!」
払わなくていい。
契約の義務は、放送を受信できる機器を設置した人に生じる仕組み。テレビがなければ対象外。
ワンセグ付きのスマホやチューナー入りのレコーダーがあれば話は別。
もっとも、現在店に並ぶスマホでワンセグ付きはまず見かけない。
2023年秋に業者委託の訪問営業が終わったので、夜のインターホンが鳴る場面もほぼ消えた。
封筒は今、ナオの机の引き出しで眠っている。
2025年10月からはネット配信だけでも契約できる仕組みが始まったけれど、スマホを持っているだけでは対象にならない。NHKのアプリやサイトで同意して視聴を始めた人だけが契約者になる。
どうしてもテレビを置くなら、奨学金や授業料免除を受けている学生は全額免除を申請できる。実家が契約していれば、家族割引で半額。
どちらも自分で動かないと、一円も安くならない。
壁一面と、床の一角が自分のものになる
都内の学生向けワンルームは6畳前後が多い。
ベッドと机を置いた時点で、床の余白はほぼ終わる。
そこへテレビ台を入れると、通路が消える。
大学2年のミクの部屋を覗かせてもらった。
テレビがあるはずの壁に、推しのポスターと小さな本棚が並んでいる。
床にはヨガマットが一枚。
「テレビ台って、上に物を置き始めるじゃないですか。気づいたら郵便物とコスメの墓場になる。あれがないだけで部屋がずっと片付いてます」
実家のテレビ周りの風景を思い出せば、この言葉は刺さるでしょう?
おまけに、テレビは引っ越しのたびに一番厄介な荷物になる。
32インチでも箱に入れれば、片手では持てない。
見たいものは、スマホとタブレットで終わっていた
ミクの推しは、週に一度、音楽番組に出る。
生で見たい回はTVerのリアルタイム配信で、逃した回は翌日の昼休みに見逃し配信で追いかける。
「テレビで見てたころは、放送時間に家にいないといけなかった。今のほうが自由に見てますよ」
ドラマもバラエティも、放送から一週間は無料で配信されている。
アニメはネット配信のほうが本数が多いくらい。
ニュースは朝のスマホの通知で見出しを追い、気になるものだけ動画を開く。
テレビの前に座って、流れてくるものを待つ時間は、この世代にはもう存在していないんです。
買った側は、三年生で置き物にする
大学4年のリョウは、逆のパターンだった。
一年生の秋、部屋の静けさに耐えかねて32インチのテレビを買った。
数週間は毎晩つけていた、と本人は言う。
ところが三年生になるころ、テレビはYouTubeを映すだけの板になっていた。
「地上波を最後に見たのがいつか思い出せなくて。受信料の払込用紙が届くたびに、なんか損してる気分になるんですよ」
去年の引っ越しで、階段を三階まで抱えて上がるとき、脇の下が汗でびっしょりになった。
(これ、何のために持ってきたんだっけ)
今年の春、彼はテレビを8,000円で手放して、27インチのモニターに替えた。
NHKの解約手続きも、その週に済ませている。
取材で見えてきたのは、後悔する学生の典型パターン。
音のない部屋に負けて買い、慣れたあとに埃をかぶらせる。
リョウの話を聞きながら、まさかここまで教科書通りとは、と唸ってしまった。
困った夜は、確かにあった
いらない、と断言したあとで、不都合な話も隠さず書く。
テレビがないことで、部屋の空気が本当に変わった夜が二つあった。
それから、親との電話が一本。
揺れた夜、情報がスマホの中にしかなかった
去年の秋、深夜に都内で震度4。
寝ていたナオは、スマホの警報音で飛び起きた。
ガタガタと窓が鳴って、揺れが収まったあとも心臓の音が耳の奥でドクドク続いていた。
「実家だったら、親が居間のテレビをつけて、震源と津波の有無がすぐ画面に出る。それが頭にあったから、部屋が静かなのが逆に怖かった」
スマホのバッテリーは11%。
真っ暗な中で充電ケーブルを探して、机の角に膝をぶつけた。
(テレビあったら、こんなに焦ってなかったかも)
あの時の独り言を、彼は照れながら教えてくれた。
翌日、ナオがやったことは二つ。
NHKのニュース・防災アプリとYahoo!防災速報を入れて、通知を最大にしたこと。
電池式の小さなラジオを1,000円ちょっとで買ったこと。
緊急地震速報そのものは、テレビがなくてもスマホに届く。
足りなかったのは、揺れたあとに全体像を一目で見せてくれる画面だった。
その役目は、アプリのライブ配信とラジオで置き換えられる。
実家の音が消えて、二週間で泣いた
ミクは上京して二週間目の夜のことを、今も鮮明に覚えている。
課題を終えてベッドに転がった。
部屋はシーンとしていて、冷蔵庫のモーター音だけがブーンと鳴っている。
実家では夜の居間にいつもテレビの音があった。
母親が見ていた刑事ドラマの効果音、父親の笑い声、それが突然ゼロになった部屋。
喉の奥がじわっと熱くなって、気づいたら枕が濡れていた。
「恥ずかしいんですけど、その夜、母に電話して、スピーカーのまま居間に置いてもらったんです。テレビの音を聞きながら寝ました。ダサいですよね(泣)」
はぁ…と息を吐きながら話す彼女の顔は、もう笑っていた。
無音への耐性は、意外と早くつく。
ミクは今、帰宅したらまずラジオアプリで地元局を流す。
眠れない夜は共用スペースに移って、誰かの晩ごはんの音の中でレポートを書く。
シェアハウスならではのやり方だけれど、ワンルームの人にもやれることはある。
タブレットで料理動画を流しっぱなしにするだけで、部屋の温度は変わる。
親からの電話に、どう答えるか
迷っている新入生の背中を押しているのは、案外、親の一言だったりする。
テレビくらい買いなさい。ニュースはちゃんと見てるの?
私は大学4年間、これに正面から答えられなかった。
帰省のたびに、見てるよ、と嘘をついて、壁の空白を卒業まで隠し通した(笑)
ナオはもう少し賢い。
地震の翌週、母親からかかってきた電話をビデオ通話に切り替えて、防災アプリの画面を見せた。
警報の通知、避難所の地図、ラジオの画面。
ナオの記憶では、母親はしばらく黙って、それから、分かった、とだけ言った。
親が心配しているのはテレビの有無ではない。
災害のときに情報が届くか、子どもが部屋で孤立していないか、その二つ。
画面で答えれば、電話は5分で終わる。
テレビの代わりに置くなら、この順番
モニター一台で、映像は全部まかなえる
私がいま新入生なら、迷わず27インチのモニターを買う。
2万円前後で、レポートを書く作業画面にもなる。
ファイヤースティックを挿せば、TVerもYouTubeもNetflixも映る。
テレビより安くて、受信料はかからず、引っ越しは小脇に抱えて運べる。
リョウが使い始めて気づいた弱点は二つ。
内蔵スピーカーの音が薄いことと、リモコンで電源を入れられないこと。
スピーカーは数千円のものを足せば解決。
電源はスティックのリモコンとHDMIの連動設定で、ほぼテレビと同じ感覚になる。
入力切り替えに数秒待たされるのだけは慣れた、と彼は肩をすくめた。
チューナーレステレビは受信契約の対象外
大きい画面とテレビらしいリモコン操作を捨てたくない人には、チューナーレステレビがある。
放送を受信するチューナーが入っていないので、アンテナをつないでも地上波は映らない。その代わり、放送法が定める受信契約の対象にならない。
32インチなら2万円台から。
家具店やディスカウントストアの売り場に、ネット動画専用のテレビとして並んでいる。
落とし穴もある。
あとから外付けチューナーやチューナー入りのレコーダーをつなぐと、その時点で契約の対象に戻る。
NHKの配信で同意して視聴を始めた場合も同じ扱い。
ネット動画だけで完結させる覚悟が決まった人向け。
ニュースと防災は、スマホ側に寄せる
ナオの一件のあと、シェアハウスの学生全員がやった設定を書いておく。
NHKのニュース・防災アプリを入れて、居住地の通知をオンにする。
Yahoo!防災速報で、緊急地震速報と避難情報を受け取る。
ラジオアプリで、地元の局をお気に入りに入れておく。
モバイルバッテリーは常に半分以上。
これだけで、テレビのある部屋と同じ速さで警報が届く。
揺れたあとの全体像も、アプリのライブ配信で確認できる。
総務省の同じ調査で、信頼できる情報源としてテレビを挙げる人は今も半数を超える。
その信頼を、テレビの受像機ではなく放送局のアプリで受け取ればいい。
いまの学生にとって現実的な線は、ここにある。
テレビを買ったほうがいい大学生もいる
推しの生放送を、大画面で浴びたい人
マイナビの調査で、テレビを必需品と答えた学生の理由を読んだ。
目立つのは、推しが出る番組を大きな画面で見たい、という声。録画して撮り溜めて一気見したい、という声も。
放送のその瞬間に、部屋で一番大きな画面で、という欲求は配信では満たせない。
この自覚があるなら、迷わず買っていい。
その場合、家族割引か学生免除の申請は、設置した月のうちに終わらせておく。
友達が週に何度も泊まりに来る人
自分の部屋がサークルの溜まり場になるタイプの人は、話が別だ。
人が集まる部屋には、みんなで同じ画面を見る装置があったほうが夜が回る。
私が大学生のころ、テレビのある友人の部屋に自然と集まって、スポーツ中継を見ながら鍋をつついていた。
その部屋の主は、ここが基地になるから、とテレビを買った理由を話していた。
部屋の役割から逆算すれば、答えは勝手に出る。
ご飯とテレビが、体にセットで染みついている人
実家で毎日ご飯を食べながらテレビを見ていた人は、最初の一か月、箸が止まる。
持った瞬間に視線の行き先がなくて、落ち着かないんですよね。
リョウはまさにこのタイプで、だから一年目にテレビを買った。
ただ、彼の結末を思い出してほしい。
三年生で電源が入らなくなった。
この習慣は、タブレットを食卓に立てかけるだけで、二週間ほどで移し替えられる。
最初からテレビを買うより、その二週間を試すほうを私は勧めたい。
4年間テレビなしで暮らしたメンバーの結論
大学生の一人暮らしに、テレビはいらない。
浮くお金は受信料だけで4年間で約5万円、本体を足せば8万円前後。
戻ってくるのは、壁と、床と、引っ越しの日の両腕。
困る夜がゼロだとは言わない。揺れた夜と、無音の夜。
その二つは、アプリとラジオと、少しの慣れで越えられる。
私が親にごまかし続けた壁は、いまの学生たちの部屋で、推しのポスターとヨガマットに変わっている。

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