三日で、ミストが饐えたにおいになった
枕元に置いた小さな装置から、白い霧がすーっと立ちのぼる。最初の夜は、それだけで満たされた気分でした。
異変は、三日目。
顔に届くミストが、なんだか、酸っぱい。饐えた雑巾のような、かすかなにおい。鼻を近づけて、ようやく気づきました。
これ、におってる……水を替えてないからか
百均で買ったペットボトル加湿器を、枕元で使い始めて三日目の朝でした。
数百円の手軽さに、飛びついた
きっかけは、単純です。
冬になって、喉がいがらっぽい。朝起きると、口がからから。加湿器が欲しいけれど、ちゃんとしたものは数千円する。
そんなとき、百均のレジ横に、あの小さな装置があった。ペットボトルに挿すだけ。数百円。試さない理由が、なかったんです。
加湿量より先に、においが来た
百均のペットボトル加湿器を検索する人は、効果を気にします。ちゃんと潤うのか、と。
でも、実際に使ってみて、最初にぶつかるのは、効果の話じゃない。
衛生です。加湿量が足りるかどうかの前に、タンクの水が傷むほうが、先に来る。ここを知らずに使うと、私のように三日目でにおいと対面します。
そもそも、これは何式なのか
超音波で、水を弾き飛ばす仕組み
あの手の小型加湿器は、ほとんどが超音波式です。
水の中で、目に見えない細かい振動を起こして、水を粒にして弾き飛ばす。あの白い霧は、細かい水の粒が空中に舞っている状態です。
仕組みが単純で、小さく作れて、電気もあまり食わない。だから、数百円で作れる。
加熱しない、ということの意味
ここが、あとで効いてくる重要な点。
超音波式は、水を温めません。振動で弾いているだけなので、水は冷たいまま霧になる。
お湯を沸かして湯気を出すタイプなら、加熱の過程で雑菌が死ぬ。でも、超音波式は加熱しない。つまり、水の中にいるものが、そのまま霧に乗って出てくる。この違いが、衛生の落とし穴の正体です。
部屋は潤わない。最初にそう言っておく
先に、はっきりさせます。
百均のペットボトル加湿器で、部屋全体を潤すのは、無理です。
ミストの量が、少ない。六畳の部屋の湿度を上げようとしても、焼け石に水。乾燥した広い空間を、この一台でどうにかしようと期待すると、確実にがっかりします。ここは、割り切ってください。
最大の落とし穴は、雑菌をそのまま撒くこと
タンクの水は、一日で濁り始める
ペットボトルに入れた水は、思っている以上に早く傷みます。
常温で置かれた水は、一日も経てば、雑菌が増え始める。ましてや、装置の振動で常にかき混ぜられ、空気に触れている。傷むスピードは、コップの水より速い。
私の三日目のにおいは、まさにこれ。タンクの中で、雑菌が繁殖していました。
汚れた水が、霧になって肺へ
ここが、いちばん伝えたい部分です。
超音波式は、水を加熱せずに霧にする。つまり、雑菌が増えた水を、そのまま細かい粒にして、空中に撒いている。
その霧を、あなたは顔の近くで吸い込んでいる。饐えたにおいがするということは、雑菌ごと吸っているということ。想像すると、ぞっとします。
加湿器肺炎という、地味に怖い話
汚れた加湿器のミストを吸い続けると、体に不調が出ることがあります。
加湿器が原因で起きる肺の炎症は、加湿器肺炎と呼ばれることがある。せきや発熱が続き、風邪と間違われやすい。
潤すために使った装置で、かえって体調を崩す。この皮肉を避けるには、水の管理が絶対条件になります。安いから雑に扱っていい、では済まないんです。
それでも、勝てる使い方がある
顔の近くで、自分だけを潤す
部屋は潤せない。では、使い道がないのか。
そんなことは、ありません。発想を変えればいい。
部屋全体ではなく、自分の顔まわりだけを潤す。パーソナルな加湿器として使う。この割り切りができれば、百均の一台は、ちゃんと戦力になります。
デスクの、手元三十センチ
いちばん相性がいいのが、デスクワーク中の手元。
キーボードの脇に置いて、自分の顔に向けてミストを飛ばす。三十センチほどの距離なら、霧はちゃんと届く。
乾燥したオフィスで、目や喉のいがらっぽさが、少し和らぐ。広い空間を潤すのは無理でも、自分の周りの空気だけなら、届く範囲です。
喉と、目と、肌の乾燥に効かせる
狙いを、自分の粘膜と肌に絞る。
朝起きたときの喉の乾き。パソコン作業での目の乾燥。頬のつっぱり感。この、体の局所的な乾燥になら、手元の一台が効きます。
湿度計の数字を上げる装置ではなく、自分の顔まわりの快適さを上げる装置。そう捉え直すと、数百円は安く感じます。
ペットボトルにも、向き不向きがある
炭酸用の、厚くて丈夫なボトルを
挿すペットボトルは、何でもいいわけではありません。
炭酸飲料が入っていたボトルは、厚くて丈夫。装置の重さを支えても、へこみにくく、倒れにくい。これが向いています。
逆に、水や薄いお茶のボトルは、ぺらぺらで柔らかい。装置を挿すと、不安定になる。土台がぐらつくと、倒れて水浸しの原因になります。
お茶やジュースの入っていたものは避ける
中身にも、注意が要ります。
お茶やジュースが入っていたボトルは、洗っても糖分や成分が残りやすい。そこに水を入れて霧にすれば、雑菌の餌を撒くことになる。
使うなら、もともと水が入っていた、きれいなボトル。あるいは、しっかり洗ったもの。この一手間で、におうまでの時間が変わります。
口径が、合わないことがある
地味な落とし穴。ボトルの口のサイズです。
装置の差し込み口には、規格があります。一般的なペットボトルの口には合うように作られていますが、輸入品の飲料や、特殊な形のボトルだと、合わないことがある。
買う前に、家にあるボトルの口で試せるか、パッケージの対応サイズを確認する。合わないボトルに無理やり挿すと、隙間から水が漏れます。
水浸しにしないための、置き場所
ミストの真上に、書類を置かない
超音波式のミストは、細かい水の粒です。
噴き出した霧は、周囲に落ちていく。ミストが当たる範囲に、紙の書類やノートパソコンを置くと、じわじわ湿ります。
気づいたら、大事な書類がふやけていた。デスクで使うなら、霧の届く先に何があるか、置く前に見てください。
木の机は、白く輪染みになる
これは、実際にやりました。
木の机の上で使っていたら、装置の周りが、白く輪っかに変色していた。ミストが落ちて、木に染み込んでいたんです。
木製の家具の上で使うなら、下に受け皿やタオルを敷く。あの白い輪染みは、一度つくと、なかなか取れません。
倒れる前提で、置き方を決める
ペットボトルは、軽い。上に装置が乗ると、重心が上がって、倒れやすくなります。
腕が当たった。ケーブルを引っかけた。それだけで、ぱたんと倒れて、水がこぼれる。
倒れないように置くのではなく、倒れても被害が小さい場所に置く。電源タップの近くや、書類の上は避ける。この発想が、事故を防ぎます。
数百円を、無駄にしない管理
水は毎日替える。継ぎ足さない
これが、すべての基本です。
タンクの水は、毎日、新しいものに替える。減ったぶんを継ぎ足すのは、いちばんダメ。古い水に新しい水を足しても、雑菌はリセットされません。
使い終わったら、残った水は捨てる。次に使うとき、新しく入れる。あの三日目のにおいは、これをやっていれば防げていました。
週に一度、クエン酸で洗う
水を替えるだけでは、装置の内部に汚れが溜まります。
週に一度、クエン酸を溶かした水で、装置とボトルを洗う。振動する部分に付いた水垢や、ぬめりを落とす。
ここを掃除しないと、いくら水を替えても、汚れの供給源が装置の中に残り続ける。数百円だからと使い捨て感覚で放置すると、雑菌の温床になります。
水道水を使う理由
入れる水は、水道水がいい。
意外に思うかもしれませんが、水道水には、雑菌の繁殖を抑える成分がわずかに含まれています。ミネラルウォーターや浄水は、その成分がないぶん、かえって傷みやすい。
きれいな水のほうが良さそう、という直感は、ここでは逆。水道水を、毎日新しく。これが、いちばん傷みにくい使い方です。
この家で残った一台と、消えた三台
枕元で、朝まで喉を守る
うちのシェアハウスでは、一時期、住人がこぞって百均のペットボトル加湿器を買いました。四台。
そのうち三台は、部屋を潤そうとして、効果がないと、ひと月で消えました。一台だけ、今も現役です。
残った一台の使い方は、枕元。寝る前に水道水を新しく入れて、顔の近くに置く。朝、喉のいがらっぽさが、確かに減っている。部屋の湿度を上げるのではなく、寝ている間の自分の喉だけを守る。この割り切りが、当たりでした。
安さは、正しく使えば武器になる
百均のペットボトル加湿器は、部屋を潤す道具ではありません。ここを間違えると、必ずがっかりする。
自分の顔まわりだけを潤す、パーソナルな装置。そう捉えて、水を毎日替えて、週に一度洗う。この二つを守れば、数百円は、じゅうぶんに元が取れます。
安いから雑に使う、ではなく、安いからこそ正しく使う。あの饐えたにおいの正体を知ってからは、私は毎晩、水を替えています。枕元の小さな霧が、今朝も喉を守ってくれました。
もし使っていて、せきや発熱が長引くようなら、加湿器を疑って、一度使用をやめて医療機関で相談してください。潤すための道具で体を壊しては、元も子もないので。

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