洗面台の下の扉を開けたら、奥から柔軟剤のボトルがずらりと顔を出した。半分だけ残ったもの、キャップが固まりかけたもの、香りが好みに合わなくて放置していたやつ。共同生活だと、こういう「途中でやめた柔軟剤」がなぜか溜まっていく。手前の一本を持ち上げると、とろりと重い液体が中でゆっくり傾いた。
これ、どうやって捨てるんだっけ、ふと手が止まる。流しにジャーッといけばいい、と一瞬思って、そのままボトルの口をシンクへ向けかけた。……待った。この、ぬるっとした液体を、そのまま排水口に流していいものだろうか。
使いかけの柔軟剤が、戸棚の奥で渋滞していた
きっかけは、大掃除だった。洗面所の収納を整理していたら、忘れ去られた柔軟剤が何本も出てきた。香り違いを試して合わなかったもの、詰め替えを買いすぎて余ったもの。どれも中途半端に残っている。捨てるにも、その方法をちゃんと知らない自分に気づいた。
香りが合わなくて、放置していた数本
柔軟剤って、香りの好みがくっきり分かれる。よかれと思って買った花の香りが、部屋に置くとむわっと強すぎたりする。使う気が失せて、でも捨て方が分からないから、とりあえず戸棚の奥へ。そうやって住人それぞれの「合わなかった一本」が積み重なっていた。液体だから燃えるごみに直行、というわけにもいかなそうで、なんとなく後回しにしていた。(いつか調べよう、がずっと続いてたな)手前の一本を眺めながら、苦笑いが漏れた。
流せばいい、と手が動きかけた
いちばん自然に浮かんだのが、シンクに流す方法だった。液体なんだから、水と一緒に流れていくだろう。ボトルを傾けて、口を排水口へ向ける。あと少しで、とろりとした中身が銀色の穴へ吸い込まれるところだった。その寸前、頭のどこかが引っかかった。この、指にまとわりつくようなぬめり。ただの水じゃない。これを大量に流したら、排水管の中で何が起きるんだろう。手が、止まった。
排水口にそのまま流すのは、やめたほうがいい
結論から動くと、ためらったこっちの勘は正しかった。柔軟剤を排水口へドバッと流すのは、避けたい捨て方だ。ここは言い切る。詰まりと環境、両方に効いてくる。
とろみが、排水管の内側にへばりつく
柔軟剤のあのとろみは、そのまま流すと排水管の内側に残りやすい。水で薄まりきらないまま管を通ると、内壁に膜のようにまとわりつく。そこへ髪の毛や石けんカスが絡めば、詰まりの芯が育っていく。台所の油を流すと固まって詰まるのと、似た理屈だ。少量ならともかく、ボトル一本ぶんをそのまま注ぎ込むと、排水管にとってはなかなかの負担になる。(見えない管の中でヘドロ化してたら最悪だ)想像したら、流しかけた手が完全に止まった。
界面活性剤が、下水と自然に届く
もう一つ、環境の側面がある。柔軟剤には界面活性剤という、衣類を柔らかくするための成分が入っている。これを大量に流すと、下水処理の負担になり、処理しきれなかったぶんが川や海へ流れ出ることもある。脅すつもりはない。ごく普通に洗濯で使うぶんには、下水処理でちゃんと分解される範囲だ。問題なのは、余った原液をまとめて排水口へ捨てる時。薄まっていない濃い液体が一気に流れると、その負荷が跳ね上がる。使うのと捨てるのは、話が別なのだ。
少量なら、布や紙に吸わせて可燃ごみへ
ではどう捨てるのが正解か。残っている量が少しなら、いちばん手堅いのは、布や紙に吸わせて燃えるごみに出す方法だ。液体のまま捨てるのではなく、吸わせて固形物に近い状態にしてから捨てる。
いらない布や新聞紙に、染み込ませる
やり方は拍子抜けするほど簡単だ。使い古したタオルや、読み終えた新聞紙、キッチンペーパーを用意する。そこへ余った柔軟剤を少しずつ垂らして、じわっと染み込ませる。液体が紙や布にしっかり吸われたら、それをポリ袋に入れて口を縛る。あとは自治体の可燃ごみのルールに沿って出すだけ。とろみのある液体をそのまま袋に入れると、袋の中で漏れたり、収集の途中でこぼれたりする。吸わせてしまえば、その心配がぐっと減る。牛乳パックに丸めた新聞紙を詰めて、そこへ染み込ませる手もある。
大量にあるなら、少しずつ分けて出す
問題は、ボトル何本ぶんもある場合だ。一度に大量の柔軟剤を布に吸わせようとしても、吸いきれずにあふれる。こういう時は、焦らず何回かに分けるのが賢い。一度のごみ出しで無理に全部を処理しようとせず、可燃ごみの日ごとに少しずつ吸わせて出していく。急いでシンクに流したくなる気持ちは分かる。でも、詰まりを直す手間や費用を思えば、数回に分ける地道さのほうが、結局は安上がりだ。(一気に片づけたいけど、ここは我慢だな)戸棚の渋滞は、じわじわ解消していけばいい。
捨てる前に、自治体のルールを一度だけ確認する
ここで大事な但し書きを挟む。ごみの分け方は、住んでいる地域によって細かく違う。全国共通の唯一の正解、というものが実はない。
液体ごみの扱いは、地域でばらつく
柔軟剤のような液体を、可燃ごみとして出していいのか。この扱いが自治体ごとに分かれる。布に吸わせれば可燃ごみでOKという地域が多い一方で、少量なら水で十分に薄めて流してよい、と案内している地域もある。逆に、液体状のものの出し方を細かく指定しているところもある。だから、捨てる前に自分の住む市区町村のルールを一度だけ確かめておく。役所のサイトや、配布されるごみ分別の冊子に、たいてい書いてある。ここを確認しておけば、間違った捨て方で悩まずに済む。
ボトルの分別も、忘れずに
中身を捨てたら、次はボトルそのものだ。空になった容器は、プラスチックの資源ごみとして回収される地域が多いが、これも自治体しだいで分け方が変わる。軽く中をすすいでから、指定の分別に出す。ポンプ式のキャップは、本体と素材が違って別扱いになることもある。中身とボトル、この二つを分けて考えると、迷いが減る。せっかく中身を正しく処理しても、容器を適当に捨てては片手落ちだ。詰め替え用のパウチも、同じように中身を吸わせてから、袋は指定の分別へ回す。
そもそも、捨てずに使い切る道もある
捨て方をあれこれ考えてきたが、いちばんきれいな解決は、捨てないことだ。香りが合わずに残った柔軟剤も、洗濯以外の使い道がある。戸棚の渋滞を、消費で解消してしまう手だ。
掃除の仕上げに、少し使ってしまう
柔軟剤には、静電気を抑えてほこりを寄せつけにくくする働きがある。これを掃除に回す。バケツの水に数滴だけ溶かして、その水で床を拭くと、拭いたあとにほこりが付きにくくなる。網戸や、テレビの裏のほこりが溜まりやすい場所を拭くのにも向く。香りが強すぎて洗濯には使えなかった一本も、掃除の水に薄めて混ぜるくらいなら、ほのかに香る程度で心地よかったりする。捨てるはずだった液体が、部屋のほこり対策に化ける。
拭き掃除や、下足まわりの消臭に回す
玄関のたたきや、靴箱の中を拭くのにも使える。柔軟剤の香りが、こもりがちな下足まわりのにおいをやわらげてくれる。ぞうきんを薄めた柔軟剤の水で固く絞って、さっと拭く。ふわっと残る香りが、玄関の空気を軽くする。ただし、香りの好みは人それぞれだから、共有スペースで使う時は住人にひとこと確認したい。使い切ってしまえば、捨て方に頭を悩ませる必要そのものが消える。合わなかった香りにも、最後の活躍の場があるわけだ。
結局、捨て方の正解は流さないこと
柔軟剤をどう捨てるか。散々調べて行き着いた答えは、シンプルだった。排水口にそのまま流さない。これに尽きる。少量なら布や紙に吸わせて、地域のルールに沿って可燃ごみへ。大量なら数回に分けて、地道に処理する。そして、そもそも掃除に回して使い切れば、捨てるという工程自体がなくなる。とろみのある液体を安易に流した先で待っているのは、見えない排水管の詰まりと、下水への余計な負担だ。あの時、シンクへ向けた手を止めてよかった。
流さず吸わせる、それだけで後腐れがない
今、洗面台の下の渋滞は、だいぶ解消された。合わなかった花の香りの一本は、掃除の水に少しずつ溶かして使い切った。残りわずかだったものは、新聞紙に吸わせて可燃ごみへ出した。空になったボトルは、すすいでプラスチックの資源ごみに回した。排水口には、一滴も流していない。捨て方が分からずに戸棚の奥で眠っていた柔軟剤たちは、流されるのではなく、吸われるか使われるかして、静かに片づいた。ぬるっとした液体をシンクに向けかけたあの瞬間に一度立ち止まったことが、詰まりの悩みも環境への後ろめたさも、まとめて回避させてくれた。

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