庫内が、青白く光った夜
バチッ。
電子レンジの中で、何かが弾けた。青白い光が、扉のガラス越しに二回、三回。
慌てて止めて開けたら、焦げくさい空気がふわりと流れ出してきた。喉の奥が、勝手にごくりと鳴る。
ミナミさんの誕生日会。ケーキを食べたあと、冷めたピザを温め直そうとしただけです。それだけ。
「今の、光ったよね」
コウさんの声が、やけに静かだった。しばらく誰も動かなかった。
犯人は、金色のフチだった
使っていたのは、パーティー用の紙皿。白地に、細い金色の線がぐるりと入っているやつ。かわいい。売り場でみんな迷わず手に取るタイプです。
あの金色、印刷じゃありません。金属なんですよ。
電子レンジのマイクロ波は、金属に当たると跳ね返って一点に集まる。そこで放電が起きる。バチッの正体は、それ。
飾りのある紙皿は、そもそも温めるために作られていない。祝う道具であって、加熱する道具ではなかった。
紙皿は一種類じゃない
ここが、みんなが取りこぼしている部分。
紙皿という一語でまとめられているけれど、中身はまるで別物です。無地の紙だけのもの。表面に薄いフィルムを貼ったもの。金や銀を蒸着したもの。水を弾く加工がしてあるもの。
同じ棚に、レンジに入れていい皿と、絶対に入れてはいけない皿が、仲良く並んでいる。値段もほとんど変わらない。
見分ける方法は、ひとつしかありません。
紙皿の裏に、答えは書いてある
電子レンジ対応と書いていないなら、入れない
判断は、これだけで足ります。表示があるなら使う。ないなら、使わない。
たぶん大丈夫でしょ、で入れた人が、庫内を光らせている。
うちは事件の翌週、ストックしていた袋を全員で裏返しました。五十枚入りの安いやつには、何も書かれていなかった。
(三年も使っていて、一度も裏を見たことがなかった)
銀色と金色は、問答無用で外す
フチに金や銀のラインが入った皿。全面が銀色に光る皿。惣菜が乗っているアルミのトレー。
この三つに、迷う余地はありません。
飾りが小さいから平気、という理屈も通らない。細い線ほど電気が一点に集まって、かえって火花が出やすくなる。
つるつるした表面の正体
無地の紙皿を指でなぞると、少しつるっとする。汁物を乗せても染みてこないのは、水を弾く膜が貼ってあるから。
その膜、ポリエチレンであることが多いんです。
百度を少し超えたあたりから、やわらかくなる。もっと上がれば、溶ける。
紙は焦げていないのに、表面だけがべたつく。あの気持ち悪さ、味わった人ならわかるはず。
燃えるかどうかは、皿ではなく食べ物が決める
水分があるうちは、百度で止まる
電子レンジは、水を揺らして熱を生む装置です。
だから水分をたっぷり含んだ食べ物を温めている間、温度は百度あたりで頭打ちになる。ご飯、汁物、蒸し野菜。この手のものなら、皿がそこまで熱を持つことはない。
紙皿自体は水分が少ないので、マイクロ波をほとんど吸いません。だから素手で持てる。皿は冷たいのに中身が熱い、あの不思議な感触には、ちゃんと理屈があった。
油が乗った瞬間に、話が変わる
問題は、油。
油は水と違って、百度では止まりません。二百度を軽く超えていく。から揚げの衣、ピザのチーズ、餃子の焼き目、カレーの表面。あの部分が、局所的にじりじりと温度を上げる。
接している紙は、焦げる。表面のフィルムは、溶ける。
紙皿がダメになるのは、皿の性能というより、上に乗せたもののせいなんですよ。
空のままチンするのが、いちばん危ない
何も乗せずに紙皿だけを回す。乾かそうとして、あるいは食べ物を入れ忘れて。
これが最悪の使い方。
熱を逃がす水分がないので、行き場のないエネルギーが全部、紙に向かう。焦げて、煙が出て、そこから先は運まかせ。
温めすぎ、長すぎ、中身が少なすぎ。事故の原因は、この三つにほとんど集約されます。
何分までなら平気か、という問いへの答え
時間で線を引くのは、正直むずかしい。中身の水分量と量で、まるっきり変わるので。
それでも目安を言うなら、対応品の紙皿で、水分のあるおかずを、三十秒から一分。ここまで。
二分をひと息に回すのは、やめておいたほうがいい。
から揚げやピザといった油の多いものは、対応品であっても、紙皿で温めるのは向いていません。ここは素直に諦める。
底が抜けた、から揚げの話
皿がテカって、指が沈んだ
私がやりました。前の日の残りのから揚げを、紙皿のまま二分。
取り出そうとしたら、底が妙にやわらかい。指を当てたところが、ぬるっと沈みました。
持ち上げた瞬間、油の染みた部分から底が抜けて、から揚げが三つ、庫内に転がり落ちた。
油で透けた紙が、あんなに簡単に破れるとは。(拭きながら、ちょっと笑ってしまった)
溶けたものは、どこへ行ったのか
気になるのは、そこでしょう。
表面のフィルムが溶けたなら、行き先は食べ物のほうです。から揚げの底面が、妙にてらてらしていた。
食べたら即どうこう、という話ではない。ただ、進んで口に入れたいものでもありません。
その一皿を捨てるかどうか、レンジの前で数秒迷った。あの数秒は、もういらない。
洗い物を減らしたいだけなら、紙皿をレンジに入れなくていい
温めは耐熱皿、盛るのは紙皿
なぜ紙皿ごと温めようとするのか。洗い物を増やしたくないから。理由は、それだけのはずです。
なら、順番を入れ替えればいい。
耐熱の皿で温めて、熱くなったものを紙皿に移す。
洗うのは、その皿一枚だけ。しかも温めただけの皿は、油が焼き付く前だから、水でさっと流して終わり。人数が何人いようと、シンクに残るのは一枚。
この単純な事実に全員が気づいた日、うちの宅飲みは静かに形を変えました。
耐熱皿なら何でもいい、わけでもない
軽くて割れないメラミンの食器。あれは電子レンジに入れられません。加熱すると変形するし、樹脂そのものが熱を持つ。
使えるのは、ガラス、陶器、そして電子レンジ対応と書かれた樹脂。
紙皿を避けたつもりでメラミンに乗り換える。この人、けっこういます。逃げた先に、同じ落とし穴が掘ってある。
ラップ一枚を敷く、もっと雑な手
耐熱皿を出すのすら面倒な夜には、皿にラップを広げてから食べ物を乗せる。食べ終わったら、ラップだけ丸めて捨てる。
美しくはない。でも、日曜の夜の自分には、じゅうぶんやさしい方法でした。
どうしても紙皿ごと温めるときの、最低ライン
三十秒ずつ、扉の前を離れない
対応表示のある紙皿でも、まとめて長く回すのはやめておく。
三十秒、覗く、また三十秒。面倒に見えて、これがいちばん速い。焦がしてから庫内を掃除するほうが、比べものにならないくらい時間を食うので。
耐熱皿に乗せてから入れる
紙皿を、耐熱の平皿の上にそのまま置く。
それだけで、万が一底が抜けても、被害はそこで止まります。庫内にこぼれた油を拭く作業から解放されるだけでも、やる価値はある。
地味な保険。けれど、うちではこれが定着しました。
紙コップも、同じ話です
紙コップの内側にも、あのフィルムが貼ってあります。
熱いスープを注ぐぶんには問題ない。ところが、紙コップごとレンジで温めると、内側が溶けることがある。
紙だから安全、という思い込みは、皿でもコップでも同じように裏切られる。
この家で決めた、紙皿の使い方
買うときに、一秒だけ裏を見る
売り場で袋をひっくり返して、電子レンジ対応の文字を探す。
それだけで、ここに書いたことの八割は起きません。値段はほとんど変わらない。変わるのは、その一秒を払うかどうかだけ。
金や銀のフチは、見た瞬間に棚へ戻す。祝いの席で庫内を光らせたい人はいないでしょ。
便利さは、たいてい一手間の外側にある
洗い物をゼロにしようとして、レンジを光らせて、から揚げを落として、最後に庫内の掃除で三十分。
あの夜の私たちが、やっていたのはそういうことでした。
今は、温める皿を一枚だけ出す。熱くなったら紙皿に移して、テーブルに並べる。誰も慌てないし、誰も光らない。
ミナミさんの次の誕生日は、フチに何もついていない紙皿で祝います。

コメント