食パンが、斜めにしか入らなかった
共用キッチンのカウンターは、幅が四十センチしかない。
そこに置くために、住人が買ってきた小型のトースター。開けて、パンを入れようとして手が止まった。
庫内の幅が、食パン一枚とほぼ同じ。まっすぐ入れると、両端が壁に触れる。
斜めに入れて、なんとか収めた。
五分後、焼き上がりを取り出したら、壁に触れていた角だけが黒く焦げていた。
半分だけ炭になってるんだけど
その場にいた三人が、無言でその一枚を見ていた。
シェアハウスの共用キッチンで、三年のあいだに三台のトースターを使った。全部が小型。
置ける場所が限られていると、選択肢は自動的に絞られる。その中で、何が満足度を分けたかを書く。
庫内の寸法が、すべてを決める
外寸ではなく、内寸。
本体が小さくても、庫内がさらに小さいと使い物にならない。断熱材が厚い機種ほど、この差が大きくなる。
うちの一台目は、外寸三十五センチに対して、庫内の幅が二十四センチだった。食パンの一辺が約十二センチ。二枚並べるには足りない。
買う前に見るのは、庫内の幅と高さ。この二つ。
小さいことの利点は、速さ
狭い庫内は、温まるのが早い。
大型の機種が予熱に五分かかるところを、小型なら二分で立ち上がる。
朝、パンを一枚焼くだけの用途なら、この速さが効く。
庫内のサイズを、具体的に測る
食パン一枚が入る、最低の幅
一般的な食パンの一辺は、約十二センチ。
庫内の幅が十五センチあれば、一枚は余裕を持って置ける。
二枚並べるなら、二十六センチ以上が要る。パン同士の間隔も必要になるので。
うちの二台目は幅二十八センチで、二枚がちょうど並んだ。四人が朝食を作る共用キッチンでは、この差が大きかった。
高さで、何ができるかが変わる
庫内の高さが十センチを切ると、パンを焼く以外のことが難しくなる。
グラタンの皿、餅、厚切りのトースト。これらは高さを要求する。
うちの一台目は高さ八センチで、厚切りのパンが上面のヒーターに触れた。表面だけが焦げて、中が冷たいまま。
十二センチあれば、たいていのものが入る。
ヒーターとの距離
庫内が狭いと、食材とヒーターの距離が近くなる。
近すぎると、表面だけが急速に焼ける。中に火が通る前に、外が焦げる。
うちの一台目がこれで、パンの上面が黒くなるのに、中は白いままだった。
網の位置を下げられる機種なら、この問題を緩和できる。段階的に調整できるものを選ぶ。
置き場所の確保
周囲に空ける距離が、決まっている
これを知らずに置くと、危ない。
トースターは、背面と側面から熱を放出する。取扱説明書に、確保すべき距離が書かれている。
上方十センチ、背面五センチ、側面五センチ、といった具合。
うちの二台目は、壁にぴったり寄せて置いていた。二か月後、壁紙がその部分だけ薄く黄ばんでいた。
本体が小さくても、必要な空間は変わらない。設置面積は、外寸プラス周囲の余白で考える。
上に物を置かない
狭いキッチンだと、つい上に何かを載せたくなる。
うちの住人が、トースターの上に食パンの袋を置いていた。使ったあと、袋が熱で縮んでいた。
上部は最も熱くなる場所。何も置かない。
棚の下に設置する場合、棚板との距離を測る。木製の棚板が長期間熱を受けると、変色する。
コンセントの位置
トースターは、消費電力が大きい。八百ワットから千二百ワットほど。
延長コードやタップに繋ぐと、容量を超えることがある。
うちは、電子レンジと同じタップに繋いで、同時に使ってブレーカーが落ちた。深夜、全員が起きてきた。
壁のコンセントに直接挿す。他の熱を出す家電と、同じ回路にしない。
掃除のしやすさで、寿命が変わる
受け皿が外れるか
庫内の底に、パンくずを受ける皿がある。
外して洗える機種と、外れない機種がある。
外れない機種は、庫内に手を入れて拭くしかない。ヒーターに触れないよう気を使う。
うちの一台目が外れないタイプで、半年で底に炭化した層ができた。使うたびに、焦げた匂いが出るようになった。
扉が開ききるか
扉が水平まで開く機種と、途中で止まる機種がある。
水平に開けば、庫内に手を入れやすい。掃除も、食材の出し入れも楽になる。
うちの二台目は、扉が六十度ほどで止まった。奥に手を入れると、手首が扉の縁に当たる。
熱いうちに出し入れするので、この数センチが火傷につながる。
網が外せるか
食材を載せる網。ここに油が落ちて、こびりつく。
外して洗える機種を選ぶ。台所用の洗剤に浸けておけば、落ちる。
うちは月に一度、網を外して洗っている。外れない機種だと、この手入れができない。
共同で使うときの問題
前の人のパンくずが残る
六人で使うと、誰も掃除しない期間ができる。
底に溜まったパンくずが炭化して、次に使う人のパンに匂いが移る。
うちは、使ったら受け皿を出して振る、という決まりにした。作業は十秒。
それでも溜まる。週に一度、当番が洗う形に落ち着いた。
設定を戻さない
温度やタイマーを、前の人が使った状態のまま放置する。
次の人が気づかず使って、焦がす。
うちで何度も起きた。今は、使い終わったらつまみを一番左に戻す決まりにしている。
札を本体の横に貼った。それで減った。
順番待ちが発生する
朝の時間帯、トースターの前に人が並ぶ。
一枚焼くのに三分。四人が続けば十二分。
二枚同時に焼ける機種にしたら、待ち時間が半分になった。庫内の幅への投資は、共同生活では回収できる。
小さい機種の限界
温度が安定しない
庫内が狭いと、温度の変動が大きくなる。
ヒーターが入ったり切れたりするたびに、庫内の温度が上下する。
お菓子作りのように、一定の温度を保つ必要がある調理には向かない。
うちの住人がクッキーを焼こうとして、焼きムラがひどかった。
庫内の左右で、焼き上がりが違う
ヒーターの配置によって、庫内に温度差が出る。
奥のほうが焼けやすい機種、手前が焼けやすい機種。
うちの三台目は、右側が明らかに強かった。パンを途中で前後入れ替えると、均一に焼ける。
使い始めに、一枚焼いてみて癖を掴む。それ以降は、置き方で調整できる。
大きなものは、入らない
当たり前だけれど、諦めが要る。
ピザ、丸ごとの鶏肉、大きめのグラタン皿。これらは無理。
うちは、そういう調理をするときは電子レンジのオーブン機能を使う。
トースターは、パンと小さなものを焼く道具と割り切った。
三台目で落ち着いた条件
庫内幅二十八センチ、高さ十二センチ
食パン二枚が並び、厚切りも入る。
外寸は三十六センチ。カウンターの幅四十センチに、周囲の余白を含めてぎりぎり収まった。
本体を選ぶとき、外寸から余白を引いた数字で考える。うちはこれを一台目で学んだ。
受け皿と網が、両方外れる
掃除のしやすさが、そのまま清潔さになる。
共用だと、面倒な手入れは誰もやらない。
外して水につけるだけ、という手軽さが、続く条件だった。
扉が水平に開く
熱いものを取り出すとき、手首が当たらない。
扉の上に一度置いて、そこから皿に移せる。
うちの住人が火傷をしなくなったのは、この機種に替えてからだった。
先週の朝、キッチンにミオが立っていた。
食パンを二枚、庫内に並べて入れる。つまみを回して、三分。
焼き上がりの音がして、扉を水平に開けた。湯気と一緒に、香ばしい匂いが立ち上がる。
「二枚同時って、こんなに楽なんだ」
彼女は受け皿を引き出して、シンクの上で軽く振った。細かいくずが、ぱらぱらと落ちていった。

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