壁紙が、四角く茶色くなっていた
共用キッチンの模様替えをした日。
トースターを動かしたら、その後ろの壁が変色していた。本体の背面とほぼ同じ大きさで、薄茶色の四角。
指でこする。落ちない。爪を立てると、表面がわずかに硬くなっている感触。
(これ、熱で焼けてるやつだ)
壁とトースターの隙間は、たぶん二センチもなかった。誰も測らずに置いて、二年が過ぎていた。
退去の話が出るたびに、あの四角が頭をよぎるようになった。
シェアハウスの共用キッチンで、三年かけて置き場所を三回変えている。
毎回、何かしらの問題が出た。今の位置に落ち着くまでの経緯を書く。
説明書に、必要な距離が書いてある
まずここを確認する。
上方十センチ、背面五センチ、側面五センチ。こうした数字が、取扱説明書に明記されている。
機種によって違う。上方が二十センチ必要なものもある。
うちは、この記載を誰も読んでいなかった。壁が焼けて初めて調べた。
本体の大きさではなく、この余白を含めた面積で置き場所を考える。
熱は、三方向に出る
上、後ろ、横。
最も熱いのは上部。次に背面。側面は比較的低いが、それでも触れないほどにはなる。
前面は扉があるので、熱は出るが方向が限られる。
この分布を頭に入れると、置いてはいけない場所が見えてくる。
置いてはいけない場所
吊り戸棚の真下
最も避けたい配置。
上部から出た熱が、戸棚の底板に当たり続ける。
木製の棚板は、長期間熱を受けると変色する。乾燥して割れることもある。
うちは一時期、この位置に置いていた。半年で、棚板の裏が黄色く変わった。
戸棚の下に置くなら、上方に二十センチ以上の空間を確保する。それが取れないなら、別の場所を探す。
冷蔵庫の上
狭いキッチンで、つい選びたくなる場所。
冷蔵庫の天板が、耐熱でない機種がある。放熱の妨げにもなる。
冷蔵庫の説明書に、上に物を置いていいか書かれている。うちの機種は、耐熱の天板だったので置けた。
ただ、高さの問題が出た。目線より上でパンを取り出すと、熱いものが顔の高さに来る。
腕を伸ばした状態で、熱い皿を持つ。危ない動作だった。
電子レンジの上
これも狭いキッチンでよくある配置。
電子レンジの天板は、放熱のために使われていることがある。塞ぐと、レンジ側が過熱する。
うちは一度これをやって、電子レンジの動作が不安定になった。位置を変えたら戻った。
専用のラックを使って、あいだに空間を作るなら成立する。
カーテンや、紙が近い場所
言うまでもないが、実際に起きる。
窓際に置いたトースターの近くで、カーテンが風で揺れた。
うちの住人が、レシピを印刷した紙をトースターの横に置いていた。使い終わったあと、紙の端が薄く茶色くなっていた。
可燃物との距離は、説明書の数字より広く取る。
置き場所を、どう探すか
必要な面積を、先に計算する
本体の幅に、左右五センチずつを足す。奥行きにも背面の余白を足す。
高さは、本体の高さに上方の余白を足す。
うちのトースターは、幅三十六センチ、奥行き三十二センチ、高さ二十三センチ。
必要な面積は、幅四十六センチ、奥行き三十七センチ、高さ四十三センチになった。
この数字で、キッチンの空きスペースを探す。
カウンターの端は、避ける
熱いものを扱う機器が、通路に近い位置にあると危ない。
うちは、通路側の端に置いていた時期がある。住人が体をぶつけて、本体が動いた。
壁側に寄せる。ただし、壁との距離は確保する。
コンセントの位置も、この段階で考える。
専用のラックを使う
キッチンに余白がない場合の解決策。
上下に空間のあるラックを置いて、その中段にトースターを置く。
上下が開いているので、熱がこもらない。
うちは金属製のラックを使っている。棚板が網状で、通気が確保される。
木製の棚板だと、熱で傷む。素材を選ぶ。
壁を守る方法
耐熱のパネルを立てる
壁との距離が取れない場合。
ステンレスやアルミの板を、壁とトースターのあいだに立てる。
熱を反射して、壁に届く量を減らす。
うちは、コンロ用の油はねガードを流用した。千円ほど。
板と壁のあいだにも隙間を作る。密着させると、板が熱を伝えてしまう。
壁の温度を、触って確認する
使用中に、壁に手を当ててみる。
温かいと感じたら、距離が足りていない。
うちは今の位置に決めたあと、一度この確認をした。十分使ったあとで、壁は常温のままだった。
季節によって変わる。夏場にもう一度確認する。
変色したら、早めに対処する
軽い変色なら、中性洗剤で落ちることがある。
うちの四角い跡は、落ちなかった。熱で素材そのものが変質していた。
気づいた時点で位置を変える。放置すると、進行する。
賃貸なら、退去時の請求につながる。
使い勝手との、両立
取り出す動作を、想像する
熱いものを取り出して、どこに置くか。
トースターの隣に、皿を置くスペースが要る。
うちは最初、その空間を考えていなかった。焼けたパンを持ったまま、置き場所を探すことになった。
本体の横に、四十センチほどの平面を確保する。
扉が開く方向
扉が下に開く機種が多い。
開いた扉が、通路にはみ出さないか確認する。
うちは通路側に扉が開く配置だったとき、住人が扉に足をぶつけた。熱い扉に。
壁を背にして、扉が室内側に開く配置が安全だった。
コンセントの位置と、コードの長さ
延長コードを使わずに届く位置に置く。
消費電力が大きいので、タップを介すると容量の問題が出る。
うちは、壁のコンセントの真横に置いている。コードが最短で済む。
コードが本体の背面や側面に触れると、被覆が熱で傷む。コードの取り回しも確認する。
共用キッチンでの、追加の問題
使う人が、位置を変える
うちで実際に起きた。
作業スペースが欲しくて、トースターを壁際に押し込む住人がいた。
翌日、壁との距離がゼロになっていた。
床にテープで印をつけた。この線の内側に戻す、という決まり。それ以降、動かなくなった。
上に物を置かれる
狭いキッチンだと、平らな面はすべて物置になる。
うちは、トースターの上に食パンの袋が置かれていた。使ったあと、袋が縮んでいた。
上に物を置かないよう、住人に伝える。あるいは、上に物が置けない形状のラックを使う。
使用中かどうかが、分かりにくい
共用だと、誰かが焼いている最中に近づくことがある。
熱くなっている本体に、うっかり触れる。
うちは、使用中に扉が赤く光る機種を選んだ。遠目にも分かる。
そうでない機種なら、使う人が一声かける。
三年で落ち着いた配置
シンクから離れた、壁際
水がかかる場所から離す。
シンクの横だと、洗い物のときに水が跳ねる。
うちは、シンクから一メートル以上離れた位置に移した。
コンロの隣も避けた。調理中の油が飛ぶ。本体に付着すると、次に加熱したとき匂いが出る。
床から八十センチほどの高さ
カウンターの高さ。
低すぎると、屈んで取り出すことになる。高すぎると、熱いものが顔の高さに来る。
うちの今の位置は、腰よりやや上。取り出すとき、腕を水平に動かすだけで済む。
この高さに落ち着いてから、火傷の話が出なくなった。
背面に、十センチ
説明書の指定は五センチだった。
うちは倍の十センチを取っている。壁が焼けた経験があるので。
掃除のときに手が入る。パンくずが落ちても、拾える。
この余白は、無駄ではなかった。
先週、キッチンでミオがトースターの後ろに手を入れていた。
壁に手のひらを当てて、しばらく動かない。
「常温ですね」
本体は、床のテープで引いた線のちょうど内側に収まっていた。壁は、白いままだった。

コメント